報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“戦う社長の物語” 「劇団ロイド休業」 2

2017-10-23 19:14:52 | アンドロイドマスターシリーズ
[10月15日09:30.天候:晴 埼玉県さいたま市西区 DCJロボット未来科学館]

 萌:「いやー、まるでドリフターズのコントみたいな終わり方だったね〜」
 アルエット:「笑い事じゃないよ。あれのせいで、お姉ちゃん達、ずっと怖い顔だったもん」
 萌:「それにしても、あのミクさんが大ポカやるなんてねぇ……。トップアイドルなのに」
 アルエット:「ボーカロイドだからね。どうしても歌やダンスでの自動出力調整がメインだから、ただ演劇ってのは難しいみたいだよ」

〔「おはようございます。DCJロボット未来科学館、ただいまオープンです。どうぞ、ごゆっくりお楽しみくださいませ」〕

 萌:「おっ、オープンだよ!」
 アルエット:「仕事仕事」

 本当だったら今日も公演があったのだが、前回のセット崩壊事故のせいで、中止になっていた。
 そこでアルエットは、また元の仕事先である科学館に戻ったのだった。

[同日同時刻 天候:晴 東京都豊島区内某所 敷島エンター劇場]

 大道具監督:「おい、そこ気をつけろ」

 カンカンカンとハンマーで何かを打ちつける音、そして電動工具の音が鳴り響く劇場のステージ。

 敷島俊介:「こりゃまたド派手にブッ壊してくれたなぁ……」
 敷島孝夫:「いや、本当に申し訳無いことで……はい……」
 監督:「いえ、こちらこそ。まさか、あれほどの衝撃でぶつかると思わなかったので……柱の強度が足りなくて申し訳ありませんでした」
 孝夫:「いやいや……。余計な仕事をさせて申し訳ありませんけど、よろしくお願いします」
 俊介:「あと、どのくらいで復旧する?」
 監督:「そうですねぇ……。強度の確認やセットの動作確認もしたいので、あと1〜2日はお時間が欲しいところです」
 孝夫:「すると、今日も入れて3日間か……」
 俊介:「柱2本壊しただけで、このザマだよ。如何に舞台ってのは、デリケートなものか分かるものだ」
 孝夫:「はい……。私の認識不足でした。申し訳ありません」
 俊介:「孝夫はそもそも人間のタレントをプロデュースしたことが無いからね。ましてや舞台演劇など、初めてだろう?ミュージカル以外」
 孝夫:「ええ……」

 ステージの視察はこのくらいにして、場所を移動する敷島達。

 俊介:「実は今回の演劇の事なんだが……」
 孝夫:「ええ。全て責任者の私が取ります。だから、ミクは許してあげてください」
 俊介:「いや、そういうことじゃない。初演の時、脚本家の方が舞台を見に来ていたらしいんだ」
 孝夫:「はあ……」
 俊介:「初演のザマを見て、こりゃイカンと思ったとのことだ」
 孝夫:「それで、どうなさると?」
 俊介:「脚本の内容……特に、後半を変えるとのことだ」
 孝夫:「脚本を変える!?」
 俊介:「そう。今、改訂版を手掛けているらしいぞ。恐らく、階段落ちのシーンからして変えるつもりではないだろうか」
 孝夫:「一体、どういう話になるんでしょうか?」
 俊介:「分からんな。孝夫、脚本家さんに連絡して、明後日まで休演にする旨伝えておいてくれ。そうすれば、彼もいつまで改訂版を出せばいいのか参考になるだろう」
 孝夫:「分かりました」

[同日10:42.天候:晴 JR池袋駅]

 エミリー:「社長、そちらは逆方向のホームですが……」
 敷島:「分かってるさ。ちょっと、脚本家さんの所へ顔を出してくる」

 エミリーは敷島が帰宅の途に就くものとばかり思っていた。
 しかし敷島が向かったのは埼京線下りや湘南新宿ライン北行ホームではなく、その逆方向のホームだった。

 敷島:「脚本家さんの家は渋谷だったな」
 エミリー:「そうです」

〔まもなく1番線に、りんかい線直通、新木場行きが参ります。危ないですから、黄色い線までお下がりください。次は、新宿に止まります〕

 敷島:「初演のミクの演技を見て、こりゃ脚本を変えなきゃイカンと思ったらしいぞ」
 エミリー:「さすがですね」

[同日13:00.天候:曇 東京都江東区豊洲 敷島エージェンシー]

 初音ミク:「はあ……」
 MEIKO:「ちょっと、ミク。何度も溜め息つかないでちょうだい」
 ミク:「MEIKOさん、すいません」
 KAITO:「そうだよ、ミク。こうして皆、また一同に会するなんて、なかなか無かったからいい機会じゃないか」
 巡音ルカ:「確かに、今まで皆忙しかったから、会う機会ってめっきり無くなってたもんね」
 鏡音リン:「これも、明後日まで公演が中止になったおかげですなぁ」
 鏡音レン:「これが人間の役者さんとかだったら、どうするんだろうね?」
 巡音ルカ:「やっぱりボイトレとか、筋トレとかするんじゃないかしら?」
 リン:「せっかくだから、遊びに行くとか?」
 KAITO:「はははは。だからなのか、人間の劇団とかだと、長期公演の場合、必ず定期休演日があるんだよね」
 ルカ:「私達、ボーカロイドだからどれも必要無いわね」
 リン:「せいぜい、博士達に整備を受けるくらいかな」
 レン:「それしかやることないよね、ボク達。台詞を忘れるなんてこともないし」
 MEIKO:「ま、ミクのポカミスなんて、今回に始まったことじゃないけど」
 ミク:「すいません。でも、リンとレンは凄いよね。あのミュージカルの主演ができたんだから」
 リン:「いやー、まさかリン達が抜擢されるなんてねぇ。今でも信じられないよ。『オーッホホホホホ!さあ、跪きなさい!』ってね」
 MEIKO:「懐かしいわ。あの時はまだ敷島エージェンシーじゃなくて、南里研究所だったのよね」
 KAITO:「ボク達がメジャーになるきっかけがミュージカルだったなんて、ちょっと変則的というか、想定外だったかな」
 巡音ルカ:「あの時も私、魔道師の役だったわね」
 レン:「……あ、そう言えば今回のシンデレラも、ボクはまた召使だ」
 リン:「何だかノリが、あの時のアレンみたいだよね」
 レン:「何だか複雑だな……」
 KAITO:「で、ボクはまた王子様」
 MEIKO:「あんた達はいいのよ。それだけキャラが固まってて、ブレてないってことなんだから」

 と、そこへボーカロイドの部屋がノックされた。

 リン:「はいはーい!」

 リンがガチャリとドアを開けると、そこにいたのはシンディだった。

 ミク:「ひぅ……!」
 シンディ:「全員……暇そうだね」

 ミクは俯いて、シンディと目を合わせないようにした。

 MEIKO:「ちょっと、シンディ。もういいでしょ、ミクのことは」
 シンディ:「もういいですって?……フン、あんた達はお気楽ね。ま、別にミクを責めに来たわけじゃないけど」
 レン:「じゃあ、何しに来たの?」
 シンディ:「社長から連絡。休演が明後日までなのは予定通り。だけど、再演日からは脚本の内容が変わるってさ」
 KAITO:「脚本が変わる!?……な、何だい?シンデレラをやめるって?」
 シンディ:「そんなことは言ってないじゃない。結局、ミクの大ミスを見ていた脚本家さんが、その対策として後半の内容を改変するんだってさ」
 ミク:「私なんかの為に……」
 シンディ:「ミク。あんたはそれだけ多くの人間に迷惑を掛けたってことよ」
 ミク:「はい……」
 シンディ:「主役を張るってどういうことなのか、もう1度よく勉強しなさい」
 ミク:「は、はい!」
 リン:「リンは楽しんでやったよー?」
 レン:「ボクもリンと共演できて楽しかったかな」
 シンディ:「呆れた。本当にお気楽ねぇ」
 ミク:「楽しんでやる……」
 リン:「レンったら、まだ首が外れる仕様なんだYo〜」
 MEIKO:「そうなの?じゃ、またシンディ騙せるね。昔みたいにさ」
 シンディ:「あのねぇ、私ゃもう首引っこ抜いたりしないよ。……ま、確かに前期型の私は見事に騙されたけどさ」
 ミク:「楽しく……」
 シンディ:「ん?」
 ミク:「分かりました、シンディさん!ありがとうございます!」
 シンディ:「え?え?なに?何か私、変な事言った???」
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“戦う社長の物語” 「劇団ロイド休業」

2017-10-23 10:12:45 | アンドロイドマスターシリーズ
[10月14日17:00.天候:晴 東京都江東区豊洲 敷島エージェンシー会議室]

 敷島孝夫:「……結局、舞台は大失敗。セットも大崩壊で、修理が完了するまでは公演中止と……。物凄い損害だ」

 バンッ!と机を叩くシンディ。

 シンディ:「ミク!どうするの、この責任!?」
 初音ミク:「……すみませんでした……」
 シンディ:「『すみません』で済めば、ケーサツは要らないってことよ!!」

 シンディ、ミクを強く責める。

 村上:「まあ、待ちなさい待ちなさい。舞台は初演中の初演なのじゃろう?撮影のやり直しが利く映画やドラマじゃあるまいし、そういうNGは却って付き物なんではないかな?」
 平賀:「そうだよ。歌舞伎や宝塚などでは、むしろそれを期待してやってくる観客もいるって話だぞ?」
 シンディ:「付き物ですって……?あれだけの失敗、付き物どころではありませんわ!正にロボットテロ並みの崩壊ですわよ!」
 エミリー:「シンディ、落ち着け。こう言っては何だが、私やシンディならともかく、ミクがぶつかったくらいで倒壊する柱というのも問題だったと思うぞ」
 敷島:「ああ、そうそう。それなんだけど、人間の役者に合わせたセットだったんだ。柱の強度や固定具合も、他の人間の役者がやっているのを想定したものだったんだ。いくら戦闘力は持たないボーカロイドとはいえ、頑丈さは人間よりかなり上だから、それがぶつかった時の強度は想定していなかったらしい。後で、大道具係の責任者が謝りに来ていたよ」
 平賀:「確かに、あれがもし人間の役者であったら、命に関わる事故でしたもんね」
 シンディ:「社長も社長ですわ!素直に私達を主演にして下さっていれば、あんなことは無かったというのに!ミュージカルでも主演を張れなかった(※)ミクに主演をやらせるなんて無茶ぶりもいい所ですわ!!」

(※悪ノP先生作“七つの大罪シリーズ”においては“眠らせ姫からの贈り物”で主役を張っていたが、当作ではまだそのミュージカルは行われていないという設定。理由は、歌を歌わないミクの演技力に難がある為)

 エミリー:「社長、そこだけはシンディの言う通りだと思います。確かに私達に演劇は用途外かもしれませんが、敷島俊介社長の仰る『あらゆる可能性にチャレンジする』というスタンスであるならば、それで良かったのではないでしょうか」
 敷島:「……どこの会社に、秘書に演劇やらせる所があるよ?」
 平賀:「芸能事務所の社長らしくない発言ですよ、敷島さん?芸能界では“野猿”みたいに裏方さん達がデビューした例もありますし、本来テレビに出ることのないマネージャーがテレビ出演していたり(ホリプロの南田祐介氏など)、色々とやってるじゃないですか」
 敷島:「うーん……」

 何故か渋い顔をする敷島だった。

 平賀:(自分もあまり人のことは言えないけど、敷島さんも保守的になったか?独身の時と、まだボカロが売れない時はガンガンやっていたものだが……。会社が安定期に入って、あまり冒険したくなくなったと見える)
 シンディ:「ミク!あのセットを壊したのはあんたよ。だから責任取って、1人で直して来なさい!」
 村上:「おいおいおい!そりゃ無茶じゃよ。業者を呼んで修理させるほどのレベルじゃよ?」
 シンディ:「博士は黙ってて!!」
 村上:「ひいっ!はいっ!……け、血圧が……」
 ロイ:「博士!お薬を……!」
 鏡音レン:「血管圧力、上昇しています!」
 鏡音リン:「了解!降下剤、投入!」
 レン:「降下剤、投入!」
 エミリー:「遊ぶな」
 敷島:「今度はSFものでもやるか?」
 平賀:「既にこの世界観がSFですがね」
 敷島:「え?何ですか?」
 平賀:「何でも無いです」
 ミク:「あの……皆さん。本当に、申し訳ありませんでした。わたし……次こそは絶対に失敗しませんから……」
 巡音ルカ:「構わないわ。別に、あなたがワザと失敗しただなんて誰も思ってないから」
 MEIKO:「そうよ。それより、あのNGで右足を損傷したでしょ?ちゃんと博士に修理してもらいなさい」
 平賀:「そうだ。まだ応急処置しかしていない。修理するから、後で都心大学まで来い」
 ミク:「はい……」
 リン:「おやおや〜?MEIKOりんも、みくみくに対してかなりブチギレてませんでしたかなー?」
 MEIKO:「私よりもっと怖いお姉さんがいつまでもブチキレてるから、いい加減萎えたわよ」
 シンディ:「あ?何だって?それは誰のことだ、ああっ!?」
 MEIKO:「エミリー。あなたのことだって、怖い妹が言ってるわよ?」
 エミリー:「ほお?」
 シンディ:「違うって言ってるでしょ!だいたい、MEIKOだって後半棒読みだったじゃない!」
 MEIKO:「どこが棒読みよ!義姉なんて目立たない役なんだから、むしろあれくらいでいいのよ!」
 シンディ:「ドラマと演劇は違うって、演出家さんも言ってたでしょ!」
 平賀:「ああっ、もう!お前らケンカやめろ!」
 村上:「ま、とにかく初音ミクや。そんなに気を落とさんことじゃ。今日のところは、平賀君に足の修理をしてもらえ」
 ミク:「はい……」

[同日18:00.天候:晴 東京都23区内某所 東京都心大学]

 タクシーで大学へ向かった4人。
 すなわち、敷島、平賀、ミク、エミリーである。

 ミク:「せっかくの主役だったのに……。どうしてわたしったら、あんなにドジなんだろう……」
 平賀:「足の調子が悪いみたいだな。恐らく、階段落ちの際に小さな損傷があって、それで起きた事故だと思う」

 平賀はミクの足を修理しながら言った。

 敷島:「階段落ちか……。ああいうアクティブなシーンについては、調整とかそういう話じゃないですからね」
 平賀:「ええ。そのロイドの身体能力に賭けるしか無いわけです」
 敷島:「参ったなぁ……。何せ、シンデレラがガラスの靴を落として行くというシーンは鉄板ですからね。あそこをカットするわけにはいきませんからね」
 エミリー:「いっそのこと、シンデレラの役をシンディにしてしまうというのは如何でしょう?」
 敷島:「あのな、今さら配役は変えられんよ。ポスターやらパンフレットやら、全部作り直さなくちゃいけなくなるんだぞ」
 平賀:「別の意味で損害ですね」
 敷島:「とにかく、ミクには次で頑張ってもらうしかない」
 ミク:「はい……頑張ります……」
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