―第291号「古典から始める レフティやすおの楽しい読書」別冊 編集後記
★古典から始める レフティやすおの楽しい読書★
2021(令和3)年3月31日号(No.291)
「中国の古典編―漢詩を読んでみよう(8)『楚辞』(6) 宋玉」
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◇◆◇◆ 古典から始める レフティやすおの楽しい読書 ◆◇◆◇
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2021(令和3)年3月31日号(No.291)
「中国の古典編―漢詩を読んでみよう(8)『楚辞』(6) 宋玉」
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「中国の古典編―漢詩を読んでみよう」の8回目。
今回は、『楚辞』の6回目で、宋玉の作品を取り上げています。
2020(令和2)年6月30日号(No.273)
「中国の古典編―漢詩を読んでみよう(3)『楚辞』(1)」
2020.6.30
中国の古典編―漢詩を読んでみよう(3)『楚辞』(1)
-「楽しい読書」第273号
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2020(令和2)年9月30日号(No.279)
「中国の古典編―漢詩を読んでみよう(4)『楚辞』(2)「離騒」前編」
2020.9.30
中国の古典編―漢詩を読んでみよう(4)『楚辞』(2)「離騒」前編
-楽しい読書279号
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2020(令和2)年10月31日号(No.281)
「中国の古典編―漢詩を読んでみよう(5) 『楚辞』(3)「離騒」後編」
2020.10.31
中国の古典編―漢詩を読んでみよう(5)『楚辞』(3)
-楽しい読書281号
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2021(令和3)年1月31日号(No.287)
「中国の古典編―漢詩を読んでみよう(6)
『楚辞』(4)屈原の他の作品「九章」」
2021.1.31
中国の古典編―漢詩を読んでみよう(6)『楚辞』(4)-楽しい読書287号
2021(令和3)年2月28日号(No.289)
「中国の古典編―漢詩を読んでみよう(7)
『楚辞』(5)屈原「九歌」「漁父」」
2021.2.28
中国の古典編―漢詩を読んでみよう(7)『楚辞』(5)-楽しい読書289号
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2021/02/post-361c76.html
https://blog.goo.ne.jp/lefty-yasuo/e/6e9eaaa081df9735e2be1975a9d0ff57
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◆ 『楚辞』もう一つのタイプの詩 ◆
中国の古典編―漢詩を読んでみよう(8)
『楚辞』(6)
~ 宋玉「九弁」「招魂」 ~
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今回の参考文献――
『新書漢文大系・23・楚辞』星川清孝/著 鈴木かおり/編
明治書院
『漢詩を読む 1 『詩経』、屈原から陶淵明へ』
江原正士、宇野直人/著 平凡社
『楚辞』目加田誠/訳・解説
平凡社〈中国古典文学大系・15〉『詩経・楚辞』
(画像:書影(タイトル部分)『新書漢文大系・23・楚辞』星川清孝/著 鈴木かおり/編 明治書院 2004.6.20)
(画像:書影(タイトル部分)『新書漢文大系・23・楚辞』星川清孝/著 鈴木かおり/編 明治書院 2004.6.20,『漢詩を読む 1 『詩経』、屈原から陶淵明へ』(江原正士、宇野直人/著 平凡社 2010/4/20))
●宋玉について
(略)
●宋玉「九弁」
(略)
・・・
「九弁」(第一段の冒頭)
《悲哉秋之為気也
悲(かな)しいかな、秋(あき)の気(き)たるや。
蕭瑟兮 草木搖落而変衰
蕭瑟(しょうしつ)たり、
草木(そうもく)搖落(ようらく)して変衰(へんすい)す。
悲しいしいことよ、秋の気というものは。
風はさわさわとさびしく鳴っている。
それで草木は吹き散り、色も変わっておとろえる。
憭(りっしんべんに尞)慄兮 若在遠行
登山臨水兮 送将帰
憭慄(りょうりつ)たり、遠行(えんこう)に在(あ)りて
山(やま)に登(のぼ)り水(みず)に臨(のぞ)み、
将(まさ)に帰(かえ)らんとするを送(おく)るが若(ごと)し。
泬(さんずいに穴)寥兮 天高而気清
寂寥兮 收潦而水清
泬寥(けつりょう)たり、
天(てん)高(たか)くして気(き)清(きよ)し。
寂寥(せきりょう)たり、
潦(りょう)を収(おさ)めて水(みず)清(きよ)し。
逝く秋には心がいたみ悲しむ。
それは遠い旅路で、山に登ったり、水辺に立ったりして、
故郷に帰ろうとする人を送る時の気分のようである。
秋の眺めはむなしく雲もない。天は高く空気は清らかである。
秋の野はひっそりと物影もない。
道の溜り水も収まり引いて、秋の水は澄んでいる。
憯悽増欷兮 薄寒之中人
愴怳懭悢(りっしんべんにそれぞれ兄、廣、良)兮 去故而就新
憯悽(さんせい)として増々(ますます)欷(すすりな)き、
薄寒(はくかん)之(こ)れ人(ひと)に中(あ)たる。
愴怳(そうこう)懭悢(こうろう)として、
故(こ)を去(さ)りて新(しん)に就(つ)く。
心は悲しみ痛んで、いよいよすすり泣き、
薄ら寒い秋の気は人の身にしみる。
そんな時物悲しく心うつろに、気もうちしおれ、
住みなれた土地を去って見知らぬ国に行く。
坎廩兮 貧士失職而志不平
廓落兮 羇旅而無友生
坎廩(かんらん)たり、貧士(ひんし)職(しょく)を失(うしな)いて
志(こころざし)平(たい)らかならず。
廓落(かくらく)たり、
羇旅(きりょ)にして友生(ゆうせい)無(な)し。
不遇に心楽しまず、貧しい士人は心中おだやかでない。
ただ広々として寂しい。この旅の空に友達もいないのである。
惆悵兮 而私自憐
惆悵(ちゅうちょう)たり、
而(しこう)して私(ひそ)かに自(みずか)ら憐(あわ)れむ。
心はいたみ悲しむ。そしてひそかに自分を憐れに思う。
(悲愁の候、貧士失職、遷客自ら哀れむとは、
宋玉が屈原に代わってその心中を述べる。)》
(『新書漢文大系・23・楚辞』「九弁」)
以下、屈原の悲しみ――孤独と君への思いを綿々と綴る。
『新書漢文大系・23・楚辞』では、十一段に分けていますが、
その第三段の表現は、<背景>によりますと、
《ものみな枯れゆく秋の情景描写と索漠たる心情を重ね合わせて
特に美しい》
といいます。(紹介すれば良いのでしょうけれど……。)
『漢詩を読む 1 『詩経』、屈原から陶淵明へ』の
宇野直人さんによりますと、
この第一段の後世への影響が大きい、といいます。
秋を“悲しい季節”として表現した画期的な作品だ、と。
例えば『詩経』に歌われる秋は、
穫り入れ、収穫の季節として表現されているそうです。
この影響が日本に伝わって、“秋は悲しい”という感覚が定着した、と。
「九弁」は『楚辞』だけでなく、
『文選(もんぜん)』という名作集にも入っており、
平安時代の初めによく読まれ、注目された。
・・・
(略)
●宋玉「招魂」
(略)
(画像:『漢詩を読む 1 『詩経』、屈原から陶淵明へ』(江原正士、宇野直人/著 平凡社 2010/4/20)「二、神々の黄昏――屈原・宋玉と『楚辞』」p.74-75(宋玉についての解説と「九弁」冒頭))
(画像:『漢詩を読む 1 『詩経』、屈原から陶淵明へ』(江原正士、宇野直人/著 平凡社 2010/4/20)「二、神々の黄昏――屈原・宋玉と『楚辞』」p.76-77(宋玉「九弁」冒頭続きと解説))
・・・
「招魂」(第九段の末尾)
《娯酒不廃 沈日夜些
酒(さけ)を娯(たの)しんで廃せず、日夜に沈む。
蘭膏明燭 華鐙錯些
蘭膏(らんこう)の明燭(めいしょく)、華鐙(かとう)錯(お)く。
結撰至思 蘭芳仮些
至思(しし)を結撰(けつせん)して、
蘭芳(らんほう)仮(おお)いなり。
人有所極 同心賦些
人(ひと)極(いた)る所(ところ)有(あ)り、
心(こころ)を同(おな)じうして賦(ふ)す。
酎飲尽歓 楽先故些
酎飲(ちゅういん)して歓(かん)を尽(つ)くし、
先故(せんこ)を楽します。
魂兮帰来 反故居些
魂(こん)よ帰(かえ)り来(き)たりて、故居(こきょ)に反(かえ)れ。
酒を楽しんで止めず、日夜耽り飲む。
蘭のかおりの膏(あぶら)にともる明るいともし火、
花紋を彫刻そた灯台が置かれる。
思いをこめて綴り述べる詩は、蘭の香りのように清く立派である。
人々は各自思いの至りきわまるところがあるが、同じ心で詩を作る。
酒を飲んで楽しみを尽くし、先祖や昔馴染の人々を楽しませる。
(こんな好い所はほかにはない。)
魂よ帰って、もとの住居(すまい)に戻りなさい。》
「招魂」(第十段ラスト)
《朱明承夜兮 時不可以淹
朱明(しゅめい)夜(よる)を承(う)けて、
時(とき)は以(もつ)て淹(とど)む可(べ)からず。
皋蘭被径兮 斯路漸
皐蘭(こうらん)径(けい)を被(おお)いて、
斯(こ)の路(みち)漸(ひた)る。
湛湛江水兮 上有楓
目極千里兮 傷春心
湛湛(たんたん)たる江水(こうすい)、
上(うえ)に楓(ふう)有(あ)り。
目(め)は千里(せんり)を極(きわ)めて、
春心(しゅんしん)を傷(いた)ましむ。
魂兮帰来 哀江南
魂(こん)よ帰(かえ)り来(き)れ、江南(こうなん)哀(かな)し。
太陽の光は夜陰の後を受けて輝き、
過ぎ行く時は止めることができない。
月日は早くも過ぎ去ってしまった。
今も沢の蘭は小路を蔽って茂っているのに、
この路は水に漸(ひた)っている。
湛(たた)え満ちた大川の水、
その上には楓樹が茂る。
千里遠く目の届く限り眺めていると、春の心を傷ませる。
(屈原の自述。)
魂よ、帰りなさい。江南は哀しい。(招辞)》
(『新書漢文大系・23・楚辞』「招魂」)
『新書漢文大系・23・楚辞』星川清孝/著 鈴木かおり/編
<背景>によりますと、
《「招魂」は楚辞の一つの典型となって伝わった。
自らの魂を田園に招き寄せた陶淵明の「帰去来」の辞も
この系統に属し、
庚信の「哀江南賦」、杜甫「哀江頭」などの題は、
この篇の結びの句に拠っている。》
といいますように、
後世の漢詩に影響を与えた宋玉の「招魂」の紹介は
以上でおしまいです。
・・・
予定よりずっと長くなりましたが、『楚辞』の紹介は今回で終了です。
まずい紹介でしたが、お付き合いありがとうございました。
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● 漢詩の入門書等を読む
★『漢詩入門』一海知義/著 岩波ジュニア新書 1998.6.22
★『漢詩を読む 1 『詩経』、屈原から陶淵明へ』
江原正士、宇野直人/著 平凡社 2010/4/20
―漢詩の歴史をたどるシリーズ全4巻。第1巻は『詩経』から屈原の
『楚辞』、漢や三国時代を経て東晋の陶淵明まで。
俳優・声優の江原正士が専門家の宇野直人を相手に、代表的な詩
を対話形式でわかりやすく読み解く。
★『漢詩入門』入谷仙介/著 日中出版 1979/01
―漢詩の有名作をたどりながら、その歴史と構造を解く漢詩入門。
★『中国の古代文学(一)神話から楚辞へ』白川静/著 中公文庫
BIBLIO 1980.9.10
―中国文学の原点『詩経』と『楚辞』の古代歌謡を『記紀万葉』と
対比して考察する。文学の原点である神話が、中国では『書経』
に人間の歴史として書き変えられ定着していると解説する。
●『楚辞』を読む
▲★『詩経・楚辞』目加田誠/訳 平凡社〈中国古典文学大系・15〉
昭和44 (1969)
―『詩経』『楚辞』の翻訳と解説。(後半は『楚辞』)
▲★『新書漢文大系・23・楚辞』星川清孝/著 鈴木かおり/編
明治書院 2004.6.20
―原文に書下し文と解説・背景を伏したコンパクトな入門書。
★『楚辞「離騒」を読む 悲劇の忠臣・屈原の人物像をめぐって』
矢田 尚子 東北大学出版会 2018/12/3
―その形成過程の歴史的背景を考慮しつつ、屈原伝説にとらわれず、
作品本位に屈原と『楚辞』との関係をとらえ直そうとする。
▲マークは、本文で取り上げた本
★マークは、筆者のおすすめ本です。本選びの参考にどうぞ。
(基本的に、筆者が“偶然”手にしたものを取り上げています。)
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本誌では、「中国の古典編―漢詩を読んでみよう(8)『楚辞』(6) 宋玉」をお届けしています。
ここでは、宋玉の「九弁」「招魂」を取り上げています。
あくまでも部分的な紹介です。
後世に影響を与えたと言われる「賦」に関する部分、日本に伝わり「秋は悲しい季節」とされるようになったという「九弁」冒頭の部分、「招魂」のラストの部分を取り上げてみました。
・・・
長くなった『楚辞』の紹介でしたが、今回で終了です。
屈原の生涯における放逐とその悲しみを歌う「離騒」に惹かれ、長々とした紹介になりました。
その割に、要所を押さえられず、散漫な紹介になったかと思います。
またいずれ機会があれば、もう少し要領よく紹介したいものです。
・・・
では、詳細は本誌で!
*本誌のお申し込み等は、下↓から
(まぐまぐ!)『(古典から始める)レフティやすおの楽しい読書』
『レフティやすおのお茶でっせ』
〈メルマガ「楽しい読書」〉カテゴリ
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『レフティやすおのお茶でっせ』より転載
中国の古典編―漢詩を読んでみよう(8)『楚辞』(6)宋玉-楽しい読書291号
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2021(令和3)年3月31日号(No.291)
「中国の古典編―漢詩を読んでみよう(8)『楚辞』(6) 宋玉」
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2021(令和3)年3月31日号(No.291)
「中国の古典編―漢詩を読んでみよう(8)『楚辞』(6) 宋玉」
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「中国の古典編―漢詩を読んでみよう」の8回目。
今回は、『楚辞』の6回目で、宋玉の作品を取り上げています。
2020(令和2)年6月30日号(No.273)
「中国の古典編―漢詩を読んでみよう(3)『楚辞』(1)」
2020.6.30
中国の古典編―漢詩を読んでみよう(3)『楚辞』(1)
-「楽しい読書」第273号
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2020/06/post-da2d6a.html
https://blog.goo.ne.jp/lefty-yasuo/e/4674b3200df69fc61b39c71e135b0eea
2020(令和2)年9月30日号(No.279)
「中国の古典編―漢詩を読んでみよう(4)『楚辞』(2)「離騒」前編」
2020.9.30
中国の古典編―漢詩を読んでみよう(4)『楚辞』(2)「離騒」前編
-楽しい読書279号
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2020/09/post-a9bc2d.html
https://blog.goo.ne.jp/lefty-yasuo/e/69a03a861ab11437b3e548aa7417dfb9
2020(令和2)年10月31日号(No.281)
「中国の古典編―漢詩を読んでみよう(5) 『楚辞』(3)「離騒」後編」
2020.10.31
中国の古典編―漢詩を読んでみよう(5)『楚辞』(3)
-楽しい読書281号
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2020/10/post-6275d5.html
https://blog.goo.ne.jp/lefty-yasuo/e/49d8229c141f532a6d330c2e1fb45b74
2021(令和3)年1月31日号(No.287)
「中国の古典編―漢詩を読んでみよう(6)
『楚辞』(4)屈原の他の作品「九章」」
2021.1.31
中国の古典編―漢詩を読んでみよう(6)『楚辞』(4)-楽しい読書287号
2021(令和3)年2月28日号(No.289)
「中国の古典編―漢詩を読んでみよう(7)
『楚辞』(5)屈原「九歌」「漁父」」
2021.2.28
中国の古典編―漢詩を読んでみよう(7)『楚辞』(5)-楽しい読書289号
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◆ 『楚辞』もう一つのタイプの詩 ◆
中国の古典編―漢詩を読んでみよう(8)
『楚辞』(6)
~ 宋玉「九弁」「招魂」 ~
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今回の参考文献――
『新書漢文大系・23・楚辞』星川清孝/著 鈴木かおり/編
明治書院
『漢詩を読む 1 『詩経』、屈原から陶淵明へ』
江原正士、宇野直人/著 平凡社
『楚辞』目加田誠/訳・解説
平凡社〈中国古典文学大系・15〉『詩経・楚辞』
(画像:書影(タイトル部分)『新書漢文大系・23・楚辞』星川清孝/著 鈴木かおり/編 明治書院 2004.6.20)
(画像:書影(タイトル部分)『新書漢文大系・23・楚辞』星川清孝/著 鈴木かおり/編 明治書院 2004.6.20,『漢詩を読む 1 『詩経』、屈原から陶淵明へ』(江原正士、宇野直人/著 平凡社 2010/4/20))
●宋玉について
(略)
●宋玉「九弁」
(略)
・・・
「九弁」(第一段の冒頭)
《悲哉秋之為気也
悲(かな)しいかな、秋(あき)の気(き)たるや。
蕭瑟兮 草木搖落而変衰
蕭瑟(しょうしつ)たり、
草木(そうもく)搖落(ようらく)して変衰(へんすい)す。
悲しいしいことよ、秋の気というものは。
風はさわさわとさびしく鳴っている。
それで草木は吹き散り、色も変わっておとろえる。
憭(りっしんべんに尞)慄兮 若在遠行
登山臨水兮 送将帰
憭慄(りょうりつ)たり、遠行(えんこう)に在(あ)りて
山(やま)に登(のぼ)り水(みず)に臨(のぞ)み、
将(まさ)に帰(かえ)らんとするを送(おく)るが若(ごと)し。
泬(さんずいに穴)寥兮 天高而気清
寂寥兮 收潦而水清
泬寥(けつりょう)たり、
天(てん)高(たか)くして気(き)清(きよ)し。
寂寥(せきりょう)たり、
潦(りょう)を収(おさ)めて水(みず)清(きよ)し。
逝く秋には心がいたみ悲しむ。
それは遠い旅路で、山に登ったり、水辺に立ったりして、
故郷に帰ろうとする人を送る時の気分のようである。
秋の眺めはむなしく雲もない。天は高く空気は清らかである。
秋の野はひっそりと物影もない。
道の溜り水も収まり引いて、秋の水は澄んでいる。
憯悽増欷兮 薄寒之中人
愴怳懭悢(りっしんべんにそれぞれ兄、廣、良)兮 去故而就新
憯悽(さんせい)として増々(ますます)欷(すすりな)き、
薄寒(はくかん)之(こ)れ人(ひと)に中(あ)たる。
愴怳(そうこう)懭悢(こうろう)として、
故(こ)を去(さ)りて新(しん)に就(つ)く。
心は悲しみ痛んで、いよいよすすり泣き、
薄ら寒い秋の気は人の身にしみる。
そんな時物悲しく心うつろに、気もうちしおれ、
住みなれた土地を去って見知らぬ国に行く。
坎廩兮 貧士失職而志不平
廓落兮 羇旅而無友生
坎廩(かんらん)たり、貧士(ひんし)職(しょく)を失(うしな)いて
志(こころざし)平(たい)らかならず。
廓落(かくらく)たり、
羇旅(きりょ)にして友生(ゆうせい)無(な)し。
不遇に心楽しまず、貧しい士人は心中おだやかでない。
ただ広々として寂しい。この旅の空に友達もいないのである。
惆悵兮 而私自憐
惆悵(ちゅうちょう)たり、
而(しこう)して私(ひそ)かに自(みずか)ら憐(あわ)れむ。
心はいたみ悲しむ。そしてひそかに自分を憐れに思う。
(悲愁の候、貧士失職、遷客自ら哀れむとは、
宋玉が屈原に代わってその心中を述べる。)》
(『新書漢文大系・23・楚辞』「九弁」)
以下、屈原の悲しみ――孤独と君への思いを綿々と綴る。
『新書漢文大系・23・楚辞』では、十一段に分けていますが、
その第三段の表現は、<背景>によりますと、
《ものみな枯れゆく秋の情景描写と索漠たる心情を重ね合わせて
特に美しい》
といいます。(紹介すれば良いのでしょうけれど……。)
『漢詩を読む 1 『詩経』、屈原から陶淵明へ』の
宇野直人さんによりますと、
この第一段の後世への影響が大きい、といいます。
秋を“悲しい季節”として表現した画期的な作品だ、と。
例えば『詩経』に歌われる秋は、
穫り入れ、収穫の季節として表現されているそうです。
この影響が日本に伝わって、“秋は悲しい”という感覚が定着した、と。
「九弁」は『楚辞』だけでなく、
『文選(もんぜん)』という名作集にも入っており、
平安時代の初めによく読まれ、注目された。
・・・
(略)
●宋玉「招魂」
(略)
(画像:『漢詩を読む 1 『詩経』、屈原から陶淵明へ』(江原正士、宇野直人/著 平凡社 2010/4/20)「二、神々の黄昏――屈原・宋玉と『楚辞』」p.74-75(宋玉についての解説と「九弁」冒頭))
(画像:『漢詩を読む 1 『詩経』、屈原から陶淵明へ』(江原正士、宇野直人/著 平凡社 2010/4/20)「二、神々の黄昏――屈原・宋玉と『楚辞』」p.76-77(宋玉「九弁」冒頭続きと解説))
・・・
「招魂」(第九段の末尾)
《娯酒不廃 沈日夜些
酒(さけ)を娯(たの)しんで廃せず、日夜に沈む。
蘭膏明燭 華鐙錯些
蘭膏(らんこう)の明燭(めいしょく)、華鐙(かとう)錯(お)く。
結撰至思 蘭芳仮些
至思(しし)を結撰(けつせん)して、
蘭芳(らんほう)仮(おお)いなり。
人有所極 同心賦些
人(ひと)極(いた)る所(ところ)有(あ)り、
心(こころ)を同(おな)じうして賦(ふ)す。
酎飲尽歓 楽先故些
酎飲(ちゅういん)して歓(かん)を尽(つ)くし、
先故(せんこ)を楽します。
魂兮帰来 反故居些
魂(こん)よ帰(かえ)り来(き)たりて、故居(こきょ)に反(かえ)れ。
酒を楽しんで止めず、日夜耽り飲む。
蘭のかおりの膏(あぶら)にともる明るいともし火、
花紋を彫刻そた灯台が置かれる。
思いをこめて綴り述べる詩は、蘭の香りのように清く立派である。
人々は各自思いの至りきわまるところがあるが、同じ心で詩を作る。
酒を飲んで楽しみを尽くし、先祖や昔馴染の人々を楽しませる。
(こんな好い所はほかにはない。)
魂よ帰って、もとの住居(すまい)に戻りなさい。》
「招魂」(第十段ラスト)
《朱明承夜兮 時不可以淹
朱明(しゅめい)夜(よる)を承(う)けて、
時(とき)は以(もつ)て淹(とど)む可(べ)からず。
皋蘭被径兮 斯路漸
皐蘭(こうらん)径(けい)を被(おお)いて、
斯(こ)の路(みち)漸(ひた)る。
湛湛江水兮 上有楓
目極千里兮 傷春心
湛湛(たんたん)たる江水(こうすい)、
上(うえ)に楓(ふう)有(あ)り。
目(め)は千里(せんり)を極(きわ)めて、
春心(しゅんしん)を傷(いた)ましむ。
魂兮帰来 哀江南
魂(こん)よ帰(かえ)り来(き)れ、江南(こうなん)哀(かな)し。
太陽の光は夜陰の後を受けて輝き、
過ぎ行く時は止めることができない。
月日は早くも過ぎ去ってしまった。
今も沢の蘭は小路を蔽って茂っているのに、
この路は水に漸(ひた)っている。
湛(たた)え満ちた大川の水、
その上には楓樹が茂る。
千里遠く目の届く限り眺めていると、春の心を傷ませる。
(屈原の自述。)
魂よ、帰りなさい。江南は哀しい。(招辞)》
(『新書漢文大系・23・楚辞』「招魂」)
『新書漢文大系・23・楚辞』星川清孝/著 鈴木かおり/編
<背景>によりますと、
《「招魂」は楚辞の一つの典型となって伝わった。
自らの魂を田園に招き寄せた陶淵明の「帰去来」の辞も
この系統に属し、
庚信の「哀江南賦」、杜甫「哀江頭」などの題は、
この篇の結びの句に拠っている。》
といいますように、
後世の漢詩に影響を与えた宋玉の「招魂」の紹介は
以上でおしまいです。
・・・
予定よりずっと長くなりましたが、『楚辞』の紹介は今回で終了です。
まずい紹介でしたが、お付き合いありがとうございました。
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● 漢詩の入門書等を読む
★『漢詩入門』一海知義/著 岩波ジュニア新書 1998.6.22
★『漢詩を読む 1 『詩経』、屈原から陶淵明へ』
江原正士、宇野直人/著 平凡社 2010/4/20
―漢詩の歴史をたどるシリーズ全4巻。第1巻は『詩経』から屈原の
『楚辞』、漢や三国時代を経て東晋の陶淵明まで。
俳優・声優の江原正士が専門家の宇野直人を相手に、代表的な詩
を対話形式でわかりやすく読み解く。
★『漢詩入門』入谷仙介/著 日中出版 1979/01
―漢詩の有名作をたどりながら、その歴史と構造を解く漢詩入門。
★『中国の古代文学(一)神話から楚辞へ』白川静/著 中公文庫
BIBLIO 1980.9.10
―中国文学の原点『詩経』と『楚辞』の古代歌謡を『記紀万葉』と
対比して考察する。文学の原点である神話が、中国では『書経』
に人間の歴史として書き変えられ定着していると解説する。
●『楚辞』を読む
▲★『詩経・楚辞』目加田誠/訳 平凡社〈中国古典文学大系・15〉
昭和44 (1969)
―『詩経』『楚辞』の翻訳と解説。(後半は『楚辞』)
▲★『新書漢文大系・23・楚辞』星川清孝/著 鈴木かおり/編
明治書院 2004.6.20
―原文に書下し文と解説・背景を伏したコンパクトな入門書。
★『楚辞「離騒」を読む 悲劇の忠臣・屈原の人物像をめぐって』
矢田 尚子 東北大学出版会 2018/12/3
―その形成過程の歴史的背景を考慮しつつ、屈原伝説にとらわれず、
作品本位に屈原と『楚辞』との関係をとらえ直そうとする。
▲マークは、本文で取り上げた本
★マークは、筆者のおすすめ本です。本選びの参考にどうぞ。
(基本的に、筆者が“偶然”手にしたものを取り上げています。)
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本誌では、「中国の古典編―漢詩を読んでみよう(8)『楚辞』(6) 宋玉」をお届けしています。
ここでは、宋玉の「九弁」「招魂」を取り上げています。
あくまでも部分的な紹介です。
後世に影響を与えたと言われる「賦」に関する部分、日本に伝わり「秋は悲しい季節」とされるようになったという「九弁」冒頭の部分、「招魂」のラストの部分を取り上げてみました。
・・・
長くなった『楚辞』の紹介でしたが、今回で終了です。
屈原の生涯における放逐とその悲しみを歌う「離騒」に惹かれ、長々とした紹介になりました。
その割に、要所を押さえられず、散漫な紹介になったかと思います。
またいずれ機会があれば、もう少し要領よく紹介したいものです。
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では、詳細は本誌で!
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『レフティやすおのお茶でっせ』より転載
中国の古典編―漢詩を読んでみよう(8)『楚辞』(6)宋玉-楽しい読書291号
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