報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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“大魔道師の弟子” 「意外な訪問者」 2

2017-10-29 19:17:26 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[10月27日19:00.天候:曇 長野県北部山中 マリアの屋敷]

 県道からはマリアの屋敷に通じる道は見えない。
 だが、稲生が同乗していることにより、藤谷の車のライトには道が映し出されていた。

 稲生:「この道を進んでください」
 藤谷:「こりゃとんでもねぇ。道を塞いでいる土砂が勝手に消えて行くじゃないか。そういう風にしてカモフラージュしていたのか」

 舗装はされていないものの、車1台なら十分に通れる道を進む。
 そして、赤いレンガ造りのトンネルがあった。

 稲生:「よし、赤くなってる。あのトンネルを潜ってください」
 藤谷:「お、おう。……赤くなってる?」
 稲生:「いえ、何でもありません」

 トンネルを抜けると、マリアの屋敷が浮かび上がった。

 稲生:「あれです」
 藤谷:「こりゃあ、ホラー映画に出てくる洋館そのものだな」

 藤谷は正面玄関の前に車を止めた。

 藤谷:「車はどこに駐車すればいいんだい?」
 稲生:「このまま、ここでいいですよ。どうせ、他に誰も来ませんし」
 藤谷:「随分フランクだなー」

 車から降りて、玄関から中に入る。

 イリーナ:「やあやあ。よく来てくれたねぇ」
 藤谷:「イリーナ先生!我が社が、いつもお世話になっております」
 イリーナ:「いいよいいよ。藤谷さんも、命拾いしたねぇ」
 藤谷:「は?」
 イリーナ:「夕食の用意ができてるよ。ユウタ君、先に部屋に案内してあげて。ユウタ君の隣の部屋、空いてるでしょ?」
 稲生:「分かりました。それじゃ班長、こちらへ」
 藤谷:「あ、ああ」

 稲生は先にエントランスホールの吹き抜け階段を上がって、右に曲がった。
 藤谷も後から付いてくる。

 稲生:「長野へは仕事で?」
 藤谷:「そうなんだ。大町市のスキー場建設でね。せっかく近くまで来たんだから、ついでに寄って行こうと思ったんだ」
 稲生:「いや多分、大町市と白馬村はそんなに近いとは思えないです」
 藤谷:「村で聞いたら、山の中に『魔女の住む屋敷がある』だとか、『キリスト教会が魔女狩りに向かったが、誰一人帰って来なかった』とか、色々な噂があったね」
 稲生:「良かったですねぇ、僕達仏教徒で……。あっと!そこ、気をつけて」
 藤谷:「なに?」
 稲生:「即死トラップがあるんで。上から落ちてきます」
 藤谷:「金ダライが?」
 稲生:「違います!槍です!」
 藤谷:「ええっ?」
 稲生:「おっと!その壁の絵に近づかないで!描かれている死神、本当に出て来て鎌で襲って来るんで」
 藤谷:「ええっ!?」
 稲生:「ダメです!こっちを歩かないと!レーザートラップがありますよ!」
 藤谷:「な、何ちゅう厳戒さだ……」

 そして、部屋に着く。

 稲生:「班長はこの部屋を使ってください」
 藤谷:「おっ、結構まともな造りだ。スキー場の近くにあるペンションの客室みたいだな。……部屋の中に仕掛けは無いだろうね?」
 稲生:「……。無いですよ」
 藤谷:「ちょちょっ……!今の間は何だ?今の間は?」
 稲生:「それより、荷物を置いたら夕食にしましょう」
 藤谷:「ん?……そうだな」

 再び廊下に出た。

 稲生:「あの部屋がバスルームです。トイレもあそこです」
 藤谷:「ああ、分かった」

 稲生が専用で使っている部屋にはシャワールームとトイレがあるのだが、他のゲストルームにはそれが無い。

 それから稲生達は、大食堂に到着した。

 イリーナ:「東側のトラップは解除しておいたから、心配しなくていいよ」
 稲生:「何だ、そうですか」
 イリーナ:「さすがにバスルームに行くのに、いちいちトラップを気にしてちゃ、ゲストもゆっくり過ごせないものねぇ……」
 稲生:「それもそうですね」
 藤谷:「あ、先生方。手ぶらで来るのも何だと思いましたので、お土産を持って参りました」

 藤谷が持って来たのは山梨県で製造されているワイン。

 イリーナ:「おやまあ、これはまだ飲んでなかったねぇ。よし、じゃあ秘密のトラップも解除しておこう」
 稲生:「まだあったんですか!」
 藤谷:「稲生君、ところで御登山のことなんだけど……」
 稲生:「ええ。参加しますよ。あれ?封筒に申し込み用紙が入って無かったんですけど、それってお寺に直接ってことですか?」
 藤谷:「そうなんだ。頑固な登山部長が、末寺でないと受け付けんと聞かなくてね」
 稲生:「それですよ!目標登山者数が減った理由!」
 藤谷:「表向きは、末寺に足を向かせようということなんだろうけどね」
 稲生:「半端無いですね、登山部長は」
 藤谷:「ところで稲生君は、どうやって大石寺まで行くの?」
 稲生:「東京駅から新幹線で行こうかと。末寺に行く為に、東京で一泊する必要があるので」
 藤谷:「なるほど、そうか」
 稲生:「班長はあのベンツで?」
 藤谷:「いや、ベンツはベンツなんだが……Vクラスに乗せられそうだ」
 稲生:「Vクラス?」
 イリーナ:「7人乗りのミニバンさね」
 藤谷:「そうです」
 稲生:「何でまた?誰のですか?」
 藤谷:「何でも、顕正会で組長やってた鈴木ってヤツの車なんだが……。ある宿坊に御受誡した徳森君って知ってるか?顕正会では、『特盛くん』と呼ばれていたそうなんだが……」
 稲生:「聞いたことあるなぁ……?」
 マリア:「! 新千歳空港で会ったことがある!」
 稲生:「そうなんですか?」
 マリア:「沢尻エリとかいう彼女がいたはずだ」
 藤谷:「あの人達も元顕正会員なんだが、鈴木君もまた同じ組織にいたらしいんだ」
 稲生:「それがどうして正証寺に?同じ宿坊に行けばいいのに」
 藤谷:「まあ、御受誡前に色々あったみたいだ。そんなわけで、大石寺にはそいつのベンツVクラスで行くことになったよ。元々金持ちのボンボンみたいだから」
 稲生:「へえ……」
 藤谷:「といっても同乗するのは、婦人部のお年寄りばっかよ」
 稲生:「いい功徳になりそうですね」
 藤谷:「色んな意味でな」

 尚、顕正会員にとって、特別布教区の法華講員はイコール妙観講というイメージが強い。
 その為、鈴木元組長は特盛くん達が妙観講に行ってしまったのではないかと誤解して、ひどく動揺したらしい。
 その後で特盛くん達から折伏があったそうなのだが、妙観講に対する敵対心の強さから、頑なに断っていたという。
 紆余曲折あった後、藤谷からの折伏を受ける。
 末寺なら妙観講の影響は無いだろうということで、正証寺にて御受誡を受けたとのこと。

 稲生:「班長、夕方の勤行は終わってるんですか?」
 藤谷:「県内の末寺で、参加させてもらったよ」
 稲生:「さすがは班長」

 稲生は大きく頷いた。
コメント (1)
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