ワールドミュージック町十三番地

上海、香港、マカオと流れ、明日はチェニスかモロッコか。港々の歌謡曲をたずねる旅でございます。

香港式冬日浪漫

2005-12-25 04:10:11 | アジア

 あの頃。と言ったって分からないでしょうが、あの香港が99年に及ぶ「借り物の時間」を終え、中国に、というか北京政府に”返還”されるその運命の時が数年後に迫っていた、そんな時期、私は心あるワールドミュージック・ファンに顰蹙買いながら、その香港のヴィヴィアン・チョウなる女性歌手のCDを集めていたのだった。
 ヴィヴィアン・チョウ。漢字で正式名を書けば”周彗敏”である。これを広東語で発音すればチュウ・ワイマンとなる。この発音で呼ばれるのを彼女はひどく嫌っている、などという噂を聴いたことがある。なぜですかなぜですか。知りませんが。この噂自体がどこまでほんとやら、みたいなものだけど。なんか好きだわ、この話。

 なぜ彼女のCDを集めるゆえに顰蹙など買うかと言えば、彼女が特に歌の上手い歌手でもないせいでしょうかねえ。実際、彼女は香港では当たり前の芸能人のありようである”歌う映画スター”だったのだが、まあそのルックスで女優としての評価の方が高かったのではないですかね、その唄の実力をあんまり褒める人はいなかった。
 そして私はといえば・・・まあ、こんなところでぶっちゃけ話もなんですが、私は彼女を”巨乳アイドル”として支持していたんですわ、いや、申し訳ない。でも実際、写真とか見るとねえ、なかなか・・・とはいえ、そんな次元の低いファンぶりも我ながら情けないような気もして、そのような”ジャケ買い事情”は公言しなかったんだ、当時は。
 まあでも、私のように”巨乳評価組”にしてみれば、彼女のようなキャラはむしろ歌なんか下手でいてくれたほうが、なんかリアルで按配がよろしい、みたいな気がしないでもなかったなあ。いやまあ、私のスケベ話など延々書いても意味ないですが。

 そんな彼女の、私が聞いた範囲ではの話ですが、いちばん好もしく感じられるアルバムがこの”冬日浪漫”であります。タイトル通り、冬の、それもクリスマスから正月へかけてあたりの感傷が歌われている。まあ、あんなにも南の香港における冬の日って、あんまり切実なものがイメージできないんだけど。
 でもそれなりに、曇りガラスの向こうをすべてのものを凍えつかせて渡って行く季節、時の流れ、そんなものの気配や、その中の人々の暮らし、喜怒哀楽などなどが、アクの強い広東語によるアメリカン・ポップスや日本のニュー・ミュージック(の、時代でした)のカバーなどを織り交ぜつつ、彼女のたどたどしい歌唱で描かれて行くのを聴くのは好ましいものでした。

 とうに中国に返還されてしまった香港。なんだかこちらとしても、たいした理由もなしに入れ込む気合のようなものを失ってしまって、結構好きだった香港ポップスを聴かなくなってしまったんだけど、ヴィヴィアン・チョウはどうしているんだろうなあ。あれから世界はダイナミックにその様相を変え、そんなローカルな芸能の話題などに振り向くこともせずに未踏の世界へ突き進んで行ってしまった。そんなこんなで成すすべもなく時は流れ、今年も暮れようとしている。そろそろ一年一度”冬日浪漫”を引っ張り出して聴いてみる時期だなあ。







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