”Ould Bladi” by Cheba Maria
この人は何年か前にチュニジア民謡の「SIDI MANSOUR」をライ・ミュージックにアレンジしてアラブ圏でヒットさせていて、そのアルバムは持っていたはずなんだけど、どこを探しても見つからない。気に入っていたアルバムだから売り払うはずはないし、どこにもぐりこんじゃったのかなあ?まあ、所有する音盤の数が多過ぎるのが問題と言うのは分かっているのだが。
で、その当時の彼女は”モロッコ出身のライ歌手”という紹介のされ方をしていた。このアルバムでもその実力を遺憾なく発揮し、野太い声でマグレブ風情のヤクザなコブシを全開に吠えまくっている。
それにしても、今回の作品はどう紹介されるんだろう?ライももちろんありだが、レッガーダ調破格路線もありの異種格闘技を繰り広げているのであって。
打ち込みのリズムもあれば手打ちのパーカッションも暴れまくり、民俗楽器が鳴り渡るかと思えばシンセが駆け抜け、パワフルなリズムナンバーの合間には、グロッケンシュピールの響きも可憐なインストまで忍び込ませてある。音楽のスタイルも極ごとにコロコロ変わり、いやもちろん私に詳細な解説なんて出来るはずがないです。
意外だったのは、ほぼマリアとは連名の扱いで参加しているDJ YOUCEFなる人物の存在。聴く前は「なんだこいつは」と邪魔になりそうな気がしていたのだが、逆だったのだ。彼のとぼけたベルベル語(?)のラップなど始まると、「待ってました!」と声をかけたい気分。
どちらかと言えば本格派の歌唱を聴かせるCheba Mariaのような人はむしろ、このような良い意味で滅茶苦茶なサウンド展開の中では、ともすれば浮いてしまう可能性もあるのであって、そこを彼は上手い具合に彼女を大混乱のど真ん中に誘い込む道化師の役割を演じているのではないか?
などといっている間にもCDを何度も聞き返してしまっていて、しかも繰り返すほどにこのアルバムを聴くことの快感の度合いも増すのである。
力強いリズム、意表を衝くサウンド展開、そして何よりディープなディープなCheba Mariaの歌声。それらが渾然一体となって舞い踊るさまはまさしく、”爆発したオモチャ箱”と言えるだろう。一晩中でも遊べる。