ワールドミュージック町十三番地

上海、香港、マカオと流れ、明日はチェニスかモロッコか。港々の歌謡曲をたずねる旅でございます。

マグレブ式狩猟歌

2008-09-18 01:59:12 | イスラム世界


 ”abidat r'ma sorba”

 現時点で、ワールドミュージックシーンの間違いも無く最先端にいるのが北アフリカのアラブ世界なのだが、世界のほとんどの人がその事に気がついていない。いや、ワールドミュージックという概念そのものに興味を持つ人がろくにいないんだから、そりゃしょうがない。
 北アフリカのアラブ人たちも自分たちのやりたい音楽をやっているだけで、最先端も何も知ったことではないだろうし、まあ、こんな事を書いてみるのも余計なお世話でしかないのだが。

 というわけで今回の盤。これはその北アフリカはモロッコ在住のベルベル人社会で、狩猟の際、獲物を追い込むために奏でられていた伝統音楽を再生させたものだとか。
 とにかく凄いテンションが終始漲っている音楽で、一聴、圧倒されてしまうのだった。

 前のめりの性急なノリで打ち鳴らされる民俗パーカッション群のワイルドな響き。そして鍛えられた声質の雄々しくも鋭い表情のボーカル陣が、それに乗って歌というよりは呪文、あるいは祝詞みたいなシンプルなメロディのコール&レスポンスを歌い交わす。
 聴いているだけでも血圧が上がってくるようだ。いったいどんな動物を追いまわしたのか?この音楽の中に受け継がれている猟人たちの血の騒ぎの熱さに驚きつつ、思う。

 サハラ砂漠を吹く風には極めてよくお似合いの、あくまでもクールに乾ききった表情の中に、研ぎ澄まされた激情が駆け抜ける。
 ふと、ブラック・アフリカの怒号王、ナイジェリアのアパラ・ミュージックの突撃隊長だった、故・アインラ・オモウラの音楽など思い出す。オモウラの音楽と迫力において張り合える音楽など、この時代に”新譜”として聴けようとは予想だにしなかったので、これは嬉しい驚きなのだが。

 それにしても、このせき立てられる様な性急なノリと攻撃性。どこまでが伝統に由来し、どこまでが今日を生きる者の抱え込んだ抑圧に由来するのか。
 なんて事をふと考えた。中ジャケ写真の、民族衣装を身にまとって草原で伝統的遊牧民の暮らしを演じ、あるいはまた、ジーンズを履いてあくまでも今日を生きる若者としての表情を浮かべつつモロッコの古びた街角をのし歩く、このユニットのメンバーの写真を見ながら。

 鮮烈な鞭の一閃、みたいな音楽。”空耳アワー”的話題ではあるが、中途で「ヤバイ!」「ヤバイ!」「ヤバイ!」「ヤバイ!」と聞こえる怒号の応報の瞬間があり、うんまったくだ、ヤバい音楽もあったものだなあと納得してしまった次第。
 やっぱり北アフリカからは目が離せない。