ワールドミュージック町十三番地

上海、香港、マカオと流れ、明日はチェニスかモロッコか。港々の歌謡曲をたずねる旅でございます。

シェーンベルグの夜

2008-10-04 15:29:03 | ヨーロッパ


 ”SCHONBERG KABARETT” by DONELLA DEL MONACO

 クラシックとロックの独特の融合を果たしたイタリアのユニークな音楽集団、”オパス・アヴァントラ”の歌手であるドネッラ・デル・モナコが発表した、いくつかのソロ・アルバムのうちの一枚。

 彼女のソロ・アルバムはユニークな作品ばかりで、どれも好きなのだが、これは20世紀初頭に12音階の採用をはじめとして、先鋭的な作曲家として世間を騒がせた、ウィーン生まれの作曲家、シェーンベルグの小品集。なんとも複雑怪奇なキャバレーミュージックをドネッラは、ピアノだけをバックに
、売り物のソプラノ・ヴォイスでダイナミックに歌い上げる。

 ここにはロックの影はかけらも差さず、ちょっと風変わりなクラシックの声楽アルバムのようなもの(?)があるだけだ。
 クラシックを聴く習慣のない当方にはよく分からないのだが、ドレッラのソプラノの歌唱はクラシックの耳からすれば結構ポップであり、また、ゲルマン方面の曲のイタリア的解釈がなされているとのこと。

 その迷宮的音楽世界の濃厚な美学に、ヨーロッパの心臓辺りに迷い込んだような錯覚に陥る。そんな幻想を抱かせる音楽だ。濃厚な芸術趣味の中に、時代への不安がひっそりと息ずいている。ヨーロッパには戦争の萌芽がゆっくりと、だが確実に膨らみつつあった。

 この盤、あるネット・オークションを見ていたら、78年に発表したオリジナルのアナログ盤がとんでもない価格でやり取りされていてビックリした。
 当方の手元にあるのはもちろんそんな畏れ多いものではなくて、単なるルクセンブルグ製のCD再発盤だが、この種の音楽のファンて凄いねえ。

 それにしても当時のヨーロッパ人種は、こんなややこしい音楽を一杯機嫌で聴いていたのか!と、ある意味、呆れるのだが。
 果てしない時の流れの、その流れの果てで振り向いて、ただ遥かなるベル・エポックの栄光を偲ぶのみ。