[9月13日22:29.天候:晴 JR日光線874M電車内→JR宇都宮駅]
稲生は今乗っている電車が最終電車ということで、埼京線のそれと間違えて乗った冥鉄暴走電車の悪夢を思い返していたが、取り越し苦労であった。
〔「ご乗車お疲れさまでした。まもなく終点、宇都宮、宇都宮に到着致します。5番線に到着、お出口は左側です。宇都宮からのお乗り換えをご案内致します。東北新幹線下り、……【中略】……。宇都宮線上り、22時42分発、普通列車の大宮行き、階段を上りまして10番線から発車致します。……」〕
稲生:「先生はどの辺りでお待ちなんでしょう?」
マリア:「ユウタがどのルートで乗り換えるのか分からないから、改札の外で待つってさ」
稲生:「なるほど」
稲生は一瞬、思案した。
マリア:「こういう交通手段はユウタの担当だ。ユウタが基本、自由に決めていいことになってる。それがイリーナ組の掟だ」
但し、稲生の選択した手段が、イリーナの予知に引っ掛かる場合を除く。
例えば、事故に巻き込まれるとか……。
稲生:「確かに上りの新幹線に間に合いそうな気はします。ただ……」
マリア:「ただ?」
稲生:「僕の予知だと、先生を起こすのに手間取って上野駅まで行きそうな気がするのです」
マリア:「分かった。だから、ユウタに任せる」
稲生:「日本国内限定ですよ。これがもしロシアとかイギリスだったら、先生やマリアさんにお任せしますよ」
マリア:「もちろん。特にシベリア鉄道とか、モスクワの地下鉄とかだな。私の場合は……」
その時マリア、ニヤッと笑った。
マリア:「もしユーロスターに乗る場合、私とリリィどちらに任せる?」
①「フランス行きならリリィに任せます」
➁「イギリス行きならマリアさんに任せます」
③「間を取ってエレーナにします」
④「いや、そこは僕に任せてください」
稲生は頭の中で上記4つの選択肢を思い浮かべた。
稲生:「い、いや、そこは僕に任せてください」
マリア:「大丈夫?」
稲生:「ええ。まあ、旅行代理店とかでも乗車券は買えるみたいですし」
マリア:「ふーん……?まあ、いいや」
電車がホームに差し掛かる。
マリア:「そろそろ着くな」
稲生:「はい」
稲生はどうやら自分が正解ルートを通れたことに、内心ホッとした。
恐らくリリィの名前を出した時点で眉をひそめるだろうし、マリアに任せると答えても、何だか揚げ足を取って来そうな気がする。
エレーナの名前を出せば、もうこれは完全に地雷。
不機嫌を通り越して、稲生を殴り付けるだろう。
マリア:(リリィかフレデリカの名前でも出してくるかと思ったけど、意外とそうでも無かったかぁ……)
もっとも、想定内の答えを稲生が言って来た場合の自分の態度については何も語らなかった。
電車が到着し、稲生は半自動ドアのボタンを押した。
尚、日光線仕様の205系600番台は、行き先表示が明朝体で表記されている。
漢字表記はそれでも良いのだが、ローマ字まで明朝体になっていて、英語圏のマリアから見れば読みにくいとのことである。
字体を変えるなら、筆記体にしてみたらどうかということだった。
もっとも、当のマリア自身も筆記体は常用しておらず、メモに急いで何かを書く時くらいだそうだ。
マリア:「うっ……」
稲生:「……大丈夫ですか、マリアさん?」
マリア:「うん……」
電車を降りて改札口への階段を数段登ると、マリアの息が上がった。
そのマリアほどではないのだが、稲生もまたいつもより階段がキツいと感じた。
稲生:「何か……おかしいですね。何だこれ……?」
マリア:「MPが0になると、体がHPからMPに変換しようとするんだ。そこがゲームとの大きな違い」
稲生:「ええっ?」
マリア:「魔法が使えなくなるほど魔力を消耗させると、命に関わることもあるというのはそこさ。今、歩くごとにMPは回復しても、その分HPは減ってる」
稲生:「何ですか、その『毒状態』みたいな現象は……?」
マリア:「とにかく、早いとこ師匠と合流しよう」
稲生:「は、はい。あの……僕はまだ大丈夫ですから、どうぞ僕の手を……」
マリア:「Thank you...so much...」
ついには自動翻訳魔法も切れるほどであった。
イリーナ:「やあやあ、よく無事だったねぃ……」
稲生:「先生……お疲れさまです……」
マリア:「…………」
イリーナ:「って、なに!?そのMP、HPともに1状態って!?」
稲生:「何なんですかねぇ……」
イリーナ:「とにかく、ほら!エリクサーよ!」
イリーナはローブの中からエリクサーを出した。
体力回復薬としてのポーションが青色に対して、こちらは透明である。
これで体力、魔力共に回復するわけである。
稲生:「ありがとうございます」
マリア:「…………」
稲生とマリアがエリクサーを飲むと、たちどころに気分が良くなった。
稲生:「でも先生、この薬は確か高価だと聞きましたが……」
イリーナ:「そりゃ安くはないよ。でも、かわいい弟子達のピンチだからね。そういう時に使わなきゃ」
稲生:(恐らくこの先生は、『レアアイテムが勿体無くて使えない』というプレイヤーの気持ちを全く理解できない人なんだろうなぁ……)
マリア:「それよりユウタ、最終電車は大丈夫なのか?」
稲生:「あ、そうでした!実家には話を付けましたので、今夜は実家に泊まってください」
イリーナ:「こんな遅くに?申し訳無いねぇ……。宿泊代はいくら積めばいいかねぇ?」
稲生:「いえいえ。先生の占い1つで十分だと思いますよ。ちょっと、乗車券買って来ますから」
稲生達は改札口を出ていた。
稲生は券売機まで行くと、大宮までの乗車券とグリーン券を購入したのだった。
[同日22:42.天候:晴 JR宇都宮駅→JR宇都宮線2544M電車内]
日光線とは比べものにならないほどの長大編成の電車が停車しているホーム。
〔本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。10番線に停車中の列車は、22時42分発、普通、大宮行きです。……〕
稲生達は5号車のグリーン車に乗り込んだ。
2階席ではなく、あえて平屋席に乗る。
尚、手にはニューデイズで買った食べ物などが入っていた。
合宿所に着いてから、ほとんど何も口にしていなかったかである。
人形達は荷物と一緒に荷棚に乗せた。
この為に平屋席にしたのである(1階席と2階席には荷棚が無い)。
普通列車のグリーン車には車内販売でアイスは売っていない為、人形達の機嫌を損ねないよう、あえてコンビニで購入していた。
人形達は機嫌良く、荷棚に座って美味しそうにアイスクリームを食べていた。
稲生とマリアはテーブルを出して、コンビニで手に入れたサンドイッチやお握りを食べた。
イリーナ:「若いうちは食欲もあっていいねぇ……。じゃ、アタシゃ寝てるから、着いたら起こしてね」
稲生:「分かりました」
尚、この場合、イリーナはグリーン券を稲生に預ける。
イリーナが寝入り、稲生達が遅い夕食を取っている間、宇都宮線の最終電車が発車した。
稲生は今乗っている電車が最終電車ということで、埼京線のそれと間違えて乗った冥鉄暴走電車の悪夢を思い返していたが、取り越し苦労であった。
〔「ご乗車お疲れさまでした。まもなく終点、宇都宮、宇都宮に到着致します。5番線に到着、お出口は左側です。宇都宮からのお乗り換えをご案内致します。東北新幹線下り、……【中略】……。宇都宮線上り、22時42分発、普通列車の大宮行き、階段を上りまして10番線から発車致します。……」〕
稲生:「先生はどの辺りでお待ちなんでしょう?」
マリア:「ユウタがどのルートで乗り換えるのか分からないから、改札の外で待つってさ」
稲生:「なるほど」
稲生は一瞬、思案した。
マリア:「こういう交通手段はユウタの担当だ。ユウタが基本、自由に決めていいことになってる。それがイリーナ組の掟だ」
但し、稲生の選択した手段が、イリーナの予知に引っ掛かる場合を除く。
例えば、事故に巻き込まれるとか……。
稲生:「確かに上りの新幹線に間に合いそうな気はします。ただ……」
マリア:「ただ?」
稲生:「僕の予知だと、先生を起こすのに手間取って上野駅まで行きそうな気がするのです」
マリア:「分かった。だから、ユウタに任せる」
稲生:「日本国内限定ですよ。これがもしロシアとかイギリスだったら、先生やマリアさんにお任せしますよ」
マリア:「もちろん。特にシベリア鉄道とか、モスクワの地下鉄とかだな。私の場合は……」
その時マリア、ニヤッと笑った。
マリア:「もしユーロスターに乗る場合、私とリリィどちらに任せる?」
①「フランス行きならリリィに任せます」
➁「イギリス行きならマリアさんに任せます」
③「間を取ってエレーナにします」
④「いや、そこは僕に任せてください」
稲生は頭の中で上記4つの選択肢を思い浮かべた。
稲生:「い、いや、そこは僕に任せてください」
マリア:「大丈夫?」
稲生:「ええ。まあ、旅行代理店とかでも乗車券は買えるみたいですし」
マリア:「ふーん……?まあ、いいや」
電車がホームに差し掛かる。
マリア:「そろそろ着くな」
稲生:「はい」
稲生はどうやら自分が正解ルートを通れたことに、内心ホッとした。
恐らくリリィの名前を出した時点で眉をひそめるだろうし、マリアに任せると答えても、何だか揚げ足を取って来そうな気がする。
エレーナの名前を出せば、もうこれは完全に地雷。
不機嫌を通り越して、稲生を殴り付けるだろう。
マリア:(リリィかフレデリカの名前でも出してくるかと思ったけど、意外とそうでも無かったかぁ……)
もっとも、想定内の答えを稲生が言って来た場合の自分の態度については何も語らなかった。
電車が到着し、稲生は半自動ドアのボタンを押した。
尚、日光線仕様の205系600番台は、行き先表示が明朝体で表記されている。
漢字表記はそれでも良いのだが、ローマ字まで明朝体になっていて、英語圏のマリアから見れば読みにくいとのことである。
字体を変えるなら、筆記体にしてみたらどうかということだった。
もっとも、当のマリア自身も筆記体は常用しておらず、メモに急いで何かを書く時くらいだそうだ。
マリア:「うっ……」
稲生:「……大丈夫ですか、マリアさん?」
マリア:「うん……」
電車を降りて改札口への階段を数段登ると、マリアの息が上がった。
そのマリアほどではないのだが、稲生もまたいつもより階段がキツいと感じた。
稲生:「何か……おかしいですね。何だこれ……?」
マリア:「MPが0になると、体がHPからMPに変換しようとするんだ。そこがゲームとの大きな違い」
稲生:「ええっ?」
マリア:「魔法が使えなくなるほど魔力を消耗させると、命に関わることもあるというのはそこさ。今、歩くごとにMPは回復しても、その分HPは減ってる」
稲生:「何ですか、その『毒状態』みたいな現象は……?」
マリア:「とにかく、早いとこ師匠と合流しよう」
稲生:「は、はい。あの……僕はまだ大丈夫ですから、どうぞ僕の手を……」
マリア:「Thank you...so much...」
ついには自動翻訳魔法も切れるほどであった。
イリーナ:「やあやあ、よく無事だったねぃ……」
稲生:「先生……お疲れさまです……」
マリア:「…………」
イリーナ:「って、なに!?そのMP、HPともに1状態って!?」
稲生:「何なんですかねぇ……」
イリーナ:「とにかく、ほら!エリクサーよ!」
イリーナはローブの中からエリクサーを出した。
体力回復薬としてのポーションが青色に対して、こちらは透明である。
これで体力、魔力共に回復するわけである。
稲生:「ありがとうございます」
マリア:「…………」
稲生とマリアがエリクサーを飲むと、たちどころに気分が良くなった。
稲生:「でも先生、この薬は確か高価だと聞きましたが……」
イリーナ:「そりゃ安くはないよ。でも、かわいい弟子達のピンチだからね。そういう時に使わなきゃ」
稲生:(恐らくこの先生は、『レアアイテムが勿体無くて使えない』というプレイヤーの気持ちを全く理解できない人なんだろうなぁ……)
マリア:「それよりユウタ、最終電車は大丈夫なのか?」
稲生:「あ、そうでした!実家には話を付けましたので、今夜は実家に泊まってください」
イリーナ:「こんな遅くに?申し訳無いねぇ……。宿泊代はいくら積めばいいかねぇ?」
稲生:「いえいえ。先生の占い1つで十分だと思いますよ。ちょっと、乗車券買って来ますから」
稲生達は改札口を出ていた。
稲生は券売機まで行くと、大宮までの乗車券とグリーン券を購入したのだった。
[同日22:42.天候:晴 JR宇都宮駅→JR宇都宮線2544M電車内]
日光線とは比べものにならないほどの長大編成の電車が停車しているホーム。
〔本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。10番線に停車中の列車は、22時42分発、普通、大宮行きです。……〕
稲生達は5号車のグリーン車に乗り込んだ。
2階席ではなく、あえて平屋席に乗る。
尚、手にはニューデイズで買った食べ物などが入っていた。
合宿所に着いてから、ほとんど何も口にしていなかったかである。
人形達は荷物と一緒に荷棚に乗せた。
この為に平屋席にしたのである(1階席と2階席には荷棚が無い)。
普通列車のグリーン車には車内販売でアイスは売っていない為、人形達の機嫌を損ねないよう、あえてコンビニで購入していた。
人形達は機嫌良く、荷棚に座って美味しそうにアイスクリームを食べていた。
稲生とマリアはテーブルを出して、コンビニで手に入れたサンドイッチやお握りを食べた。
イリーナ:「若いうちは食欲もあっていいねぇ……。じゃ、アタシゃ寝てるから、着いたら起こしてね」
稲生:「分かりました」
尚、この場合、イリーナはグリーン券を稲生に預ける。
イリーナが寝入り、稲生達が遅い夕食を取っている間、宇都宮線の最終電車が発車した。