ワールドミュージック町十三番地

上海、香港、マカオと流れ、明日はチェニスかモロッコか。港々の歌謡曲をたずねる旅でございます。

ビヤンカとロシアの夏

2008-10-16 03:14:15 | ヨーロッパ


 ”夏について”by ビヤンカ(Бьянка)

 ありゃりゃ。”夏について”ってタイトルだから夏に聞くつもりだったのに、この盤を買ったことさえ忘れていて、今頃引っ張り出す始末。
 昨年、デビュー盤の”ロシア・ポップスR&B”をこの場所でも取り上げたロシアのファンキー娘、ビヤンカ嬢の2ndアルバムがとっくの昔に出ていたんでした。相変らずエッチなヴィジュアルで嬉しい彼女でありますが、さて、今回は。

 なにやらリラックスしきった感触の、フェイク気味のオープニングに導かれて始まりましたるは、シンプルな、でもちょっぴり民俗調の響きがないでもない打ち込みリズムに乗ったビヤンカ嬢が、ラフな女声コーラスを従えて、前作よりさらにハスキー度を増した声で歌い上げる、”哀愁のロシア歌謡”チックなメロディ。

 目立たない形でバラライカやアコーディオンがオブリガートを奏でます。電気楽器はほとんど気にならない程度に後ろに下がり、アコースティックな響きが強調されたサウンドとなっています。
 前作の、まあ世界中、どこへ参りましても若い人々の流行りものとして聞くことの出来るであろう”R&Bっぽさ”はかなり後退し、全体のベクトルは相当に大きくロシア民族調へとハンドルを切ってますな。

 ひょっとして、本気でロシア独自のR&Bの地平を切り開こうとか志を固めたのではないかなんて思ったりしますが、まあ、なんの資料もないんで、その辺は分かりませんがね。
 この、アコースティックでスカスカ気味のサウンドに乗りシャウトするビアンカ嬢の息使いの狭間からロシアの土の匂いが伝わってくる、みたいな音の手触りは相当に良いです。

 この辺はビアンカ嬢の好みが反映されているのか、それともプロデューサーの意向なのか、そして営業的にそれが成功しているのか、この辺もまったく分からないんだけど、こちらの都合を言えば、この路線で大いに行って欲しい。というか、こんなに私好みの音楽をやってくれるようになるとは思わなかった。

 ともかくイメージは曇天。なにやら迷子みたいな佇まいで、でもやっぱりエッチな衣装は身にまとい、空き地に佇むビヤンカ嬢の姿が音の向こうに浮んできます。
 彼女の髪をなびかせながら吹きつける風が運んでくるのは、遠くの荒原の枯れ草の匂いだったり、大都会からの煤けた工業地帯の匂いだったりします。
 なんとなく行き所のないやるせなさみたいなものがひとしきりわだかまり、そして消えてゆく短いロシアの夏だったりするのでした。