報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「稲生家へ向かう」

2017-10-04 19:10:53 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[9月13日23:00.天候:晴 JR宇都宮線 2544M電車5号車内]

 サンドイッチやお握りなど、夕食というよりは夜食的な食事を終えた稲生とマリア。
 前の席ではイリーナがリクライニングシートを最大限に倒して寝ている。

 マリア:「ちょっと、お手洗い行ってくる」
 稲生:「はいはい、どうぞ」

 グリーン車のトイレは4号車と5号車の間にあるからして、普通車のトイレと違って洗面所も別に付いているのである。
 E231系の基本編成の場合、トイレ付き電車にしては珍しく、一部の編成には中間車にもトイレがある(その代わり、10号車にトイレが無い)。
 5号車の隣の6号車がそうなのだが、こちらは和式である。
 両側のクハ車にある編成においては、どちらもバリアフリー対応の洋式である。
 そんな稲生の講釈を思い出しながら、トイレに入るマリア。
 どのような編成であれ、グリーン車のトイレは漏れなく洋式である。
 その後で洗面台に行くと、洗面所の横に1枚のメモが置かれていた。

 マリア:「これは……!?」

 『3時の魔道師の杖』と書かれて、そのイラストが描かれていた。

 マリア:(どこかで見たことのある装飾だな……)

 訝し気にそのメモを持ち、自分の座席に戻る。
 爆睡しているイリーナの杖とは、もちろん違う。
 傾向的に言えば、ベテランになればなるほど装飾も凝ったものになることが多い。
 派手になるというわけではなく、凝っているのである。
 そういった意味ではマリアのはまだシンプルなデザインだし、稲生に至ってはもっと簡素である。
 このメモのイラストを見ると、かなり凝ったデザインになっている。

 稲生:「どうしました、マリアさん?」
 マリア:「いや……。ユウタが見た『3時の魔道師』の杖はこんな感じ?」
 稲生:「あー、そうです。この、ザクロの身みたいな物が先端に付いてましてねぇ……」
 マリア:「そうか……。師匠に見せれば分かるかもしれない」
 稲生:「あ、それもそうですね」

 しかし、イリーナは爆睡している。

 稲生:「ま、家に着いてからでいいでしょう」
 マリア:「そうだな」

[同日23:57.天候:晴 JR大宮駅]

 宇都宮線の最終電車が大宮駅に到着した。

 稲生:「やっぱり起こすのに苦労した!」
 マリア:「この終電で良かったかもね」

 ドアが開いてぞろぞろと乗客が降りて行くのだが、イリーナの寝起きが悪かった。
 確かに、もしこれが上野以南行きだったら、乗り越していただろう。
 で、他にも寝落ちして駅員や乗務員に起こされた乗客もいるだろうに、稲生達が最後の降車客だったくらいだ。

 イリーナ:「うう……済まないねぇ、2人とも……」
 マリア:「師匠の場合、ハイポーションでも飲んだらどうですか?」
 イリーナ:「あいにくと今、持ち合わせていないのよ」
 稲生:「僕達の為に、エリクサー2本お持ちだったのに……。はっ、まさか!そのせいで、ポーションを用意できなかったとか……」
 イリーナ:「あ、いや、そういうわけじゃないんだけどねぇ……」

 上野方面の中距離電車はもう無いわけだが、京浜東北線や埼京線ならまだある。
 元気な乗客達は、そちらに向かって全力ダッシュしていた。

 稲生:「ま、とにかくタクシーで僕の家に行きましょう」
 イリーナ:「うんうん、頼むよ」
 マリア:(こりゃ、杖のことについては聞けないな……)

[9月14日00:25.天候:晴 埼玉県さいたま市中央区 稲生家]

 稲生:「はい、着きましたよ」

 タクシーが家の前に到着する。
 稲生が座っている助手席の前の表示機が、『割増』から『支払』に変わる。
 あいにくとクレジットカードが使えないタクシー会社であった為、ここは稲生が現金で支払った。

 マリア:「師匠、まだ寝ないでくださいね」
 イリーナ:「分かってるよ〜……」

 車を降りて、家の中へと向かう。
 父親の宗一郎が出迎えた。

 宗一郎:「これはこれはイリーナ先生」
 イリーナ:「夜分遅くに、申し訳無いですねぇ……」
 稲生:「いや、ちょっと色々あって……」
 宗一郎:「まあ、どうぞ。中へ」
 イリーナ:「お邪魔します」
 マリア:「失礼シマス」
 宗一郎:「すぐお休みになりますか?」
 イリーナ:「私はそうさせて頂きます」

 するとマリアはこそっと稲生に耳打ちしてきた。

 マリア:「ユウタ、後で2階のシャワー使わせて」
 稲生:「気に入られたみたいで、何よりです」

 威吹がまだ同居していた頃、稲生を横取りせんとした悪質な妖怪達が襲撃に来たことがある。
 その対策として、洗面所をシャワーブースに改築したもの。
 但し、元が洗面所だった為、脱衣所は無く、廊下で真っ裸になるというものだった。

 マリア:「師匠」
 イリーナ:「なぁに?」
 マリア:「寝る前にちょっと聞きたいことがあります。これを見てください」

 マリアは宇都宮線の電車内で見つけたメモを見せた。

 マリア:「この杖の持ち主が誰か分かりますか?」
 イリーナ:「……さあ、分からないわね。地味過ぎず、かといって派手過ぎでもない。ちょうど普通くらいのデザインの杖なんて、1番多いから」
 マリア:「これと似たような杖を持った者は?」
 イリーナ:「何人かいるけどね」

 1つとして同じデザインの装飾を施した魔法の杖は無いが、似たようなデザインとなると、それはある。

 イリーナ:「でも、これがどうしたの?」
 マリア:「ユウタのハイスクールの後輩を2人殺し、あまつさえユウタをも殺そうとした魔道師が持っていた杖です」
 イリーナ:「前者はともかく、後者に関しては聞き捨てならないわね」
 マリア:「ともかくって……」
 イリーナ:「その魔道師が何かの目的で動いていて、その一環として2人を殺してしまったというのなら仕方が無い。ユウタ君には悪いけど、運が悪かったと思って諦めてもらうしかない。でも、いくら何かの契約とはいえ、同じ魔道師を殺す理由は無いからね」

 例えば契約を持ちかけた者が、ある魔道師を殺して欲しいという内容を持ってきたとしよう。
 普通は断る。
 同門であれば尚更だ。
 それでも間違って殺したりしないよう、ダンテ一門では受けた契約を門内に公表する規則になっているのだ。

 イリーナ:「後でユウタ君に話を聞いてみましょう。今日は……といっても、もう日付が変わったけど、明日にしましょう」
 マリア:「『3時の魔道師』が襲って来たら……」
 イリーナ:「それが、そのユウタ君を殺そうとしたヤツの通り名なの?初めて聞くわね。まあ、いいわ。この私が1つ屋根の下で寝るのよ?どんなヤツかは知らないけど、そんな勝手なマネはさせないわ」
 マリア:「それもそうですね」

 『3時の魔道師』の階級は、恐らくマリアよりも上だろう。
 だが、イリーナより上ということはないだろう。
 それはダンテ門流の創始者であるダンテ・アリギエーリただ1人だけだからだ。
 グランドマスター(Grand Master)たるイリーナがいるのだから、さしもの『3時の魔道師』もここには手出しができないはずだ。

 イリーナ:「私の目が青いうちは、誰も死なせはしないわよ。絶対にね……」
コメント (3)
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