報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「稲生勇太は日蓮正宗を正式に離檀しているわけではないということについて」

2017-10-27 19:32:31 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[10月21日11:00.天候:雨 長野県北部山中 マリアの屋敷エントランスホール]

 『3時の魔道師』に半壊させられた屋敷の修復も既に済んでから約1ヶ月が経った。

 エレーナ:「お届け物でーす!」
 稲生:「はーい、はいはい。はーい」

 エレーナの“魔女の宅急便”は通常営業中。

 稲生:「こんな雨の中でも配達とは……大変だね」
 エレーナ:「某宮崎アニメの主人公は、魔法も使わずずぶ濡れになって風邪を引くというドジをやらかしたみたいだけど、こっちは違うから」

 確かにエレーナのローブと帽子は濡れているものの、中まで濡れている感じはしなかった。

 稲生:「キミは案外、魔法使いモノの作品のチェックを欠かさないねー」
 エレーナ:「映画の中にも、新しい魔法のヒントが隔されているものよ」
 稲生:(ポーリン組は魔法そのものというより、魔法薬を開発するジャンルだったと思うけど……)
 エレーナ:「殆どがイリーナ先生宛なんだけど、ほい」
 稲生:「ん?」
 エレーナ:「1通だけ稲生氏宛だよ。それも書留」
 稲生:「マジか?誰からだろう?」
 エレーナ:「Amazonだと、100パー稲生氏宛なんだけどね。郵便物で稲生氏宛は珍しい」
 稲生:「まあ、確かに」

 稲生は郵便物の裏を見た。

 稲生:「……日蓮正宗正証寺からだ」
 エレーナ:「ついに除名通知来た?」
 稲生:「……かもね」
 エレーナ:「んじゃ、そういうことで」
 稲生:「ああ、ご苦労さま」

 何気に注意報が出るほどの風雨をホウキで飛ぶのは難しそうだが、案外、エレーナも“魔女宅”のキキもやってのけている。
 尚、ホウキに跨る際、柄の部分ではなく、ホウキのふさの付け根辺りにすると股が楽とのこと。

[同日12:00.天候:雨 マリアの屋敷 大食堂]

 イリーナ:「ユウタ君のお寺で、支部総登山?」
 稲生:「そうなんです。来月の初めです。藤谷班長が送ってくれました」
 イリーナ:「いいじゃない。行って来たら?」
 稲生:「しかし、魔道師が信仰なんて……」
 イリーナ:「仏教徒は魔女狩りなんてしないから大丈夫よ。そもそもユウタ君の魔力が上がっていたのは、その仏教のおかげじゃない」

 元々が強い霊力を持ち合わせていた稲生。
 顕正会仏法でそれが暴走的に右肩上がりとなり、威吹や悪い妖怪に狙われるハメとなった。
 法華講に所属してからは右肩上がりの霊力増強はナリを潜め、むしろ下降した。
 それを嘆いた威吹だったが、おかげで悪い妖怪に目を付けられることも無くなり、それが御加護ということになった。

 稲生:「そんなものですかね……」
 イリーナ:「それにユウタ君はまだまだ隠居さんって歳でも無いんだから、どんどん世間の付き合いはして行けばいいと思うよ」
 稲生:「先生にとって、信心活動は世間付き合いの一環なんですね」
 イリーナ:「どんな行程なの?」
 稲生:「バスを借り切って向かう班と、自分の車で行ったり、電車で行ったりする方法とバラバラですね。僕も威吹と一緒に新幹線やバスで行ったものです」
 イリーナ:「行程表見せて」
 稲生:「こんな感じなんですけど……」

 稲生はテーブルの向こう側に座るイリーナに、行程表を渡した。
 イリーナも身を乗り出してそれを受け取る。
 プルンとした豊かな胸が目の前で揺れるのを目の当たりにしたマリアは、

 マリア:「くっ……!」

 と、何故か悔しそうな顔をしたのだった。

 イリーナ:「何だか楽しそうな旅行ねぇ。あれ?日帰り?前は泊まり掛けで行ってなかった?」
 稲生:「参加人数の誓願が減ってる……!これ、“フェイク”が喜びそうなネタだなぁ……」
 イリーナ:「いいから、ユウタ君も行ってきな」
 稲生:「はあ……」
 イリーナ:「藤谷さんには“魔の者”との戦いでお世話になったんだし、少しは顔を立ててあげなきゃ」
 マリア:「師匠が特に、ですね」
 イリーナ:「ええ。あの時の藤谷さん、カッコ良かったわよー。私があと500年若かったら、魔法使って傀儡にしたのに……。うふんうふん
 稲生&マリア:「愛の告白とか考えないんだ」

[同日13:00.天候:曇 マリアの屋敷 エントランス]

 稲生:「何とか、雨止んだみたいだな……。じゃあ、すいません。ちょっと、出掛けてきます」
 イリーナ:「例の行事に参加する準備かい?」
 稲生:「ええ」
 イリーナ:「それじゃ、はい」

 イリーナ、稲生に手持ちのカードを渡した。

 稲生:「えっ?これは僕が個人的に行くだけですよ?」
 イリーナ:「だからぁ、私もついでに旅行したいって行ってるのよ。その代わり、交通費くらいは持つよ」
 マリア:「どこの世界に、弟子の仏道修行に付き合う魔道師の師匠がいますか」
 イリーナ:「おいおい、その手の旅行ガイドブックはどうしたい?」
 マリア:「わ、私はその……せっかくだから、お土産でも買って来てもらおうかなと……」
 イリーナ:「んもう、素直じゃないわねぇ。ユウタ君が何日間か留守にするから、寂しいんでしょお?」
 マリア:「〜〜〜〜〜〜〜っ……!」
 稲生:「まあまあ。つまり、先生達も富士宮市までは御一緒ってことですね。分かりました分かりました。ちょっと、作戦練り直して来ますので、また後で」
 イリーナ:「どんなルートで行こうとしてたの???」
 マリア:「物凄くマニアックなルートで行こうとしていたんでしょうね」

[同日14:00.天候:曇 マリアの屋敷2F西側 応接室]

 イリーナ:「東アジア魔道団の不穏な動きが?」
 アナスタシア:「そう。時の権力者に諂うところはあいつららしいけど、日本を拠点にしているあなた達が目障りみたいだから、今後とも気をつけることね」
 イリーナ:「ナスターシャ、あなた……」
 アナスタシア:「なに?」
 イリーナ:「要所要所でアタシの前に現れるという時点で、あなた達も日本を拠点にしている疑惑が浮上してるんだけど?」
 アナスタシア:「こっ、ここは単なる中継地点よ!東欧をシェアしている私達にとって、ここはほんの中継地点に過ぎないの。だいたいイリーナだって昔、『こんなちっぽけな島国に行く予知なんてぜーんぜん!』って言ってたじゃない」
 イリーナ:「そりゃ、第一次世界大戦前の話だよね!?」

 ロシア語が飛び交う応接間に、直属の弟子として紅茶を運んできたマリア。

 マリア:「こりゃダメだ……」

 それはイギリス人のマリアにとって、自動翻訳魔法を解除すると師匠達が何を喋っているのか分からない件と、応接室のドアの前で立哨しているアナスタシア直属の弟子が、部屋に入れさせてくれないような気がしたからである。

 アンナ:「ほら、マリアンナが中に入れなくて困ってるでしょ。どいてあげて」
 男弟子:「サーセン」

 どうやらアンナの後輩らしく、大柄な男弟子はペコッと頭を下げると、すごすごとドアの前から離れたのである。

 アンナ:「ところで、稲生君はいないの?」
 マリア:「買い物に出かけたよ」
 アンナ:「……!!」
 マリア:「コラコラコラ、どこへ行く」

 尚、稲生が帰って来た頃にはアナスタシア組も引き上げていたという。
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“戦う社長の物語” 「秘書達の気づかい」

2017-10-26 23:27:53 | アンドロイドマスターシリーズ
[ある日の午前中 天候:晴 東京都千代田区霞ヶ関 某合同庁舎]

 官僚:「どうも、お待たせしました」
 敷島:「本日はお忙しいところ、お時間を頂き、ありがとうございます。私、(株)敷島エージェンシー代表取締役を務めさせて頂いております敷島孝夫と申します」

 敷島、立ち上がって挨拶と名刺を渡す。

 官僚:「ああ、なるほど。あなたが彼の有名な敷島さんですか。確か、警視庁や公安関係辺りから『テロリストを泣かせる男』の異名をお持ちだとか……」
 敷島:「いえ。私は私なりのテロ対策をしてきたまでです。それで本日お伺いしたのは、是非ともうちの自慢のアンドロイドをご覧頂きたいと思いまして」
 エミリー:「マルチタイプ1号機のエミリーと申します。よろしくお願い致します」

 深々と頭を下げるエミリー。

 官僚:「これはこれは……。つい、人間かと思いましたよ。本当にロボットなんですか?いや、実によくできてますなぁ……」
 敷島:「恐れ入ります」

 敷島が官僚と商談をしている間、終始腰を曲げていたエミリーであった。

[また別の日の午後 天候:曇 埼玉県さいたま市西区 DCJロボット未来科学館]

 DCJ専務取締役:「どうも、お待たせしました」
 敷島:「いつもお世話になっております。私、(株)敷島エージェンシー代表取締役を務めさせて頂いております敷島孝夫と申します」

 敷島、立ち上がって挨拶と名刺を渡す。

 敷島:「いつもうちのアンドロイド達の面倒を見て頂いて、ありがとうございます」
 専務:「いえいえ。こちらこそ、世界的科学者達の遺作の整備を任せてもらえて大変鼻が高いです」
 敷島:「こちらがその……専務が直接ご覧になりたいと仰っていたシンディです」
 シンディ:「マルチタイプ3号機のシンディと申します。よろしくお願い致します」

 深々と頭を下げるシンディ。

 専務:「おお〜!何十年も前から稼働しているアンドロイドとは思えぬ緻密さですね」
 敷島:「実際には後期タイプのボディを使用していますので、稼働期間は凡そ数年ちょっとです」
 専務:「見事に体を交換することにより、実質的に何十年も稼働していることになるわけでしょ?凄いテクノロジーだ。平賀教授のメイドロイドだけでも凄いのに、こういう人間そっくりの……それも見た目だけではなく、その細部に至るまで人間同様とは……」

 敷島と専務が打ち合わせをしている間、終始腰を曲げていたシンディだった。

[またまた別の日の午後 天候:晴 東京都江東区豊洲 敷島エージェンシー]

 敷島:「どうもどうも、お待たせです。勝っちゃん……いや、勝又先生」
 勝又都議:「いやいや、別にいいよ。勝っちゃんで」

 敷島と若手都議会議員の勝又とは、大学時代の同級生である。

 勝又:「『東京ロボットショー』の詳細が決まったんで、そのお知らせに来ただけだから」
 敷島:「だったら、呼んでくれれば俺から出向いたのに……」
 勝又:「いやいや。何しろ、目玉となるキミの秘書さん達に出てもらうんだから当然だよ。実行委員会理事として」
 敷島:「できれば、うちのボーカロイドをメインで出させて欲しかったな」
 勝又:「メンゴメンゴ。どうしても、理事長が【某有名演歌歌手】に出て欲しいってゴネやがってさぁ……」
 敷島:「文春砲ぶっ放してもらうかい?」
 勝又:「ハハハハ!いつものことだから、勘弁してやってよ。じゃあ、その時はよろしくね?エミリーさん」
 エミリー:「はい。こちらこそ、よろしくお願い致します。……あ、紅茶のお代わりお持ちしますね」

[更に別の日の午後 天候:雨 東京都23区内某所 都心大学研究棟]

 村上:「さっきから気になっておるんじゃが……」
 敷島:「何ですか?」
 村上:「もしかしてキミの秘書君、腰が曲がっておらんかね?」
 敷島:「ええっ!?」

 敷島、パッとシンディを見る。
 今回はエミリーが都心大学で整備を受けている為、シンディが代わりに敷島の秘書を務めていた。

 シンディ:「べ、別に大丈夫ですわよ?」

 シンディ、ピンと背筋を伸ばした。

 村上:「そうかの?ここに来てから、ずっと腰を曲げておったみたいじゃが……」
 シンディ:「私にとって、村上博士は目上の御方ですから、腰を低くしないと失礼に値するかと思いまして」
 村上:「ん?別に、ワシに遠慮することはないぞ。特にキミの場合、ワシと本来の接点は無いのじゃから」
 ロイ:「シンディさん。どうかボクと付き合って頂けませんか?」

 ロイ、花束を持って馳せ参じてきた。

 シンディ:「あのねぇ、こう見えても私、任務中だから。空気読んで」

 シンディは呆れて右手を腰にやり、左手でシッシッとやった。

 敷島:「おっ、ロイ。どうやら少しは脈があるみたいだぞ?男嫌いのシンディが、ただ単にシッシッとやっただけだ。普通だったら、ぶっ壊しに来るぞ」
 ロイ:「な、なるほど」
 シンディ:「社長、私を何だと……。まあ、いいですわ。それより、そろそろ会社に戻る時間です」
 敷島:「おっ、そうだった。じゃあ教授、エミリーをお願いします」
 村上:「うむ。すまんの。ワシの知的好奇心に付き合わせてしまって」

 最初はエミリーに惚れているのかと思った敷島だったが、実際にロイが好きになったのはシンディの方だったらしい。

 敷島:「じゃあ、帰るとするか」
 シンディ:「はい」

 敷島達、研究棟を出ようとした。

 村上:「おいおい、おかしいぞ。やっぱり、腰が曲がっておる。ついでにキミも診ようか?」
 シンディ:「あ、いえ。そういうことじゃないんです」
 村上:「じゃ、どういうことじゃい?」
 敷島:「シンディ。今日はもうお偉いさんに会う予定は無いだろう?別に、普段から腰を低くしている必要は無いぞ?」
 シンディ:「ち、違うんです。姉さんに言われて……」
 敷島:「ん?そう言えば、エミリーもここ最近、ずっと腰を低くしていたなぁ……」
 シンディ:「姉さんに、『社長と行動を共にする時は、常に腰を低くしておくこと。でないと、失礼に当たる』と言われたんですよ」
 敷島:「何だそりゃ?俺とは長い付き合いなんだから、そんなにペコペコする必要は無いぞ?」
 シンディ:「多分、社長をアンドロイドマスターに認定したのと関連性があるものと思われますが……。私も、同じロイドで姉さんにだけは頭が上がらないので……」
 敷島:「ふーん……?」

 研究棟の外に出る。

 敷島:「じゃあ、ロイ。見送りありがとさん」
 ロイ:「いえ。どうぞ、お気をつけて」
 敷島:「シンディのことは諦めるな。きっと、お前に振り向いてくれる日が来る」
 ロイ:「はい。ありがとうございます」
 シンディ:「ちょっと、社長」
 ロイ:「比較的強い雨が降っています。どうぞお気をつけて」
 敷島:「ああ」

 シンディ、バッと傘を開き、敷島と相合傘を行った。
 その際、曲げていた腰をピンと立てる。

 ロイ:「あ、あの、失礼します」
 敷島:「何だ?」
 ロイ:「もしかして……シンディさんやエミリーさんが、社長の前では腰を曲げていらっしゃる理由って……。社長よりシンディさんとエミリーさんの方が、身長が高いからというわけではないです……よね?」
 敷島:「な、何だってー!?」
 シンディ:「……姉さんが言うには、『社長より上からの目線で見下ろすのは失礼に当たる』ということで……」
 敷島:「エミリーのヤツ、何考えてんだ。いいよいいよ。気にするなよ。ていうかさ、俺は別にこれはこれでステータスだと思っているんだよ」
 シンディ:「ステータス?」
 敷島:「そう。何しろ、こんなしがない芸能事務所の経営者がだよ?モデルみたいな女を2人も連れて歩いているなんて、これほどのステータスはあるまい、と。だからいいんだよ。俺から後でエミリーに言っておくから、お前も気にするな」
 シンディ:「分かりました。社長がそう仰るなら」
 敷島:「それに、お前達の方が身長が高いわけだから、相合傘の際、お前達に傘を持ってもらえる」
 ロイ:「あっ、それはいいですね。でも、シンディさんより私の方が背は高いので、シンディさんとの相合傘の際は私が……」
 シンディ:「さっ、社長。急がないと、本社の会議に遅れます」

 ロイの言葉を完全にスルーするシンディだった。
 敷島の身長は175cm、エミリーとシンディは177cmである。
 因みにロイは185cmと、執事ロイドにしては高身長に設計されている。
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“戦う社長の物語” 「劇団ロイド再開」 2

2017-10-25 19:43:03 | アンドロイドマスターシリーズ
[10月18日 午前の部 天候:晴 東京都豊島区内某所 敷島エンター劇場]

 第二幕では配役変更。
 警備兵(門番)→国家憲兵隊長。

 ナレーター:「一夜明けて、国中にお触れが出されました。それはシンデレラに対する呼び掛けでありました」

 憲兵A(マリオ):「……そういうわけで、シンデレラを発見次第、直ちに通報せよ!」
 憲兵隊長(鏡音レン):「おい、それじゃまるで犯人捜しだよ。殿下のお触れは、あくまで将来、妃殿下と相成られる女性の捜索だ。良いか?発見次第、通報だぞ?犯人みたいに手荒な捕まえ方をするなよ、皆の者!」
 憲兵B(ルイージ):「下手に隠し立てしたり、手荒に捕まえた者は第2級国家反逆罪の廉で逮捕する!」

 ナレーター:「城下に兵隊を送り、お触れを回らせる一方で、王子様自身も捜索に当たっておりました」

 王子:「シンデレラ!シンデレラはどこにいる!?このガラスの靴に合う唯1人の女性はどこだ!」

 ナレーター:「ですが、そのガラスの靴を狙う者達がいたのです」

 継母:「フン、ガラスの靴など証拠隠滅してやるわ。……スナイパー、やっておしまい!」
 スナイパー:「了解!」

 敷島俊介:「ん?キミの秘書が?どこにいる?」
 敷島孝夫:「ふっふっふ」

 すると、VIPルームのドアが開いた。

 シンディ:「はいはい、失礼しまーす!」
 俊介:「なにっ!?」
 孝夫:「頼むぞ、シンディ」
 シンディ:「了解でヤンス!」

 シンディ、手には狙撃用のライフルを持っている。

 俊介:「なに!?本物だと!?」
 孝夫:「シーッ」

 シンディ、VIPルームの窓を開け、ステージ上にいるKAITOに銃口を向けた。
 スコープで狙う。

 KAITO:「シンデレラ!シンデレラはどこだ!?皆、お願いだ!シンデレラを捜すのを手伝ってくれ!」
 憲兵隊長:「見つけた者には褒美があるぞ!」

 シンディ、一発のライフル弾を放った。

 KAITO:「うわっ!」
 憲兵隊長:「で、殿下!?」

 シンディは、ものの見事にKAITO王子が高く掲げたガラスの靴をピンポイントで撃ち壊した。

 俊介:「ほ、本当かね?」
 孝夫:「さすがはスナイパーだな」
 シンディ:「お褒めに預かりまして。……あー、もしもし。成功報酬はスイス銀行に振り込んどいてくださいね」
 継母:「よくやった。感謝するよ」

 シンディの役はこれだけなので、あまり目立たない役になってしまった。
 だがシンディにとっては……。

 シンディ:「それじゃ、失礼しました」
 俊介:「何だかスッキリした顔だね」
 孝夫:「国家公安委員会から銃器取り外し命令を受けて以来のライフル使用でしたからね」
 俊介:「……待て」
 シンディ:「はい?」
 俊介:「今日はたまたま私と孝夫がここを使っているから良いものの、千秋楽までの間にこの部屋で観劇するお偉いさんはいるはずだ。もしかして、公演の度にここからライフルを撃つ気かね?」
 シンディ:「それが何か?」

 シンディは、にこやかに答えた。

 孝夫:「一般客席の観客からは、シンディが撃つ所を見ることができません。正に、VIPならではの迫力ですよ」
 俊介:「全く。キミ達の手法には、ほんと冷や冷やさせられる」
 孝夫:「恐れ入ります」

 ナレーター:「継母達はシンデレラを家の奥に監禁していました」

 シンデレラ:「お願いです!放してください!私が何をしたって言うんですか!」
 継母:「フン、うちのコを出し抜いて何を図々しい。今、お前を王子様に会わせるわけにはいかないのさ」
 シンデレラ:「私を王子様に会わせてください!王子様は私をお捜しに……ンブッ!」

 義姉、シンデレラに灰をぶっかける。

 義姉:「こんなに灰を被っちゃ、王子様にお会いできないでしょ!」
 継母:「よくやったわ。てか、家ん中が灰だらけ。地下室へ監禁しておくんだよ!」
 義姉:「了解!さあ、さっさと来るんだよ!!」
 シンデレラ:「嫌です!放してくださいぃぃぃぃ!」

 ナレーター:「意地悪なお義姉さんは、シンデレラのきれいな緑色の髪を掴んで地下室へと連れて行こうとしました。その時、シンデレラの髪留めが片方1つ床に落ちたのです」

 継母:「いいこと!?あなたはこの灰を片付けて、何食わぬ顔で庭掃除しておくんだよ!分かったね!?」
 メイド(鏡音リン):「かしこまりました。奥様」

 ナレーター:「何も知らぬ、メイドさん。まずはお義姉さんがシンデレラに掛けた灰を片付けます。一方その頃、王子様達は……」

 憲兵隊長:「ダメです、殿下!こちらの街区にも未来の妃殿下はおられません!」
 憲兵B:「まさか、国外逃亡!?」
 憲兵A:「バッカ、オメェ!だったら国境警備隊から報告があるべ!」
 王子:「一体、どうしたら……」

 ナレーター:「その時、憲兵隊長は1人の指名手配犯の似顔絵が目に入りました」

 憲兵隊長:「そうだ、似顔絵だ!殿下、ただお触れを出して捜し回るだけでは埒が空きません。似顔絵を描いて、御触書に添えるというのは如何でしょう?」
 王子:「そうだな。それはいいアイディアだ。だが、似顔絵描きの出来る者が……」
 憲兵A:「できました!」
 憲兵B:「同じく!」
 王子:「なん……だと?」

 ナレーター:「憲兵隊の超高速似顔絵描きにより、新たなお触れが出されました。そして、捜索の手はシンデレラの家の近くにも及んで来ました」

 憲兵隊長:「この似顔絵に見覚えのある者は、直ちに通報せよ!隠蔽したり、手荒に連れて来た者は逮捕する!」
 メイド:「あれは……?」

 ナレーター:「庭掃除をしていたメイドさん、憲兵隊長の捜索の声が聞こえてきました」

 憲兵隊長:「美しい緑色のツインテール!濃いピンク色の髪留めを付けている女性を王子様がお捜しです!心当たりの方は直ちに最寄りの兵士まで通報を!」
 メイド:「あれは……。ちょっと、すみませーん!」
 憲兵隊長:「何か?」
 メイド:「濃いピンク色の髪留めって、これでしょうか?」
 憲兵隊長:「むっ、これは……!この髪留めを付けていたのは、緑色の髪をした女性でしたか?」
 メイド:「はい、そうです」
 憲兵隊長:「! その女性の名前、シンデレラと仰いませんか?」
 メイド:「はい、そうです!」
 憲兵隊長:「その家とは!?」
 メイド:「こちらです!」
 憲兵隊長:「た、大変だ!すぐに殿下にお知らせせねば!」

 ナレーター:「憲兵隊長は急いで乗っていた馬を駆り、王子様の元へ報告に行きました。王子様もその報告を受けて、急いでシンデレラの家に向かったのであります」

 シンデレラ:「助けてくださいぃぃぃぃっ!」
 継母:「逃げるんじゃない!」
 義姉:「今逃げられたら私達、国家反逆罪で島流しよ!」

 バンッ!(シンデレラの家の玄関が勢い良く開けられた)

 憲兵隊長:「お前達、何をしている!」
 王子:「シンデレラを放せ!」
 継母:「お、王子様!?」
 義姉:「ひぇぇぇっ!!」

 ナレーター:「継母とお義姉さんは、第2級国家反逆罪の現行犯で逮捕されました。その後、尖閣諸島へ島流しになったことは言うまでもありません」

 王子:「シンデレラ、ずっと捜していたよ。さあ、私と一緒に来ておくれ。そして私の妃となってくれ」
 シンデレラ:「いけませんわ。あなた様は将来、この国の王となる御方。対して私は没落貴族の娘です。きっと、お城の人達が許しませんわ」
 憲兵隊長:「それでしたら、御心配要りませんよ」
 シンデレラ:「隊長さん?」
 憲兵隊長:「実は先ほど部下から連絡が入りまして、国王陛下が既に殿下方の結婚式の準備をされておられると……」
 王子:「あ、あの父上はーっ……!」
 シンデレラ:「それってつまり……?」
 王子:「父上が私達の結婚をお認め下さっているということです。国王たる父上の公認なのです。これでもう反対者はいませんよ」
 シンデレラ:「ああっ、王子様!」
 王子:「シンデレラ。必ずキミを幸せにする。約束するよ。さあ、帰って結婚式の準備だ!」

 俊介:「おおっ、ラストはちゃんと感動で終わったね」
 孝夫:「ええ。だいぶ、冷や汗かきましたけど……」

 尚、楽屋では継母役で最上位機種エミリーを連行するに辺り、憲兵役で下位機種のバージョン5.0であるルイージが後ろから蹴っ飛ばした疑惑が上がり、鋼鉄姉妹による厳しい尋問が行われていたという。
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“戦う社長の物語” 「劇団ロイド再開」

2017-10-25 10:42:55 | アンドロイドマスターシリーズ
[10月18日10:55.天候:晴 東京都豊島区某所 敷島エンター劇場]

 公演:劇団アンドロイド(仮称)

 演目:初音ミクのシンデレラ・改

 配役:シンデレラ…初音ミク 王子様…KAITO 継母…エミリー 義姉…MEIKO 魔法使い…巡音ルカ 国王…ロイ 警備兵…鏡音レン メイド…鏡音リン スナイパー…シンディ ナレーター:アルエット
(※太字は従来との変更点)

 1ベルが鳴り響く劇場内。
 1ベルとは開演5分前に鳴らすベル、またはブザーのことを言う。
 最近ではベルやブザーではなく、BGMや音声で行うことも多い(映画館など)。
 敷島エンター劇場では1ベルとしてその演目のメインテーマのインストゥルメンタルを流し、2ベルをブザーとしている。

〔「御来場の皆様に、お知らせ致します。開演5分前となりました。ロビーなどでお待ちのお客様は、お席にお戻りください。開演に先立ちまして、お客様方にお願いを申し上げます。……」〕

 観客A:「脚本と配役が微妙に変わってるけど、一体何がどうなったのかねぇ?」
 観客B:「初音ミクの階段落ちと柱倒しの対策じゃね?」
 観客C:「逆にあれ、結構面白かったのにw」
 観客D:「つか、このシンディ嬢のスナイパーって何だよ?シンデレラにそんなもんいたっけ?」

 そしてVIPルームでは……。

 敷島俊介:「今度は大丈夫なんだろうね?」
 敷島孝夫:「大丈夫だと思います。昨日の通し稽古は、かなり上手く行きました。(敷島峰雄)会長が心配して来て下さいましたが、大絶賛でしたよ」
 敷島俊介:「それならいいが……。ちっ、私も出張さえ無ければ通し稽古を見れたのに……」

 こうして、劇団アンドロイドの再演が始まった。
 変更点の無い所に関しては省略する。
 1番最初、シンデレラが継母と義姉に暴言を受けるシーンについては殆ど変わらない。
 シンディがエミリーに変わっただけだ。
 元が同型の姉妹機、エミリーも遺憾なく継母の意地悪ぶりを発揮した。
 底意地の悪い義姉役のMEIKOも変わっていない。
 要するに、継母の配役が変わっただけで、序盤のストーリー展開は変わらないということだ。
 実は脚本だけだと、継母役すら変更は無かった。
 後半のストーリー大幅改変に伴い、騎士団長の役が無くなったエミリーがスナイパー役だったのである。
 しかし、スナイパーと言えば遠距離からのライフル射撃を得意とする。
 如何に同型の姉妹機と言えど、射撃の性能は大きく異なる。
 エミリーはハンドガンやショットガンなどの近接攻撃を得意とし、遠距離からの狙撃を得意としていたのはシンディであった為(前期型では暗殺もよくやっていたからだろう)、敷島が変更させた。
 変更させても設定を変えるだけですぐ対応可能のロイドは、そこが長所だった。

 警備兵:「はい、並んで並んで!ここから先は王宮です!招待状を確認します!招待状が無い方は入れませんよ!」

 召使から警備兵役となったレン。
 よく中世ヨーロッパの兵士の鎧などを用意できたものだと思うが、そこは映画制作なども行っている四季グループ。
 そこから衣装を借りて来れたわけだ。

 義姉:「お母様、渋滞してるわ。こんなことなら、もっと早く出てくれば良かった」
 継母:「慌てちゃいけないよ。まだ舞踏会には時間がある。もっとも、あの灰かぶりが、もっとテキパキとあなたのドレスの着付けができたら、早く出て来れたのにねぇ……」

 ナレーター:「兵士達による招待状の確認や、手荷物検査が終了した継母達は、ようやく王宮の中へと馬車を進めることができました」

 警備兵:「ふぇ〜っ、これで全部入ったかなぁ?……あー、疲れた。おーい!そろそろ城門を閉めてくれ!」
 シンデレラ:「ま、待ってください!」
 警備兵:「ん?あれ?まだいたのか?……おい、門を開けろ!」
 シンデレラ:「遅れてすみません!」
 警備兵:「舞踏会参加者の方ですか?」
 シンデレラ:「はい!」
 警備兵:「招待状の確認をします。招待状は?」
 シンデレラ:「こ、これです!」

 ナレーター:「招待状はカボチャの馬車の中に入っていました。それを確認した兵士ですが、偽物と気づくはずがありません」

 警備兵:「なるほど。確かに国王陛下のサインもある。……何か聞いた話より、参加者の数が多いような……?」
 シンデレラ:「ギクッ!」
 警備兵:「まあ、ボクの勘違いかな。招待状は本物だし。まあいいや。じゃあ、どうぞ中へ」
 シンデレラ:「あ、ありがとうございます!」

 ナレーター:「こうして、シンデレラもまた舞踏会へと足を運ぶことができたのです。……しかし、当の王子様は乗り気ではありませんでした」

 王子:「父上!何故このような下らないことを!?結婚相手くらい、後で探します!」
 国王:「まあ、そう言うな。これはお前の誕生日パーティーなんだぞ?そのついでに、『志あらん者は、我が息子の恋心を射止めよ』と触書に添えてみたまでだ」
 王子:「それが余計だと申しているのです!私にはあなたの第一王子として、国政の課題を解決しなければならない責務があります!誕生日を祝って下さるそのお気持ちはありがたく頂戴致しますが、婚活などという滑稽な余興は必要ありません!」
 国王:「まあ、いいからいいから。いいですかー?見てごらんなさい。どうでしょう?……触書を見た『志あらん者』達が、続々と集結している。お前も今宵は好みの女性と踊って来い」
 王子:「何を仰いますか、父上!好みの女性など、あの中には……」

 ナレーター:「するとどうでしょう?王子様の目がギラリと光り、1人の女性をロックオンしたではないですか」

 俊介:「どうしてもアンドロイドとして、ロックオンするあれだけはやりたかったのだね?」
 孝夫:「え、ええ……まあ……はい」

 王子:「いたっ!」
 国王:「なにっ!?」
 警備兵:「ぬねの!」
 国王:「うわっ!?な、何かね、キミ!?」
 警備兵:「失礼しました。殿下、至急お耳に入れたいことが……」
 国王:「後にしたまえ。今、殿下は好みの女性の所へ高速移動中だ」
 警備兵:「ええっ!?」
 王子:「失礼。そこの貴女、私と踊って頂けませんか?」
 シンデレラ:「わ、わた、わた、私とですか!?ね、ね、願っても無い光栄ですっ!」

 プシューッ!(ミクの両耳から煙が出る)

 村上:「平賀君、またヒートアップしてるぞ!」
 平賀:「そろそろミクのボディも交換の時期なのかなぁ……」

 ナレーター:「あの王子様が会場の片隅にいたシンデレラを直接指名したことで、会場はどよめきました。そして、それは継母と義姉も見ていたのです」

 継母:「あ、あれはシンデレラ!?な、何故!?」
 義姉:「くぅーっ……!!」

 ナレーター:「驚愕と嫉妬を隠し切れない2人をよそに、王子様とシンデレラは時を経つのも忘れて、楽しく踊りました。しかし、時間は止まってくれません。ついに、まもなく12時を知らせる鐘が城中に鳴り響きました」

 シンデレラ:「はっ、いけない!もう時間だわ!」
 王子:「心配要らないよ。舞踏会は、まだまだ続くさ」
 シンデレラ:「そうじゃないんです!私、早く帰らなくちゃ!王子様、ごめんなさい!」
 王子:「ま、待ってくれ、シンデレラ!」
 シンデレラ:「王子様、さようなら!」
 王子:「待ってくれ!MX深夜アニメ観たかったら、うちで観てけば!?」

 村上:「何ゆえ、Tokyo MXの深夜アニメ???」
 平賀:「KAITOの方を先に修理しないとダメだ、これ!」

 そして、ついにあの因縁のシーンの前触れに差し掛かる。

 シンデレラ:「きゃーっ!」

 何とミク、前の通りに階段落ちをやらかす。

 俊介:「お、おい!あれもNGではないのかね?」
 孝夫:「いえ、大丈夫です。演出家さん達もなかなか強かなもので、あえて安全を確保した上で、わざと階段落ちをやらせるということになりました。その証拠に、前回と違って、ミクが頭から落ちてはいません」
 俊介:「な、なるほど……!」

 そうしているうちに王子様役のKAITO、階段の下に残された片方のガラスの靴を寂しそうに拾い上げる。

 王子:「おお、シンデレラ……。私の恋心を初めて掴んでくれた人……。何故、私から逃げるようにして去ったのか……。必ず……必ずや私は貴女を捜し出し、結婚を申し込もう!」

 俊介:「う、うむ。さすがに、今回は終電とか深夜急行バスとかは言わなかったな」
 孝夫:「と、当然ですよ。うちのボーカロイド達は皆優秀ですから……ハハハハハハ……」

 と言いつつ、何故か冷や汗びっしょりの敷島孝夫だった。
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“戦う社長の物語” 「劇団ロイド休業」 2

2017-10-23 19:14:52 | アンドロイドマスターシリーズ
[10月15日09:30.天候:晴 埼玉県さいたま市西区 DCJロボット未来科学館]

 萌:「いやー、まるでドリフターズのコントみたいな終わり方だったね〜」
 アルエット:「笑い事じゃないよ。あれのせいで、お姉ちゃん達、ずっと怖い顔だったもん」
 萌:「それにしても、あのミクさんが大ポカやるなんてねぇ……。トップアイドルなのに」
 アルエット:「ボーカロイドだからね。どうしても歌やダンスでの自動出力調整がメインだから、ただ演劇ってのは難しいみたいだよ」

〔「おはようございます。DCJロボット未来科学館、ただいまオープンです。どうぞ、ごゆっくりお楽しみくださいませ」〕

 萌:「おっ、オープンだよ!」
 アルエット:「仕事仕事」

 本当だったら今日も公演があったのだが、前回のセット崩壊事故のせいで、中止になっていた。
 そこでアルエットは、また元の仕事先である科学館に戻ったのだった。

[同日同時刻 天候:晴 東京都豊島区内某所 敷島エンター劇場]

 大道具監督:「おい、そこ気をつけろ」

 カンカンカンとハンマーで何かを打ちつける音、そして電動工具の音が鳴り響く劇場のステージ。

 敷島俊介:「こりゃまたド派手にブッ壊してくれたなぁ……」
 敷島孝夫:「いや、本当に申し訳無いことで……はい……」
 監督:「いえ、こちらこそ。まさか、あれほどの衝撃でぶつかると思わなかったので……柱の強度が足りなくて申し訳ありませんでした」
 孝夫:「いやいや……。余計な仕事をさせて申し訳ありませんけど、よろしくお願いします」
 俊介:「あと、どのくらいで復旧する?」
 監督:「そうですねぇ……。強度の確認やセットの動作確認もしたいので、あと1〜2日はお時間が欲しいところです」
 孝夫:「すると、今日も入れて3日間か……」
 俊介:「柱2本壊しただけで、このザマだよ。如何に舞台ってのは、デリケートなものか分かるものだ」
 孝夫:「はい……。私の認識不足でした。申し訳ありません」
 俊介:「孝夫はそもそも人間のタレントをプロデュースしたことが無いからね。ましてや舞台演劇など、初めてだろう?ミュージカル以外」
 孝夫:「ええ……」

 ステージの視察はこのくらいにして、場所を移動する敷島達。

 俊介:「実は今回の演劇の事なんだが……」
 孝夫:「ええ。全て責任者の私が取ります。だから、ミクは許してあげてください」
 俊介:「いや、そういうことじゃない。初演の時、脚本家の方が舞台を見に来ていたらしいんだ」
 孝夫:「はあ……」
 俊介:「初演のザマを見て、こりゃイカンと思ったとのことだ」
 孝夫:「それで、どうなさると?」
 俊介:「脚本の内容……特に、後半を変えるとのことだ」
 孝夫:「脚本を変える!?」
 俊介:「そう。今、改訂版を手掛けているらしいぞ。恐らく、階段落ちのシーンからして変えるつもりではないだろうか」
 孝夫:「一体、どういう話になるんでしょうか?」
 俊介:「分からんな。孝夫、脚本家さんに連絡して、明後日まで休演にする旨伝えておいてくれ。そうすれば、彼もいつまで改訂版を出せばいいのか参考になるだろう」
 孝夫:「分かりました」

[同日10:42.天候:晴 JR池袋駅]

 エミリー:「社長、そちらは逆方向のホームですが……」
 敷島:「分かってるさ。ちょっと、脚本家さんの所へ顔を出してくる」

 エミリーは敷島が帰宅の途に就くものとばかり思っていた。
 しかし敷島が向かったのは埼京線下りや湘南新宿ライン北行ホームではなく、その逆方向のホームだった。

 敷島:「脚本家さんの家は渋谷だったな」
 エミリー:「そうです」

〔まもなく1番線に、りんかい線直通、新木場行きが参ります。危ないですから、黄色い線までお下がりください。次は、新宿に止まります〕

 敷島:「初演のミクの演技を見て、こりゃ脚本を変えなきゃイカンと思ったらしいぞ」
 エミリー:「さすがですね」

[同日13:00.天候:曇 東京都江東区豊洲 敷島エージェンシー]

 初音ミク:「はあ……」
 MEIKO:「ちょっと、ミク。何度も溜め息つかないでちょうだい」
 ミク:「MEIKOさん、すいません」
 KAITO:「そうだよ、ミク。こうして皆、また一同に会するなんて、なかなか無かったからいい機会じゃないか」
 巡音ルカ:「確かに、今まで皆忙しかったから、会う機会ってめっきり無くなってたもんね」
 鏡音リン:「これも、明後日まで公演が中止になったおかげですなぁ」
 鏡音レン:「これが人間の役者さんとかだったら、どうするんだろうね?」
 巡音ルカ:「やっぱりボイトレとか、筋トレとかするんじゃないかしら?」
 リン:「せっかくだから、遊びに行くとか?」
 KAITO:「はははは。だからなのか、人間の劇団とかだと、長期公演の場合、必ず定期休演日があるんだよね」
 ルカ:「私達、ボーカロイドだからどれも必要無いわね」
 リン:「せいぜい、博士達に整備を受けるくらいかな」
 レン:「それしかやることないよね、ボク達。台詞を忘れるなんてこともないし」
 MEIKO:「ま、ミクのポカミスなんて、今回に始まったことじゃないけど」
 ミク:「すいません。でも、リンとレンは凄いよね。あのミュージカルの主演ができたんだから」
 リン:「いやー、まさかリン達が抜擢されるなんてねぇ。今でも信じられないよ。『オーッホホホホホ!さあ、跪きなさい!』ってね」
 MEIKO:「懐かしいわ。あの時はまだ敷島エージェンシーじゃなくて、南里研究所だったのよね」
 KAITO:「ボク達がメジャーになるきっかけがミュージカルだったなんて、ちょっと変則的というか、想定外だったかな」
 巡音ルカ:「あの時も私、魔道師の役だったわね」
 レン:「……あ、そう言えば今回のシンデレラも、ボクはまた召使だ」
 リン:「何だかノリが、あの時のアレンみたいだよね」
 レン:「何だか複雑だな……」
 KAITO:「で、ボクはまた王子様」
 MEIKO:「あんた達はいいのよ。それだけキャラが固まってて、ブレてないってことなんだから」

 と、そこへボーカロイドの部屋がノックされた。

 リン:「はいはーい!」

 リンがガチャリとドアを開けると、そこにいたのはシンディだった。

 ミク:「ひぅ……!」
 シンディ:「全員……暇そうだね」

 ミクは俯いて、シンディと目を合わせないようにした。

 MEIKO:「ちょっと、シンディ。もういいでしょ、ミクのことは」
 シンディ:「もういいですって?……フン、あんた達はお気楽ね。ま、別にミクを責めに来たわけじゃないけど」
 レン:「じゃあ、何しに来たの?」
 シンディ:「社長から連絡。休演が明後日までなのは予定通り。だけど、再演日からは脚本の内容が変わるってさ」
 KAITO:「脚本が変わる!?……な、何だい?シンデレラをやめるって?」
 シンディ:「そんなことは言ってないじゃない。結局、ミクの大ミスを見ていた脚本家さんが、その対策として後半の内容を改変するんだってさ」
 ミク:「私なんかの為に……」
 シンディ:「ミク。あんたはそれだけ多くの人間に迷惑を掛けたってことよ」
 ミク:「はい……」
 シンディ:「主役を張るってどういうことなのか、もう1度よく勉強しなさい」
 ミク:「は、はい!」
 リン:「リンは楽しんでやったよー?」
 レン:「ボクもリンと共演できて楽しかったかな」
 シンディ:「呆れた。本当にお気楽ねぇ」
 ミク:「楽しんでやる……」
 リン:「レンったら、まだ首が外れる仕様なんだYo〜」
 MEIKO:「そうなの?じゃ、またシンディ騙せるね。昔みたいにさ」
 シンディ:「あのねぇ、私ゃもう首引っこ抜いたりしないよ。……ま、確かに前期型の私は見事に騙されたけどさ」
 ミク:「楽しく……」
 シンディ:「ん?」
 ミク:「分かりました、シンディさん!ありがとうございます!」
 シンディ:「え?え?なに?何か私、変な事言った???」
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