ワールドミュージック町十三番地

上海、香港、マカオと流れ、明日はチェニスかモロッコか。港々の歌謡曲をたずねる旅でございます。

ボレロの畔にて

2010-07-01 04:55:20 | 南アメリカ

 ”Romanticas”by Devorah Sasha

 「なんかこの頃、こいつのブログ、更新のテンポが遅くなってね?」とお嘆きの貴兄へ。すんません、もはや夏バテみたいっス。暑いス。ダルいっス。マトモな、というか脈絡の立った事をする気に全然なれないっス、面目ない。
 こんなときは、この物憂い暑気の中を無為に過ごす身を、金子光晴翁の詩にあったが如く、「おこたりは美しきかりけれ」とかなんとか言って、痺れるほどの甘美さの中で、思い切り甘やかしてくれる音楽が良い。だから、こんなアルバムをふと思い出して何度も聞き返したりする。

 ベネズエラの実力派女性歌手が15年ほど前にリリースした、バラード集というかボレロばかり集めたアルバム。カリブ海沿岸の土地土地から集められた切ない恋歌ばかりを歌っている。ラテン世界ならではの、罪深いほどの濃厚な美学に磨きたてられた、溶け零れ落ちそうな甘さを含んで輝き流れる旋律たち。
 そいつをDevorah Sashaは、あえてさらりと爽やかに歌い流して行く。それがまた、切ないじゃないか。こちらの貧困なスペイン語の知識でも歌のタイトルの意味が読み取れる。月の涙。思い出。私の魂。午後の雨。月光。

 レコーディングがプエルトリコのスタジオで行なわれているのはなぜだろう?1960年代の世界的ラテンブームの際、人気を博していたメキシコの人気トリオ、トリオ・ロス・パンチョスのボーカリストがプエルトリコ人であったことなどに、ふと連想が行く。かのサルサの故郷の島は切ない恋歌の本場でもあるんだろうか。