ワールドミュージック町十三番地

上海、香港、マカオと流れ、明日はチェニスかモロッコか。港々の歌謡曲をたずねる旅でございます。

ディメトリオの”声の歌”

2007-03-10 01:23:42 | ヨーロッパ

 ”CANTARE LA VOCE”by Demetorio Stratos

 とりあえず、このアルバムのジャケ画をとくとご覧ください。天を仰いでハミングするアルバムの主人公、歌手のディメトリオ・ストラトスの喉にもう一つの口が開き、どうやらもう一つの歌を歌っているようですね。気持ち悪いですねえ。

 中に入っている音楽もこんな感じなんですよ。伴奏も何もなし、ただ歌手一人の声のみによるさまざまな声楽上の実験が収められている盤なんです。
 モンゴルのホーミーに影響を受けたんでしょうか、一度に二つの声を出してみたり、もともとディメトリオが探求していたギリシャの古典声楽に元ずく奇奇怪怪な発声法などなど、ともかく”どこまで人間の喉は妙な音を出せるか”に焦点を絞ったかのような不思議世界が展開されている。

 このアルバムを持ってる人なんてものは、思い入れでコレクションに加えているだけで、盤に針を落として音を聞いたりしませんな。こんなわけの分からない音楽、聴いたってしょうがないんだもの。
 でも、だからといってその盤を手放すことは決してない。むしろいとおしがって、レコード棚の一番良い場所にしまっておく。マニアのやることは、やっぱり尋常じゃありません。

 さらに、そんな聴きもしないアルバムを、アナログ盤だけではあき足らず、CD再発されたらそれもさっそく買い込んでるんだから、何を考えていることやら。まあ、そんな連中の一人が、かく言う私なんですが。

 このアルバムの主人公、ディメトリオ・ストラトスは70年代、イタリアで活躍した非常に個性的なプログレバンド、”AREA”の歌手であり、創造的エネルギーの源でした。
 アラブ~バルカンの民俗音楽とジャズロックが地中海独特の太陽パワーを炸裂させつつ、強力にバッテイングし燃え上がった”AREA”というバンドも素晴らしいバンドだったのですが、78年、中心人物のディメトリオが白血病で急死してのち、急速に失速して行きました。というか、バンドの魅力の相当部分をディメトリオが負っていたのだから、それも仕方がない。

 とはいっても諦め切れないファンたちは、ディメトリオが何枚かのソロ・アルバムを残している事を知ると、大喜びでそいつを買い込み。そして。「なんじゃこれは?」と呆れ返ったのです。その盤に収められていたのは、あの素晴らしかった”AREA”のサウンドとは似ても似つかない音楽だったからです。つまり上述の奇怪千万なる実験声楽。そんなソロ・アルバムばかり遺していったのですな、ディメトリオは。
 とは言え、これもまた敬愛するディメトリオの音楽であるのに違いはないのだから、無下には扱えない。

 ここで、我ながら自分の書いている文が可笑しくなってきたのだが、普通はこの”AREA”ってバンドの音楽について文章を書くところです。そのエネルギッシュにしてクリエイティヴな音楽をどれほど愛しているかについて、思うままに。だけど。
 この悲喜劇もまた、書き残しておくのも面白いと思ったのです。”AREA”の話は、何人もの人がすでに書いているしね。

 あの強烈な”AREA”のサウンドをもっともっと聴きたかったのに、何が悲しくて訳の分からん現代音楽もどきの実験声楽に付き合わねばならん、と言いたいところをグッとこらえてディメトリオの残した音源を買い集めるファン。それにしても一枚くらいは、かっての”AREA”のサウンドを彷彿、なんて盤を残しておいてくれても良かったのにねえ。
 いや、からかうような文章を書いてますが、私もそんなファンの一人であるのは間違いないんですから。



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1 コメント

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岸本力ロシア民謡 (tdash7)
2007-03-24 18:33:44
岸本力
つかれた太陽・ロシア民謡集
あります。
収録曲:行商人、トロイカ、ステンカラージン、
ヴォルガの舟歌、一週間、黒い瞳他(19曲)
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