『左利きで生きるには 週刊ヒッキイhikkii』(まぐまぐ!)
【別冊 編集後記】
第670号(Vol.20 no.15/No.670) 2024/9/7
「左利きのお子さんをお持ちの親御さんへ ―その25―
楽器における左利きの世界(24)左利きは左弾きヴァイオリンで(3)」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
◇◆◇◆◇◆ 左利きで生きるには 週刊ヒッキイhikkii ◆◇◆◇◆◇
【左利きを考えるレフティやすおの左組通信】メールマガジン
右利きにも左利きにも優しい左右共存共生社会の実現をめざして
左利きおよび利き手についていっしょに考えてゆきましょう!
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第670号(Vol.20 no.15/No.670) 2024/9/7
「左利きのお子さんをお持ちの親御さんへ ―その25―
楽器における左利きの世界(24)左利きは左弾きヴァイオリンで(3)」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
前号は、「左利きでもヴァイオリンは右弾きで」という
左利きヴァイオリニストの意見に
「なぜ左利きは左弾きヴァイオリンでなければいけないのか」
その理由を述べ、反論する第2回目でした。
今回はその続きといいますか、最終的な結論――
根本的な理由に基づく反論です。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
◆ <めざせ!実現!!左用ピアノ!!!>プロジェクト ◆
{左利きの人は左利き用の楽器で演奏しよう!}
- 「左利きに優しい社会」づくりは左用楽器の普及から! -
左利きとヴァイオリン演奏について考える
なぜ左利きは左弾きヴァイオリンでなければいけないのか(3)
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
●左利きでも右弾きを薦める人たちの理由(再々載)
ネットで調べた「左利きとヴァイオリン演奏」についての発言で、
左利きのヴァイオリニストの人も含めて、ほぼ全員が
「左利きの人でもヴァイオリンは右弾きで」と発言されていました。
今回も改めて、それらのご意見――
「左利きでも右弾きを薦める人たちの理由」
についてまとめたものを書いておきましょう。
・・・
【左利きでも右利き用で右弾きを薦める理由】
1.左利き用のヴァイオリンは右用とは構造が違い、手に入りにくい
→ 道具がないので、手に入るもので我慢しましょう!?
2.右手も左手も重要で、利き手の有利不利は関係ない
→ 右手も左手もどちらでも、慣れたら一緒!?
3.ヴァイオリンは集団で演奏することが多く、左弾きは立ち位置が難しい
→ 左弾きでは隣の右弾きの人と弓が当たる、
弓の動きが逆で一人目立つ、ので困る!?
4.利き手も定かではない、小さい頃から習う人が多いので、
利き手は関係ない
→ 利き手も小さい頃からなら換えられるという人もいるじゃないか!?
●「左利きでも右弾き」に対するそもそもの理由
最後に、総合的な反論です。
といいますか、左弾きが認められない理由ですね。
これを説明しておきましょう。
以前少し書いていますが、簡単に言えば、左利き差別といいますか、
左利き否定の思想によるものです。
・・・
前回、前々回とそれぞれの反論を書いてきました。
それぞれ理屈は合っていると思います。
ただ「そもそもの理由」というものがあったのですね。
そして、実はそれ自体が大いなる誤りなのだ、という事実が、
実は最も重要なポイントなのです。
「左利きでも右弾き」を推奨するそもそもの理由とは?
それは、左利きそのものが否定されるべき事だった、という事実です。
左利きが否定される社会にあって、
「左利きですから左弾きで」
などという発言は認められるはずがありません。
「左利きは悪」だったのです。
左利きは直すべき悪習、悪癖だったのです!
ヴァイオリンの生まれたヨーロッパに於いても、です。
ヨーロッパ社会での
ヴァイオリン演奏で右弾きしか認められなかったのは、
ヨーロッパ社会では、古くから左利きは否定されていたから、です。
●十六世紀のヨーロッパ社会
『左利きで生きるには 週刊ヒッキイhikkii』
第661号(Vol.20 no.6/No.661) 2024/4/6
「左利きのお子さんをお持ちの親御さんへ ―その25―
楽器における左利きの世界(19)
梶野絵奈著『日本のヴァイオリン史』からヴァイオリンの歴史」
【別冊 編集後記】『レフティやすおのお茶でっせ』2024.4.6
楽器における左利きの世界(19)梶野絵奈『日本のヴァイオリン史』から
-週刊ヒッキイ第661号
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2024/04/post-4c5b1e.html
https://blog.goo.ne.jp/lefty-yasuo/e/a8bf813a7ec9e953053fb9ef3067c3df
でも紹介しましたように、
梶野絵奈著『日本のヴァイオリン史――楽器の誕生から明治維新まで』
(青弓社 2022/9/26)
によりますと、
《ヴァイオリンの起源については諸説あるが、
イタリアでヴァイオリンの原形が十六世紀に生み出されたというのが
定説になっている。》「はじめに」p.21
「十六世紀に生み出された」ヴァイオリンですが、
この十六世紀という時代は、
「左利きに対する抑圧が始まった」時期でもあったのです。
6月末に出版されました左利きの本の新刊、
ヨーロッパ(主にフランス)での左利き差別(と賞賛)の歴史を描いた
左利きの著者と訳者による左利き本
『左利きの歴史:ヨーロッパ世界における迫害と称賛』
ピエール=ミシェル・ベルトラン/著 久保田 剛史/訳 白水社 2024/6/27
この本は、
左利きでもヴァイオリンを右弾きすることが当然とされる根拠の一つ
といいますか、
そもそもの最大原因は、「左利きを認めない社会であった」
ということを証明する本、といっていいものです。
「第二部/第8章 虐げられた左利き」に、
《左利きに対する抑圧が近代に始まったのは、ほぼ確かなようである。
日常生活のおもな行動に左手を用いることがタブーとなったのは、
十六世紀後半からである。》p.110
とあります。続けて、
《やがてこのタブーは、より広い社会階層にも少しずつ適用され、
ほとんどすべての人に共通した礼儀作法の規則と化していった。
こうして左利きは、罰せられるべき違反者となったのである。》
pp.110-111
というのです。
こういう社会情勢の中で、
ヴァイオリンの演奏に於いて、左手で弓を持ち、左弾きする
というような行為が許される訳がありません。
なにしろ、このヴァイオリンという楽器は、
西洋の芸術音楽で中心的な役割を果たしている楽器でもあるのですから。
左利き自体が否定される状況で、主に上流階級で演奏される
芸術音楽の主役であるヴァイオリンを習う時に、
左利きですから左弾きで、という要望が認められるはずがありません。
そもそも日常生活でも左手使いが認められないのですから、
楽器の演奏が認められるとは考えられません。
もちろん、一般庶民の趣味的な演奏なら別でしょうが、
学校であったり、教会であったりといった場では不可能でしょう。
●公教育による右利きの規範化
これらについては、
第665号(Vol.20 no.10/No.665) 2024/6/1
「左利きのお子さんをお持ちの親御さんへ ―その25―
楽器における左利きの世界(21)左利きヴァイオリニストの発言から」
【別冊 編集後記】『レフティやすおのお茶でっせ』2024.6.1
楽器における左利きの世界(21)左利きヴァイオリニストの発言から-週刊ヒッキイ第665号
23:45 2024/05/29
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2024/06/post-ba1399.html
https://blog.goo.ne.jp/lefty-yasuo/e/7b6f52c7e9db04cfc74b96d89909df32
でも、
--
ヨーロッパでも、日本と同じように左利きは差別されてきました。
認められるようになったのは、日本と同じように第二次大戦後のこと。
昔から左利きの子供たちは、親や学校の先生など大人たちから
「矯正」の名の下に、字を書く等の“人間的”な行為に関しては、
右使いに転換させられてきたのです。
--
と書いています。
『左利きの歴史:ヨーロッパ世界における迫害と称賛』の
「第二部/第7章 不寛容のはじまり」には、
《学校はつねに左利きに対抗するためのもっとも有効な手段の
ひとつであった。というのも学校は、利き手のいかんにかかわらず、
右手で書くことを子供たちに義務づけていたからである。
こうして何世紀にもわたり、文盲――
これはとくに農村社会に見られ、下層階級に特徴的な弊害である
――は、いわば左利きのもっとも安全な隠れ所となっていた。》
p.106
といい、十八世紀の証言によりますと、
田舎には左利きの農民が何人もいて、それは、教育の乱用によって、
生まれつきの性質が歪められていなかったからだ、と。
《ところが、十九世紀を通して公教育が大幅に進展すると、
やがてあらゆる改装の人々が、
学校の文明化と徹底した規範化の動きに巻き込まれることになる。
一八八二年、フランスで初等教育が義務化されると、
すべての左利きの子供たちが、社会階層や家柄にかかわりなく、
いっさい例外なしに右利きの支配下に置かれ、平等という
名のもとに、生まれつきの性行を放棄するように命じられる。
当時のある証言は、
こうした「右利きの規範化」を国民に推し進めるうえで、
公教育が果たした重要な役割を明らかにしている。》p.107
といいます。
《したがって十九世紀後半には、公教育の大衆化によって
右利きが圧倒的な覇権を握る。》p.107
《一世紀も経たないうちに、(略)一九一九年に、
左利きが生まれつきの性質を運よくそのまま保ち続けることは
「きわめて珍しい例外」だと、述べている。その間に、
ブルジョワ的道徳観の支配や初等教育の強制力が、
左利きを制圧してしまったのである。》p.109
とあります。
●刷り込まれた規範
こういう社会に於いて、単なるお遊びや下層階級の慰みとしての
楽器演奏なら左弾きも許されたかも知れません。
しかし、上流階級のたしなみや教育の一巻としての、
あるいは中流以下においても、同様な意味での器楽演奏となりますと、
左利きだからといっても左弾きが許されることはなかったでしょう。
ゆえに、ヴァイオリンの左弾きは、
こういうふうに左利きが差別される状況下では、
あり得ないことだったでしょう。
その規範が現代でも生き残っているのではないでしょうか。
すくなくとも、クラシックの音楽を勉強してきたような人たちには、
「右弾きが正しい演奏法である」と刷り込まれているのでしょう。
●左利きの権利として、左利きに対応した楽器を!
第二次大戦後、すでに80年が過ぎようとしています。
アメリカでは、1920年代に左利きの右利きへの強制的な「転換」は、
多くの弊害があるという研究が発表され、徐々に改善されてきた、
といいます。
ヨーロッパ社会は、もう少し閉鎖的で新しい考えがなかなか浸透せず、
アメリカの影響を強く受けるようになる戦後になって
ようやくその方向に進み出した、という状況だったようです。
その辺はまたいずれ検討してみたいと思います。
とにかく、現代においては左利きは生来の一つの性質であり、
否定されるものではないという考えが、確定しています。
左利きの権利として、左利きに対応した道具類の必要性は
認められてきています。
音楽の世界においても、楽器においても、
一日も早くこの常識が通用する世界に変わって欲しいものです。
ギター類だけでなく、その他のあらゆる楽器において、
左利き対応の楽器が製作販売され、
初心者に左弾きを教育できる世界になってほしいものです。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
本誌では、「左利きのお子さんをお持ちの親御さんへ ―その25― 楽器における左利きの世界(24)左利きは左弾きヴァイオリンで(3)」と題して、今回も全紹介です。
現代においてもヴァイオリンの左弾きが薦められていないのは、要するに、他の左利きの場合と同じで、単純に昔から「左利きが否定され、抑圧されてきた」というだけの話です。
しかし、今はもうそういう時代ではないのです。
素直に左利きの人の思いを受け止めて、左用を準備する社会になってほしいものです。
難しい話ではなく、意識の変革だけの問題です。
古くさい常識は捨てて、新しい時代にふさわしい考え方を持つようにしたいものです。
・・・
弊誌の内容に興味をお持ちになられた方は、ぜひ、ご購読のうえ、お楽しみいただけると幸いです。
*本誌のお申し込み等は、下↓から
(まぐまぐ!)『左利きで生きるには 週刊ヒッキイhikkii』
『レフティやすおのお茶でっせ』
〈左利きメルマガ〉カテゴリ
--
『レフティやすおのお茶でっせ』より転載
楽器における左利きの世界(24)左利きは左弾きヴァイオリンで(3)-週刊ヒッキイ第670号
--
【別冊 編集後記】
第670号(Vol.20 no.15/No.670) 2024/9/7
「左利きのお子さんをお持ちの親御さんへ ―その25―
楽器における左利きの世界(24)左利きは左弾きヴァイオリンで(3)」
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右利きにも左利きにも優しい左右共存共生社会の実現をめざして
左利きおよび利き手についていっしょに考えてゆきましょう!
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第670号(Vol.20 no.15/No.670) 2024/9/7
「左利きのお子さんをお持ちの親御さんへ ―その25―
楽器における左利きの世界(24)左利きは左弾きヴァイオリンで(3)」
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前号は、「左利きでもヴァイオリンは右弾きで」という
左利きヴァイオリニストの意見に
「なぜ左利きは左弾きヴァイオリンでなければいけないのか」
その理由を述べ、反論する第2回目でした。
今回はその続きといいますか、最終的な結論――
根本的な理由に基づく反論です。
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◆ <めざせ!実現!!左用ピアノ!!!>プロジェクト ◆
{左利きの人は左利き用の楽器で演奏しよう!}
- 「左利きに優しい社会」づくりは左用楽器の普及から! -
左利きとヴァイオリン演奏について考える
なぜ左利きは左弾きヴァイオリンでなければいけないのか(3)
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●左利きでも右弾きを薦める人たちの理由(再々載)
ネットで調べた「左利きとヴァイオリン演奏」についての発言で、
左利きのヴァイオリニストの人も含めて、ほぼ全員が
「左利きの人でもヴァイオリンは右弾きで」と発言されていました。
今回も改めて、それらのご意見――
「左利きでも右弾きを薦める人たちの理由」
についてまとめたものを書いておきましょう。
・・・
【左利きでも右利き用で右弾きを薦める理由】
1.左利き用のヴァイオリンは右用とは構造が違い、手に入りにくい
→ 道具がないので、手に入るもので我慢しましょう!?
2.右手も左手も重要で、利き手の有利不利は関係ない
→ 右手も左手もどちらでも、慣れたら一緒!?
3.ヴァイオリンは集団で演奏することが多く、左弾きは立ち位置が難しい
→ 左弾きでは隣の右弾きの人と弓が当たる、
弓の動きが逆で一人目立つ、ので困る!?
4.利き手も定かではない、小さい頃から習う人が多いので、
利き手は関係ない
→ 利き手も小さい頃からなら換えられるという人もいるじゃないか!?
●「左利きでも右弾き」に対するそもそもの理由
最後に、総合的な反論です。
といいますか、左弾きが認められない理由ですね。
これを説明しておきましょう。
以前少し書いていますが、簡単に言えば、左利き差別といいますか、
左利き否定の思想によるものです。
・・・
前回、前々回とそれぞれの反論を書いてきました。
それぞれ理屈は合っていると思います。
ただ「そもそもの理由」というものがあったのですね。
そして、実はそれ自体が大いなる誤りなのだ、という事実が、
実は最も重要なポイントなのです。
「左利きでも右弾き」を推奨するそもそもの理由とは?
それは、左利きそのものが否定されるべき事だった、という事実です。
左利きが否定される社会にあって、
「左利きですから左弾きで」
などという発言は認められるはずがありません。
「左利きは悪」だったのです。
左利きは直すべき悪習、悪癖だったのです!
ヴァイオリンの生まれたヨーロッパに於いても、です。
ヨーロッパ社会での
ヴァイオリン演奏で右弾きしか認められなかったのは、
ヨーロッパ社会では、古くから左利きは否定されていたから、です。
●十六世紀のヨーロッパ社会
『左利きで生きるには 週刊ヒッキイhikkii』
第661号(Vol.20 no.6/No.661) 2024/4/6
「左利きのお子さんをお持ちの親御さんへ ―その25―
楽器における左利きの世界(19)
梶野絵奈著『日本のヴァイオリン史』からヴァイオリンの歴史」
【別冊 編集後記】『レフティやすおのお茶でっせ』2024.4.6
楽器における左利きの世界(19)梶野絵奈『日本のヴァイオリン史』から
-週刊ヒッキイ第661号
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https://blog.goo.ne.jp/lefty-yasuo/e/a8bf813a7ec9e953053fb9ef3067c3df
でも紹介しましたように、
梶野絵奈著『日本のヴァイオリン史――楽器の誕生から明治維新まで』
(青弓社 2022/9/26)
によりますと、
《ヴァイオリンの起源については諸説あるが、
イタリアでヴァイオリンの原形が十六世紀に生み出されたというのが
定説になっている。》「はじめに」p.21
「十六世紀に生み出された」ヴァイオリンですが、
この十六世紀という時代は、
「左利きに対する抑圧が始まった」時期でもあったのです。
6月末に出版されました左利きの本の新刊、
ヨーロッパ(主にフランス)での左利き差別(と賞賛)の歴史を描いた
左利きの著者と訳者による左利き本
『左利きの歴史:ヨーロッパ世界における迫害と称賛』
ピエール=ミシェル・ベルトラン/著 久保田 剛史/訳 白水社 2024/6/27
この本は、
左利きでもヴァイオリンを右弾きすることが当然とされる根拠の一つ
といいますか、
そもそもの最大原因は、「左利きを認めない社会であった」
ということを証明する本、といっていいものです。
「第二部/第8章 虐げられた左利き」に、
《左利きに対する抑圧が近代に始まったのは、ほぼ確かなようである。
日常生活のおもな行動に左手を用いることがタブーとなったのは、
十六世紀後半からである。》p.110
とあります。続けて、
《やがてこのタブーは、より広い社会階層にも少しずつ適用され、
ほとんどすべての人に共通した礼儀作法の規則と化していった。
こうして左利きは、罰せられるべき違反者となったのである。》
pp.110-111
というのです。
こういう社会情勢の中で、
ヴァイオリンの演奏に於いて、左手で弓を持ち、左弾きする
というような行為が許される訳がありません。
なにしろ、このヴァイオリンという楽器は、
西洋の芸術音楽で中心的な役割を果たしている楽器でもあるのですから。
左利き自体が否定される状況で、主に上流階級で演奏される
芸術音楽の主役であるヴァイオリンを習う時に、
左利きですから左弾きで、という要望が認められるはずがありません。
そもそも日常生活でも左手使いが認められないのですから、
楽器の演奏が認められるとは考えられません。
もちろん、一般庶民の趣味的な演奏なら別でしょうが、
学校であったり、教会であったりといった場では不可能でしょう。
●公教育による右利きの規範化
これらについては、
第665号(Vol.20 no.10/No.665) 2024/6/1
「左利きのお子さんをお持ちの親御さんへ ―その25―
楽器における左利きの世界(21)左利きヴァイオリニストの発言から」
【別冊 編集後記】『レフティやすおのお茶でっせ』2024.6.1
楽器における左利きの世界(21)左利きヴァイオリニストの発言から-週刊ヒッキイ第665号
23:45 2024/05/29
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2024/06/post-ba1399.html
https://blog.goo.ne.jp/lefty-yasuo/e/7b6f52c7e9db04cfc74b96d89909df32
でも、
--
ヨーロッパでも、日本と同じように左利きは差別されてきました。
認められるようになったのは、日本と同じように第二次大戦後のこと。
昔から左利きの子供たちは、親や学校の先生など大人たちから
「矯正」の名の下に、字を書く等の“人間的”な行為に関しては、
右使いに転換させられてきたのです。
--
と書いています。
『左利きの歴史:ヨーロッパ世界における迫害と称賛』の
「第二部/第7章 不寛容のはじまり」には、
《学校はつねに左利きに対抗するためのもっとも有効な手段の
ひとつであった。というのも学校は、利き手のいかんにかかわらず、
右手で書くことを子供たちに義務づけていたからである。
こうして何世紀にもわたり、文盲――
これはとくに農村社会に見られ、下層階級に特徴的な弊害である
――は、いわば左利きのもっとも安全な隠れ所となっていた。》
p.106
といい、十八世紀の証言によりますと、
田舎には左利きの農民が何人もいて、それは、教育の乱用によって、
生まれつきの性質が歪められていなかったからだ、と。
《ところが、十九世紀を通して公教育が大幅に進展すると、
やがてあらゆる改装の人々が、
学校の文明化と徹底した規範化の動きに巻き込まれることになる。
一八八二年、フランスで初等教育が義務化されると、
すべての左利きの子供たちが、社会階層や家柄にかかわりなく、
いっさい例外なしに右利きの支配下に置かれ、平等という
名のもとに、生まれつきの性行を放棄するように命じられる。
当時のある証言は、
こうした「右利きの規範化」を国民に推し進めるうえで、
公教育が果たした重要な役割を明らかにしている。》p.107
といいます。
《したがって十九世紀後半には、公教育の大衆化によって
右利きが圧倒的な覇権を握る。》p.107
《一世紀も経たないうちに、(略)一九一九年に、
左利きが生まれつきの性質を運よくそのまま保ち続けることは
「きわめて珍しい例外」だと、述べている。その間に、
ブルジョワ的道徳観の支配や初等教育の強制力が、
左利きを制圧してしまったのである。》p.109
とあります。
●刷り込まれた規範
こういう社会に於いて、単なるお遊びや下層階級の慰みとしての
楽器演奏なら左弾きも許されたかも知れません。
しかし、上流階級のたしなみや教育の一巻としての、
あるいは中流以下においても、同様な意味での器楽演奏となりますと、
左利きだからといっても左弾きが許されることはなかったでしょう。
ゆえに、ヴァイオリンの左弾きは、
こういうふうに左利きが差別される状況下では、
あり得ないことだったでしょう。
その規範が現代でも生き残っているのではないでしょうか。
すくなくとも、クラシックの音楽を勉強してきたような人たちには、
「右弾きが正しい演奏法である」と刷り込まれているのでしょう。
●左利きの権利として、左利きに対応した楽器を!
第二次大戦後、すでに80年が過ぎようとしています。
アメリカでは、1920年代に左利きの右利きへの強制的な「転換」は、
多くの弊害があるという研究が発表され、徐々に改善されてきた、
といいます。
ヨーロッパ社会は、もう少し閉鎖的で新しい考えがなかなか浸透せず、
アメリカの影響を強く受けるようになる戦後になって
ようやくその方向に進み出した、という状況だったようです。
その辺はまたいずれ検討してみたいと思います。
とにかく、現代においては左利きは生来の一つの性質であり、
否定されるものではないという考えが、確定しています。
左利きの権利として、左利きに対応した道具類の必要性は
認められてきています。
音楽の世界においても、楽器においても、
一日も早くこの常識が通用する世界に変わって欲しいものです。
ギター類だけでなく、その他のあらゆる楽器において、
左利き対応の楽器が製作販売され、
初心者に左弾きを教育できる世界になってほしいものです。
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本誌では、「左利きのお子さんをお持ちの親御さんへ ―その25― 楽器における左利きの世界(24)左利きは左弾きヴァイオリンで(3)」と題して、今回も全紹介です。
現代においてもヴァイオリンの左弾きが薦められていないのは、要するに、他の左利きの場合と同じで、単純に昔から「左利きが否定され、抑圧されてきた」というだけの話です。
しかし、今はもうそういう時代ではないのです。
素直に左利きの人の思いを受け止めて、左用を準備する社会になってほしいものです。
難しい話ではなく、意識の変革だけの問題です。
古くさい常識は捨てて、新しい時代にふさわしい考え方を持つようにしたいものです。
・・・
弊誌の内容に興味をお持ちになられた方は、ぜひ、ご購読のうえ、お楽しみいただけると幸いです。
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楽器における左利きの世界(24)左利きは左弾きヴァイオリンで(3)-週刊ヒッキイ第670号
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