”台湾歌古早曲”by 黄乙玲
台湾演歌のベテラン、黄乙玲がしっとりと台湾の古謡を歌った、切ない一枚。これは良いです惚れました。
収められている曲、一つ一つの来歴など、もちろん知らない。歌詞カードもないので、漢字の意味を辿って歌詞内容を推察することも出来ない。が、どの曲も、もう失われてしまった古き南の夢の小島、台湾の持っていた心優しいバイブレーションを懐かしく伝えてくる佳曲ばかりだ。
昔の江南名画に描かれたみたいな花鳥風月を宿す風景に揺籃されつつ、名もない巷の男女の切ない恋の一場面一場面が優雅に描かれて行く。
古謡とはいっても、それは堅苦しい博物館行きのものではなく、裏町の気のおけない飲み屋で傾ける酒盃に似合いの、生きた庶民の調べである。一杯機嫌で飲み交わし歌い交わす、春刻は値千金なり、か。
毎度言っている通り、いもしなかった場所に帰る事など出来ないのだが、そりゃ帰りたくなりますよ、昔の台湾に。歴史の過酷な波が、あの小島の岸に打ち付けられる、その前に時代に。日本人がこんなこと言っちゃいかんのかも知れないが。