先日の経絡治療学会関東支部講習会では妊産婦への施術に関する講義をさせていただきました。妊産婦には安全な施術が第一というお話をさせていただきましたが、それは妊産婦への施術に限った話ではありませんね。どんな患者に対しても安全な施術が第一です。当然ながら。
いやそんでね、その講義の中で『医心方』の写本を使用いたしました。
日本最古の医学書である『医心方』に記載されている図解では臨月でも胎児の頭が上を向いています。実はわりと近年まで、赤ちゃんは出産直前に向きを変えて頭から生まれてくると考えられていたみたいなんです。現代のように機械を使ってお腹の中を見たり出来ませんからね、まさか頭を下にして成長しているなんて考えもしなかったのだと思います。ですから江戸時代の頃までは妊娠中の逆子という概念はなかったはずです。逆子治療はいわゆる安産治療の一環だったわけで、両者が似たような施術を行うのはそういう事情からなのだと思われます。
この『医心方』は15年?20年位前だったでしょうか?大阪の久保俊英先生からお譲りいただいたもので、その他にも素問や霊枢などもまとめてお譲りいただきました。当時の私にはとても購入できないような高価な古典の数々。それらは今も日々の臨床に活用させていただいています。私の宝物です。
今から26年ほど前の学生時代、大阪にある久保先生の治療院を見学に行かせていただいたことがありました。誰と行ったか、いつ頃だったかはまったく記憶にないのですが(笑)、久保先生の凛とした佇まいやお話いただいた内容はとてもよく覚えています。
その際、「万が一の折鍼事故への対応ために、必ずピンセットを持ち歩きなさい」と言われたのを鮮明に覚えていて、私は今でも臨床に立つ際には必ずピンセットを一本、白衣のポケットに忍ばせるようにしています。
そもそも経絡治療では鍼を深く刺すことはほとんどないので折鍼事故が起こりませんし、開業して24年目になりますが緊急でピンセットを使ったことは一度もありません。それでも私は2001年の開業以来、安全な施術を行うため、自分への戒めとして、今でも施術の際にはいつも白衣のポケットにはピンセットを一本入れています。
久保先生の言葉が、四半世紀以上経過した今もなお、私の心の中で生き続けています。今朝、往診へ行く準備をしていた時にふと、このことを思い出しました。
久保先生は先日、つい3週間前に74歳でご逝去されました。26年前は今の私と同じご年齢だったんですね。心よりお悔やみ申し上げます。
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