ワールドミュージック町十三番地

上海、香港、マカオと流れ、明日はチェニスかモロッコか。港々の歌謡曲をたずねる旅でございます。

大盛りサイケデリック丼

2007-12-16 01:42:33 | ヨーロッパ


 ”Trip - Flip Out - Meditation”by ZWEISTEIN

 以前、テレビのバラエティ番組で、若手コメディアンがさまざまな意匠を凝らした球の中に入って感想を述べる、なんて”体験レポート”を披露していた。

 最初のうちは素通しの球に入って坂道を転がり落ちる、なんてものだったが、番組進行にしたがって凝ったものになって行き、最後には内部全面が鏡張りになった球の中に入って何が見えるかを語ると言う、江戸川乱歩の「鏡地獄」そのまんまと言った趣向となったので笑ってしまったのだった。

 結果は、乱歩が空想したように被験者が発狂するような運びにはならなかったが、背後から現われた”もう一人の自分”と対面したりの、なかなか不思議な映像が現出し、興味深いひとときだった。

 と言うわけで、何ヶ月かまえに手に入れて以来、もう何度も妙な思いを楽しませてもらっている代物、1970年のドイツに生まれたサイケ大作盤、ツヴァインシュタインの恐怖の3枚組CDであります。

 そもそもは69年、アイドル歌手としてそれなりの人気を持っていたスザンヌ・ドゥーシェなる女の子が妹のダイアンとともに、手に入れたばかりのカセットレコーダーを携えてミュンヘンの遊園地からプラハの教会へと、あちこち気ままに街の音をフィールド・レコーディングをして歩き、そいつを元にサウンド・コラージュ作品を作り上げた。(何でそんな事をしたかと言えば、それこそ時代の気分だろうねえ、騒乱の1969年だもの)

 出来上がった作品を偶然耳にした作曲家でありプロデューサーであったクリスティアン・ブルーンは、その異様な音像に衝撃を受けた。彼は自身の作・演奏になる曲をテープに付け加え、あるいはまた、適当に呼び集めた音楽的にはシロウトの若者数人の即興演奏を、テープの音の上にダビングした。

 こうして”ツヴァイシュタイン”なる架空のサイケ・バンドの3枚組の大作デビュー・アルバムが出来上がった。と言うかでっち上げられた。1970年、発売当時の実売数は6000枚程度だったそうだが、時の流れとともにこの作品は、スキモノの間で伝説化していった。
 そして今年、この作品を物好きにもCD再発するレコード会社が現われ、そしてスキモノの一人たる私は物好きにもそいつをさっそく買い込んで聴いてみた、という次第である。

 なにしろ3枚組の大作、しかも聴いても聴いても訳の分からん音世界が続く、という悪夢のアルバムなのであって、この代物に対して評論めいた事をあれこれ言ってみても仕方がないのだが、言える事を言ってみる。

 まず、歌やギターの演奏がまともに聞こえてくる、いわゆる”音楽的”な部分ほど、さすがに古びている感じはある。”ロックの前衛”の技術的部分は、彼らの、もうずっと先に行ってしまった。
 とは言え、その古び方がなかなか良い具合の”古きよきサイケ”の味を醸し出しており、その事はマインス・ポイントではないのだが。

 一方、姉妹のレコーディングによる、いわばツヴァイシュタインのサウンドの幹となる部分は、やはり異様な輝きをいまだ失っていない。おそらくはドラッグをバリバリにきめて彷徨する姉妹によって切り取られた街の音。それは要するに、変哲もない街頭のスケッチでしかないはずなのだが。はずなのだが。何なんだろうね、これは?

 非常に凝ったレコードジャケットであって、見開きのそれを広げて付録の鏡など使って中を覗き込むと、なにやら非常に精神世界的にはありがたいものが見える仕組みになっているようだ。まあ、さすがにそんな事をいちいちやってみる気持ちは、もう失くしてしまった当方であるのだが。

 おお、遥かなりサイケの大河よ。今はいずこを流れる?


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