千の天使がバスケットボールする

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「タンパク質の一生」永田和宏著

2008-08-29 23:24:08 | Book
タンパク質は賢くてとっても優秀!
私たちヒトは、およそ60兆の細胞からなり、その7割が水分という”水袋”であることはよく知られているが、固形成分の20%は、20種類のアミノ酸が一列につながっているタンパク質である。そして60兆個の細胞がそれぞれ80億個ほどのタンパク質を持っていると言われている。しかも!60000000000000×8000000000個のタンパク質は、常に分解と生成をくりかえし、最も新装開店率の早い細胞では、1秒間に数万個にものぼる新陳代謝を行っている。
つまりタンパク質は生命の営みそのものであり、本書はその大事な働き手である仕事人タンパク質を主役に書かれた「タンパク質の一生」物語である。

ここで私がいみじくも「物語」という言葉を使ったのは、ペトロニウスさまの「物語三昧」からの影響だけではなく、どのようにDNAからタンパク質がつくられるかという合成メカニズムからはじまり、つくられたタンパク質がどのような構造をつくっていくのか、言わばタンパク質の青少年期に該当する成長と成熟を知り、やがて就職して壮年期に入ると異動や転勤のような正しく機能するための輸送、物流システムを学ぶのである。知れば知るほど、個体の発生から分化、死に至るまでタンパク質の果たす役割の重要性とリスク・マネジメントもしっかり行う賢さに驚くのだが、中にはぐれて非行に走り、更正できずに本来のお役目からフェイド・アウトするタンパク質(←どこかで同じような表現をした記憶もあるが)も存在し、正常に品質管理できないフォールディング異常が引き起こすプリオン病やアルツハイマー病などもわかってきた。

「過不足のない端正な文章で、作り出されては壊されていくタンパク質のはかなくも華麗な一生に寄り添って、それを語る」。そんな素敵な文言で、歌人でもある著者を紹介する分子生物学者の福田伸一氏の名文の招待状(書評)で訪れた「生命活動」という舞踏会の舞台裏の主役でのタンパク質。そんなタンパク質を見事にエスコートするのも、近年研究がすすむ分子シャペロンというタンパク質である。フランス語で”介添え役”の意味をもつシャペロンは、先日観た米国映画の原題「Made of Honor」のように、他のタンパク質が一人前になるまでかいがいしく面倒をみるが、一人前になるのを見届けるとそっとさりげなく去っていく。そんな「細胞内の名脇役」の存在を発見したのも著者の永田和宏氏の業績である。だからであろうか、分子シャペロンの記述には力がはいっている。
本書の特徴は、生命活動とそれを支える細胞、タンパク質の活動の複雑で精妙な働きが、美しいほどの繊細なバランスのうえに成り立っている「細胞生物」学を、まさしく人間の一生になぞらえてわかりやすく解説しているところだろうか。教育現場で危機感をもたれている科学離れには、諸々原因があると感じるが、受験対策以前に、まず生徒たちやおとな自身が科学に興味と関心をもつことが大事であろう。本書そのものが、著者が「いま、細胞生物学が一番面白い」と断言する科学という舞踏会へのシャペロンの役割を演じている。

ちなみに余談ではあるが、元々胎児は雌として7週目ぐらいまで育つが、精巣決定遺伝子によってつくられる、ある特定のタンパク質を作り出した場合にだけ♂になる。免疫学者の多田富雄氏がこのような現象から、多分聞いたことのある方もいると思うが、次の名言を残している。

「女は”存在”だが、男は”現象”に過ぎないように思われる」(「生命の意味論」)

■おさらいアーカイブの一部
・「寄生虫博士のおさらい生物学」藤田紘一郎著
・「意識とは何か」茂木健一郎著
・「エピジェネティクスが見る夢」

・「エピジェネティクス入門」佐々木裕之著

・「未来の遺伝子」佐倉統編
・iPS細胞開発の山中教授 引っ張りだこ
・「世界でいちばん美しい物語」
・・・私のイチオシ!