報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「大どんでん返し」

2017-10-13 19:14:12 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[9月16日14:02.天候:曇 JR白馬駅]

〔♪♪(車内チャイム)♪♪。まもなく終点、白馬です。大糸線、南小谷、糸魚川方面はお乗り換えです。……〕

 電車が単線のローカル線を走行する。

 マリア:「そろそろ師匠を起こした方がいいぞ」
 稲生:「そうですね。先生、先生。そろそろ着きますよ。起きてください」

 稲生がイリーナの肩をゆする。
 イリーナはグリーン車の座席を深々倒し、ローブのフードを被って寝ていた。

〔「……お乗り換えには、まだだいぶ時間がございます。今度の普通列車、南小谷行きは15時49分……」〕

 稲生:「先生……?」
 マリア:「どうした?」
 稲生:「何か、いつもの先生と違う反応なんです」
 マリア:「どういうことだ?まさか死んで……?」
 稲生:「いや、ちゃんと呼吸はあるんですけど、反応が無いというか……」

〔「……まもなく終点、白馬、白馬です。1番線到着、お出口は左側です。……」〕

 マリア:「師匠、師匠」
 イリーナ:「う……うぁあっ!」

 イリーナはようやく目が覚めた。

 イリーナ:「はあ……はあ……」
 稲生:「せ、先生?大丈夫ですか?」
 イリーナ:「う、うん……。大丈夫よ……」
 マリア:「何か、予知夢でも……?」
 イリーナ:「う、うん……。ちょっとね……」

 稲生とマリアは顔を見合わせた。

 マリア:(それまでずっと寝ていたわけだから、私達に直接何かあるというわけでもないみたいだけど……)

 電車は駅舎と直接繋がっている1番線に到着した。

〔「ご乗車ありがとうございました。白馬、白馬です。お忘れ物の無いよう、ご注意ください。1番線の電車は、回送となります。ご乗車になれませんので、ご注意ください」〕

 改札口を出て待合室を抜け、駅前のロータリーに出る。
 駅前には観光客を出迎えに来たホテルや旅館の送迎バスが散見された。

 稲生:「先生、本当に大丈夫ですか?少し、お休みになってからの方が……」
 イリーナ:「いいえ、大丈夫よ。それより、迎えの方は?」
 マリア:「おかしい。いつもなら、私達を迎えに来ているはずなのに……」

 魔法で作り上げた車と運転手。
 今回はイリーナが使っているはずだから、それらしい高級車と制服と制帽に身を包んだ運転手が迎えに来ているはずだった。
 それがどこにもいない。

 イリーナ:「……!」
 マリア:「どうします?ル・ゥラで帰りますか?」
 イリーナ:「ダメよ。いくら何でもここで魔法は使えないわ。タクシーで近くまで行きましょ」
 稲生:「分かりました」

 稲生達は駅前に止まっていたタクシーに乗り込んだ。

[同日14:35.天候:曇 長野県北部 マリアの屋敷付近]

 稲生:「すいません。あのバス停の前で止めてください」
 運転手:「えっ?そんな所でいいんですか?」
 稲生:「はい、お願いします」

 助手席に座る稲生は、運転手に停車場所を指示した。
 運転手が驚くのも無理は無い。
 ここは山道の途中で、バス停も誰得な位置にあるからだ。
 『峠道』なんて適当な名前が付いているくらいだ。
 一応、時刻表としては1日3本のバスが走っていることが分かる。
 それでも作者の家の近くを通る西武バス大宮営業所、大38系統より多い。

 運転手:「これから、山菜取りかキノコ狩りですか?」

 バス会社と同グループのタクシー会社に所属する運転手は、一応ここが山菜取りやキノコ狩りに来る人達くらいはいるということは理解しているようだ。
 一応、そのバス停もそんな利用者を見込んでのことだろう。
 しかし稲生は、このバス停で乗り降りするのを自分以外に見たことが無い。

 稲生:「いえ、帰宅ですよ」
 運転手:「帰宅!?」
 稲生:「……あ、カードで払います。こんな山奥でも、電波は入るはずなんで……」
 運転手:「は、はい……」

 稲生の言う通り、クレジットカードは使えた。

 運転手:「では、こちらにサインを……」
 稲生:「はい」
 運転手:「ありがとうございました」

 稲生達はタクシーを降りた。

 運転手:「あっ、お客さん!そっちは崖……!」

 稲生達にははっきり見える林道のような砂利道。
 しかし、タクシーの運転手には崖へのダイブにしか見えなかった。

 運転手:「……いない……」

 これでまた、この山道における怪談話を1つ増やしてしまった。
 まあ、シートを濡らして消えてしまう幽霊よりはマシだろう。
 料金はちゃんと支払われているのだから。

[同日14:40.天候:曇 マリアの屋敷]

 公道から見えなくなった所で、イリーナは瞬間移動魔法を使った。
 それで稲生達は屋敷の前に移動する。

 稲生:「こ、これは……!?」
 イリーナ:「くっそ〜……!」
 マリア:「やられたか……」

 屋敷が半壊していた。
 具体的には主にマリア達が居住していた西側のダメージが大きかった。

 稲生:「先生、あれを!」

 公道に通じる道の途中で、車が激突事故を起こしていた。
 あれはイリーナが召喚し、駅まで迎えに来させるはずの車だ。
 それで来れなかったのである。

 マリア:「だ、誰がこんなことを……!」
 イリーナ:「ちょっとあなた!大丈夫!?」

 イリーナが玄関近くで倒れてた魔道師に駆け寄った。

 稲生:「あっ、あなたは……!キャサリンさん!?」
 マリア:「何だって!?」
 イリーナ:「キャシー、一体どういうことなの!?」
 キャサリン:「『3時の魔道師』を連れて来たはいいものの……待ち伏せしていた東アジア魔道団の攻撃を受けて、このザマです」
 稲生:「『3時の魔道師』は!?」
 キャサリン:「私のレストランで働いていた弟子候補のエリザベス・リー。……実際は、東アジア魔道団のスパイだったようです」
 イリーナ:「やっぱりか」
 稲生:「『3時の魔道師』は東アジア魔道団のヤツだったんですか!?」
 キャサリン:「そういうことになります。あなた達のことは、お客として知っていたんですね。それで、殺してしまうと足が付くと思ったとのことです」
 イリーナ:「つまり、これは……東アジア魔道団の正式なる宣戦布告と見て良いということね?」
 キャサリン:「イリーナ先輩。このことを早く、大師匠様に……!」
 イリーナ:「ええ。もちろんよ」
 稲生:「一体、何がどうなってるんだ……!?」
 キャサリン:「稲生君が思っているほど……あの学校は、ただ単に怪奇現象に晒されただけの場所じゃないということよ」
 稲生:「ええっ?」
 イリーナ:「とにかく、中に入りましょう。半壊程度で済んで良かったわ。これくらいなら、まだ魔法で直せる」

 いつの間にか単に曇っていた空から雷鳴が響き、雨が降り出して来ていた。
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“大魔道師の弟子” 「信州へ」

2017-10-13 10:11:40 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[9月16日09:42.天候:晴 JR新宿駅埼京線ホーム→中央本線特急ホーム]

〔「ご乗車ありがとうございました。まもなく終点、新宿に到着致します。2番線に入ります。お出口は、左側です。……」〕

 稲生:「先生、先生。着きましたよ」
 イリーナ:「ん?……ああ、着いたのね」
 マリア:(師匠が寝ている間は、特に心配無い……はず)

 電車はポイントを渡り、ゆっくりと埼京線ホームへ。

〔しんじゅく〜、新宿〜。本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございました。お忘れ物の無いよう、ご注意ください〕

 ドアが開くと一斉に乗客が降り始めた。

 稲生:「えー……次は中央本線……9番線と10番線、どっちかな?」

〔本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。2番線に停車中の電車は、9時49分発、各駅停車、大宮行きです。発車まで、しばらくお待ちください〕

 稲生が呟きながら階段をコンコースへ登る。
 コンコース上には各ホームの発車票がぶら下がっていて、それを見た。

 稲生:「……あ、10番線ですね。なので、こっちです」
 イリーナ:「そうかい。因みに9と3/4番線はあっちだよ」
 稲生:「そうですか……って、ええっ!?」
 マリア:「ウソばっか」
 イリーナ:「いずれは、ここからも魔法学校行きの列車を走らせたいものだねぇ……」
 マリア:「そもそもこっちは魔法学校を作る計画自体が頓挫してるのに、何を仰いますか」
 稲生:「これが現実かぁ……」

 稲生はコンコースの壁に貼られている“ハリー・ポッター”シリーズのポスターを見て苦笑した。

 そうして10番線ホームに辿り着く。
 9番線には10時ちょうどの定期列車が停車しており、稲生達が乗るのはその直後に発車する臨時列車である。

 イリーナ:「向こうには9と3/4番線……」
 マリア:「もういい加減、諦めてください。例え魔法学校が作られても、私は行きませんからね」
 稲生:「マリアさん、何もそんな言い草……」
 マリア:「知ってるか?私の屋敷。あれだけの敷地を確保して、あれだけの大きい建物を建てたのは、実は魔法学校設立計画の名残りなんだよ」
 稲生:「ええっ!?……何で、頓挫したんですか?」
 マリア:「皆、我が強い魔女達ばっかりだろ?しかも人間時代はヒドいイジメを受けていたヤツらばっかり。そんな連中がホイホイ学校行くと思うか?」
 稲生:「……行かないと思います」

 稲生もまた中学校まではイジメ被害者。

 マリア:「他には東アジア魔道団やその他門流など、仲の悪い他門ばっか。向こうからの妨害もある。おまけに後押しをしてくれるはずの魔界までが掌を返しやがってさ。それで頓挫したんだよ」
 稲生:「ホグワーツ魔法学校って、本当に魔法みたいに上手く行った学校だったんですねぇ……」
 イリーナ:「あーあ……何で皆、仲良くできないかな……」(´;ω;`)
 マリア:「皆と仲良くできたら、魔女になんかなりませんって」
 稲生:「だいいち、ホグワーツ魔法特急みたいなの、どうやって走らせるんです?」
 イリーナ:「冥界鉄道公社にでも運行をお願いしようかなーっと」
 稲生:「あ、すいません。僕も入学お断わりします」
 イリーナ:「ええっ!?」Σ( ̄□ ̄|||)
 稲生:「いや、だってそりゃそうでしょ!毎回通学するたんびに“最終電車”みたいなことさせられたら、命がいくつあっても足りませんって!」
 マリア:「おー、そうだそうだ!もっと言ってやれ!」
 イリーナ:「えー……」
 マリア:「現実は、各弟子が個人的に師匠の下に弟子入りして修行を積むというものですよ。ダンテ一門だって、一枚岩じゃないんですから」
 稲生:「あ、そうそう。僕もそう思いました。うちとアナスタシア組とじゃ、まるで門流自体が違うんじゃないかって錯覚しそうですね」
 マリア:「そうだろそうだろ」
 稲生:「日蓮正宗も法道院と妙観講じゃ、まるで宗派自体が違うんじゃないかってくらい雰囲気が違うらしいですから」
 マリア:「そういうものだ」

〔本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。10番線に停車中の列車は、10時4分発、特急“あずさ”55号、白馬行きです。……〕

 稲生達はグリーン車の乗車券を手に8号車に乗り込んだ。

 稲生:「先生のお席はこちらです。僕達はその後ろに……」
 イリーナ:「はいよ」

 んしょんしょと自分の荷物を荷棚に乗せるマリア。
 乗せ終わると、そこから顔を出すのは人形達。

〔「ご案内致します。この電車は10時4分発、中央本線、大糸線直通の特急“あずさ”55号、白馬行きです。停車駅は立川、八王子、大月、石和温泉、甲府、小淵沢、富士見、茅野、上諏訪、下諏訪、岡谷、塩尻、松本、豊科、穂高、信濃大町、終点白馬の順に止まります。自由席は3号車から……」〕

 マリア:「ふう……」

 イリーナのお付きの弟子という名目でグリーン車の座席に座っているが、小柄な稲生とマリアとでは座席の大きさに体が合っていない感じである。

 マリア:「最悪、門内がドロドロのギスギスした関係じゃ、“ハリー・ポッター”のようにはいかないさ」
 稲生:「さっきの話ですか?」
 マリア:「『3時の魔道師』が誰なのか分からないけど、それでユウタも私も大騒ぎするようじゃ、皆で切磋琢磨して魔法を覚えようとかいう気にはなれないだろう」
 稲生:「すいません。僕のせいですね」
 マリア:「ユウタのせいじゃない。どうせ今回、例え日光に行ってなかったとしても、ユウタの後輩達が殺されたことはニュースで流れて知ることになっただろうし、ましてや藤谷班長が教えに来ただろうさ」
 稲生:「…………」
 マリア:「契約の内容がどんなものなのかは知らないけど、東京中央学園の事件を知っていながら契約をしたことは……ん?」
 稲生:「どうしました?」
 マリア:「東京中央学園の事件を知っているヤツが、契約をするとは思えないな。犯人はエレーナじゃないな、多分」
 稲生:「僕もそう思います。しかしそれなら、アンナも知ってると思いますよ」
 マリア:「分かんないな。とにかく、帰ってみれば分かるだろう」
 稲生:「ええ」

 列車は発車時刻を迎え、新宿駅を出発した。
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