瀬戸際の暇人

今年も偶に更新します(汗)

異界百物語 ―第86話―

2009年08月23日 20時15分31秒 | 百物語
やあ、いらっしゃい。
唐突で済まないが、貴殿は「正夢」を見た事が有るだろうか?
夢で見た内容が、実際その身に降り掛かった例は有るかい?

一説に夢を見るのは、脳が記憶の整理をしているからだと言う。
だから過去に体験した出来事が、ごちゃ混ぜになって映像化される訳だが、それだけでは判断のつかない不思議な夢も在る。

これは昭和56年5/7付の中部読売新聞に掲載された記事だそうだ。



昭和55年12/2、愛知県で女性が1人電話で呼び出され、殺されて木曽川に投込まれるという、惨い事件が発生した。

翌年の1/20犯人が逮捕され、自供を元に木曾川で大掛かりな捜索を行ったが、遺体を発見する事は出来なかった。

その頃女性の父親は、よく知人に「娘が水底から助けを求めている夢を見る」と洩らしていたらしい。
知人にだけでなく、父親は捜索の段階で、「東名阪自動車道の上流をもっと捜して欲しい。娘があの鉄橋の上を歩いて来たり、橋の下に居る夢を何度か見たんです」と頼んでいたそうだ。
だが警察は取り合わず、「伊勢湾へ流れ出てしまったのだろう」との見解を出して、捜索は無情にも打ち切られてしまった。

時が経ち、5/5の事だ。
川へ釣りをしに来た人が、女性の遺体を発見した。
そこは父親が夢で見た通りの、東名阪自動車道木曽川橋の上流1キロの地点であったと言う。



…父親の執念と娘の魂が呼び合って起きた不思議か。
とも、これもただの「偶然」と呼ぶべきものか。
貴殿はどっちに考えるだろうか?


…今夜の話は、これでお終い。
さあ…蝋燭を1本吹消して貰えるかな。

……有難う。

それでは気を付けて帰ってくれ給え。

――いいかい?

夜道の途中、背後は絶対に振返らないように。
夜中に鏡を覗かないように。
風呂に入ってる時に、足下を見ないように。
そして、夜に貴殿の名を呼ぶ声が聞えても、決して応えないように…。

御機嫌よう。
また次の晩に、お待ちしているからね…。




『現代民話考4巻―夢の知らせ・火の玉・ぬけ出した魂―(松谷みよ子、編著 ちくま文庫、刊)』より。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする