報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「JR日光線」

2017-10-02 20:52:42 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[9月13日21:30.天候:晴 栃木県日光市 JR日光駅前]

 タクシーが駅前に到着する。

 運転手:「またお支払いはカードで?」
 稲生:「はい」

 稲生、イリーナが渡したアメリカン・エクスプレスのプラチナカードを差し出す。
 これはとある世界的な大富豪が、イリーナという世界的な“占い師”を取り込む為に渡した報酬の1つであるという。
 他にもイリーナは、庶民から見れば青天井とも言うべき限度額のカードをもらっている。
 もっとも、世界を移動する時くらいしか本人は使わない。
 20世紀に入ってからも、移動は貨物船や貨物列車に便乗するような移動法をしていたこともあり、今さら感があるらしい。

 マリア:「少し寒い……」

 奥日光に行けばもっと寒いのだろうが、日光駅周辺だけでも宇都宮より標高が高い為、とても涼しく感じられる。

 稲生:「お待たせしました」

 料金の支払いを終えた稲生が、タクシーから降りて来た。

 マリア:「それじゃ、早いとこ電車に乗ろう」
 稲生:「ええ。ただ、その電車なんですがね……」
 マリア:「ん?」

[同日21:41.天候:晴 JR日光駅 JR日光線ホーム]

〔「1番線に停車中の電車は21時46分発、普通列車の宇都宮行き。本日、宇都宮行きの最終電車となります。ご利用のお客様は、お乗り遅れの無いよう、ご注意ください」〕

 稲生:「最終電車なんですよ」
 マリア:「だから?」
 稲生:「しかも、205系!」
 マリア:「だから何だ!」

 JR日光線を走行する205系は、元々は京葉線を走行していたものだった。
 その為、前面形状がオリジナルタイプと違った個性的なものになっている(え?相模線の205系には負けるって?知らんなぁ)。
 あいにくと挿絵代わりの写真は用意できなかったので、ウィキペディア辺りを参照して頂きたい。
 4両編成の1番後ろに乗り込む。

 稲生:「う、うん。車掌さんが乗り込んだな。……JRの制服だよな?冥鉄の制服じゃないよな?」
 マリア:「しつこい」

〔「ご案内致します。この電車は21時46分発、JR日光線、普通電車の宇都宮行きです。発車までご乗車になり、お待ちください。本日上りの最終電車となります。お乗り遅れの無いよう、ご注意ください」〕

 車掌が客室との境の乗務員室扉を開けて放送をした。
 マイクの調子やスピーカーの音量が適切かどうかを確認しているのである。

 稲生:「う、うん。JRの乗務員だ」
 マリア:「そう簡単に冥鉄の思い通りにさせるか。だいたい、ユウタだって魔道師の端くれなんだから、何とかできただろう?」
 稲生:「取りあえず、運転室の鍵を探して右往左往してました」
 マリア:「いや、だから何でそこでそういう行動に出るかなぁ!?」

 魔道師なんだから魔道師らしく、もっと魔法を使うなりして対応すれば良かったのにとマリアは言いたかったようだ。

 稲生:「でも今回にあっては、魔法使えませんよ?僕もマリアさんも、MP0に近いでしょ?」
 マリア:「HP回復薬だけじゃなくて、MP回復薬も持って来るんだったなぁ……」

 そこはマリアも誤算してしまったようだ。
 尚、RPGによっては聖水でも体力や魔力が回復する描写があるが、ここでは聖水はあくまで魔法陣や人ならざる者に対して使うアイテムということになっているので、自己に対して使用することはない。

 それから5分くらいして、日光線の最終電車が発車した。
 上りの最終電車ということもあって、4両編成の電車に乗客は疎らだった。

〔「お待たせ致しました。今日もJR東日本をご利用頂きまして、ありがとうございます。21時46分発、JR日光線、普通電車の宇都宮行きです。これから先、今市、下野大沢、文挾、鹿沼、鶴田、終点宇都宮の順に止まります。終点、宇都宮には22時29分の到着です。……」〕

 4両編成の通勤電車ながら、トイレが先頭車両に付いていたり、気候の変化の激しい路線であることから、乗降ドアは半自動になっている旨の案内もあった。

 稲生:「先生からメールが来たんですが、ロシア語で書かれていて、何て読むんだかさっぱり分かりません」
 マリア:(あのBBA……)

 本当はマリアが直にイリーナと連絡を取れば良いのだが、水晶球を『3時の魔道師』に壊されてしまった。

 マリア:「えーと……」

 しょうがないので、マリアが自力で翻訳することにした。
 マリア自身、母国語は英語である為、ロシア人の多い師匠クラスの話には付いて行けないことが多い。

 マリア:「私達が乗っている電車の終点駅で待つ……ようなことが書いてある」
 稲生:「つまり、宇都宮駅ですね」
 マリア:「しかし、実際どうする?このまま東京まで戻るか?」
 稲生:「いや、こうなったら実家に泊まらせてもらいましょう。今から、実家に連絡しますから」
 マリア:「そうか。ユウタの御両親に申し訳無いな」
 稲生:「いえいえ。この電車で行けば、宇都宮線の終電に間に合うはずです」
 マリア:「分かった」

 稲生は実家にメールを送った。
 その後で、英語でイリーナに上記の件をメールしたのである。

 稲生:「相変わらず驚かれていますが、実家の方は受け入れOKです」
 マリア:「さすがだな。ま、御両親には私から説明しておく」
 稲生:「いや、いいですよ。僕がしますから。……あ、それとも先生がしてくれるかな?」
 マリア:「それはやめておいた方がいい」
 稲生:「どうしてです?」
 マリア:「師匠がどうして戻って来るのに手こずったのか分からない以上、最悪御両親の記憶をイジる恐れがある」
 稲生:「それは困りますねぇ」
 マリア:「私もそう思う。だから、私とユウタで上手く説明するようにしよう」
 稲生:「そうしましょう」

 すると、イリーナからメールの返信があった。
 だが、またしてもロシア語で書かれており、何とか翻訳してみると、『こらー!先生の悪口を言うなって何度言ったら分かるのー!?ヽ(`Д´)ノ』という他愛も無いものだった。
コメント
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