千の天使がバスケットボールする

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静かなる無視

2005-03-04 23:36:11 | Nonsense
今日、勤務先で電車の中で見かけた”変なおじさん”の話題で、おもいっきり笑った。
春だというのに雪が降るくらい寒いし、なんだか閉塞感が蔓延する日々に楽しい話題ともいえた。

そのおじさんは、女装して電車に乗り込んできたらしい。女装趣味を非難しているのではない。あの三島由紀夫のお気に入りの美輪明宏さんのように、年を重ねるごとに美貌に凄みが加わる方もしらっしゃる。美しければ、似合っていれば、あるいはサービス業などで職業上の理由からコスプレとして着用していれば、それはそれでひとつの光景として車内でもなじむものである。

しかしながらそのおじさんはミニスカにハイソックス、フリフリドレスという、おそらく松田聖子以外はその年代では女性でも顰蹙もののいでだちだったらしい。つい油断から視線を飛ばしてしまう乗客に対して、「見ないで!いいわよっ、見るんだったらもっと肌をだしてやる~!」とゲキを飛ばしていたらしい・・。

この方はいったいどういう方なのだろうか。ただのコスプレ趣味のまっとうな?男性なのか。それとも少々病んでいる方なのか。
もし私がその場に遭遇した場合の態度は、失礼ながら少々精神状態が不安定な方でいらっしゃるとかってに素人判断する。そのときは見てみぬふりというよりも、見ない、つまり気の毒だから平静になにごともなかったかのように努めてふるまう。あくまでも何事もなかったように。
そういうと聞こえは悪くないが、結局は”無視”するということになるのだろう。都会は変人が珍しくないし。しかしそこにあるのは、ちょっとした病からくる行動を社会にとっても本人にとっても恥と感じる自分自身の冷淡さかもしれない。

ある精神科医が、少年が自殺したという手紙を父親から受け取った。
少年は小柄で大人しく中程度の県立高校に進学したが、不登校となり家の近くのクリニックに通いはじめたころ、待合室で暴れたために精神病院に入院した。退院後数年間は定期的に通院していたが、大学検定試験にも合格し、好きな分野の専門学校に入学が決まっていた矢先のことだった。きっかけはその精神科医が少年の日常にあかるさもあり、通院の負担を軽くするために通院先を変えることを提案したことだった。2週間に一度、ほんの数分間、むしろ精神科医の方が話すことが多かった関係がきれたことによる喪失感のためだとしか考えられないというのが精神科医の後ろめたさだ。それほど会社役員の父、専業主婦の母、兄という家庭環境にもかかわらず、少年は人間関係があまりにも希薄だったのだろう。たったひとすじの糸がきれたと感じたのだろうか。

現代の日本社会では、小さな、ささやかな人間関係の喪失によって人は簡単に死ぬ。そこにいたる過程でぎりぎりのところで踏みとどまっていたからである。電車の中で化粧する女性、変なおじさん、あぶなげな人、そういう対象にはそ知らぬふりをすることが、都会人としてのルールだと思う。けれども、満員電車で気持ち悪いくらい他人と密着している物理的な状況と反比例して、人間関係は益々希薄になっていることも否定できない。その無関心さに居心地のよさもあるのだが、自分を見失ってしまう者もいる。