”Silo-i”by Silva Hakobyan
なんといっても、ジャケに記された文字のインパクトだけで、ワールドもの好きの血は騒がずにはおれなくなるのだ、アルメニア・ポップス。
不思議な文字もあったものだなあ。アラビア文字とロシア文字の入り乱れたみたいな。まあ、その辺の地平にアルメニアという国があるんだからそれで当たり前なんだが、
その文化も、世界史の裏通りのようなど真ん中のような微妙なポジションで長い歴史を刻んできた国らしい、非常にユニークなものを持っているのだろう、こうしてかの国のポップスを聴く限り。
もはやこの分野で、伝統楽器や民俗音楽の要素と最新の電子楽器の交錯する音作りは珍しくもない。独特の巻き込むような旋回系のスイング感を持つリズムがまず打ち寄せて来て聴く者の足を払う。東方の香りを濃厚に漂わせる哀感を含んで、納豆のような糸を引きつつ流れて行くメロディ。
バルカンのようでバルカンでなく、アラブのようでアラブではない。なんとも正体のつかめないアルメニアのエキゾチシズム。たとえば東欧などでは「イスラム文化とキリスト教文化の衝突」なんて”テーマ”が見えてくるのだが、ここでは何と何がぶつかり合っているのかも、良く分からない。もう一度、地図でアルメニアの位置を確認する必要があるのだろう。
冒頭に、なんだか場違いなボサノバみたいな曲が収められている。こちらの思い入れをあざ笑うように、現地ではこんな「それ、面白いか?」と首をかしげるような意外なものが今ウケとなっている事も、ワールドミュージック道追求の課程ではよくあること。この場合は、ボサノバにしてはなんかもっちゃりして、かの音楽が売りにしている洗練や退廃の影が薄いあたりに注目したい。そういえばアルメニアの音楽、アップテンポで疾走する曲はあっても、あまり尖った印象を受けないって気がする。これが国民性だろうか。
後半、8曲目でバックにブラスバンドが登場するあたりで音の民俗性が倍増しとなり、ますます面白くなってくる。その後もブラスは鳴り渡り、差し挟まれる宴会調の手拍子と掛け声も濃厚に民俗の血を漂わせ、Silva女史の歌声もアク強く、ユーラシア大陸ど真ん中の小さな大国の栄華を讃える。まだまだ面白い音楽はあるねえ。