ワールドミュージック町十三番地

上海、香港、マカオと流れ、明日はチェニスかモロッコか。港々の歌謡曲をたずねる旅でございます。

ペルーのバラの色

2008-09-05 03:58:42 | 南アメリカ


 ”COLOR DE ROSA / Poesia y Cantos negros” by SUSANA BACA

 このCDの販売店でつけられていたタイトル和訳が、”スサーナ・バカ/バラの色~黒人の詞と歌 ”ということで。南米ペルーの、アフリカ系音楽界の大物女性歌手だそうだ。
 彼女が80年代にキューバを訪れて現地の大物ミュージシャンをバックに吹き込んだ記念碑的作品集。

 大物歌手と言っても、聴いていて”起立!”とかせねばならない気分にさせる威圧的な波長を発する歌い手ではない。
 むしろつつましい個性の持ち主で、民衆のうちに息付く旋律の一つ一つを愛しむように素朴に誠実に歌い上げる人という感じがする。その歌声が非常に味わい深いものであるのはもちろんなのだが。

 キューバ音楽の重鎮連中が顔を並べたバッキングは非常に洗練され、全体の出来上がりも格調高い。”アフロ・ペルー音楽の宝”を迎えて、キューバの人々なりに誠意を尽くした様子が伺える美しいセッションだ。

 だからここではペルー民衆の汗と埃、血と汗と涙の生々しさが濃厚に香る、という世界は展開されていない。どちらかといえばモノクロームの世界。
 心落ち着けて音楽に向い、ペルーのアフリカ系民衆の喜怒哀楽とその歴史に思いをはせる、そんな聴き方がふさわしいといえるかも知れない。

 抑制された表現のうちにそこはかとない哀愁をにじませた素朴な旋律が、静かに、だが力強く脈打つリズムに支えられて歌い上げられて行く。
 その過程でときに、いかにもラテン世界のものらしい非常に甘美なメロディがフワッと姿を現し、鮮やかな光芒を空間に描く。その瞬間の豪奢な輝きは、まさに民衆の心のうちにだけ存在可能な宝石の輝きを目の当たりにする趣がある。

 それにしてもタイトルのバラの色・・・何度も聞き返すうちに”漆黒”であるように感ぜられてならないのであるけれど・・・