ワールドミュージック町十三番地

上海、香港、マカオと流れ、明日はチェニスかモロッコか。港々の歌謡曲をたずねる旅でございます。

ベイルートの夜

2008-10-06 01:22:22 | イスラム世界


 ”KHALAS SAMAHET ”by NAWAL EL ZOGHBI

 当方、アラブ圏の音楽というと、どうもサハラ砂漠からの砂嵐が音楽の中にまでハードに吹き抜けているみたいなモロッコものや、アルジェリアのヤクザなライ・ミュージックなんかの、辺境ものと言っていいんですかねえ、そのあたりに惹かれてしまってね。
 王道というんですか本場というんですか、中東ど真ん中産のアラブ・ポップスを醒めて聴いてしまう傾向がある。もともと、完成された音楽よりラフな音楽が好きって事情もあるんですがね。

 でも、レバノンの妖艶なる歌姫、NAWAL EL ZOGHBIの近作であるこの盤なんぞは傑作と評判高いですからね、どうも気になって聴いてみようじゃないかなんてえんで。

 これはアラブ全域で流行なんですかね、扇情的にコブシを廻しつつ声を揺すり上げるところで、一瞬、電気的に声を変調させて、オーガニックとエレクトリックのダブル・コブシで迫るやりかたは?このパターンはモロッコのレッガーダ・ミュージックでことのほか気に入っている部分でもあり、すぐに反応してしまった。
 でも、やはり洗練されたシティ感覚のレバノン録音ですね、声の電気的変調と言っても、ほんとに微妙な絡ませ方で、モロッコのベルベルの人々がやるような泥臭いものではない。あくまでオシャレです。

 ことのほか印象に残ったのがタイトル曲。イントロのコード進行が一瞬、テレサ・テンの何とか言う歌に似ていたものだから、その後の展開が我が日本の、それもベタな歌謡曲に似ているように感じられてならなくて。
 いや実際、似てもいるんでしょうね。この曲の構造は、ことのほか歌謡曲っぽいです。分厚いストリングスに煽られるように哀愁のメロデイを切なげに歌い上げ、そこにエレキギターのすすり泣きが絡んでみたり、ね。
 コード進行はほんと、日本の歌謡曲と変わらないです。誰かが主張していた”ユーラシア演歌ベルト”など想起され、興味深いですねえ、この辺は。

 その他の曲も、リズムの提示の仕方といい、曲のアレンジにはさまざまな工夫がなされているし、ともかくアラブポップス最前線と納得させられる行き届いた出来上がりであります。
 NAWAL EL ZOGHBI姐さんの歌声もアラビックなコブシも妖しげに、ともかく全曲ミディアム・テンポで絡みつくように迫ってまいります。

 これはやっぱり相当な傑作と言えるんでしょうねえ。とは言うものの、なんども聞き返すうちに(全部聞いても32分しかないからね。なんかアラブもののアルバムって妙に収録時間が短いものが多いよねえ。どうなってるの?)荒っぽいサハラ砂漠の風の音が恋しくなって来たりして。
 これは、やっぱり私が”通人”なんかにゃ永遠になれない、基本的にガサツな人間だからでありましょうかねえ。などと言いつつ、ベイルートの夜は更け行く。