【岩崎俊夫BLOG】社会統計学論文ARCHIVES

社会統計学分野の旧い論文の要約が日課です。

時々、読書、旅、散策、映画・音楽等の鑑賞、料理とお酒で一息つきます。

笹沢信『ひさし伝』新潮社、2012年

2012-07-20 00:01:44 | 評論/評伝/自伝

            

  井上ひさし(1934-2010)というと「ひよっこりひょうたん島」のイメージが強すぎ、またその後、たくさんこの人が書いた演劇をみたがひとつひとつの作品の位置を押させていず、いきおいこの作家についての知識は断片的だった。本書はそこに筋道をつけてくれ、この巨人が成した生涯の仕事の大きさが圧倒的に読者に迫ってくる。


  著者は本書を、井上ひさしが「巨大な知の発行体」であったこととの指摘から初めている。そして座右の銘が「むずかしいことをやさしく、やさしいことをふかく、ふかいことをゆかいに、ゆかいなことをまじめに」だったことを紹介。

   生い立ち(山形県生まれ)、父の死(農地解放運動で検挙され病死)、母の手一つで育つも、貧困のた東北のあちことを転々とし、15歳のときに仙台の児童養護施設に入園。上京し上智大学に入学、授業にはほとんどでず浅草のストリップ劇場「浅草フランス座」で進行係の役でアルバイト。この間、あちこちの懸賞小説に応募。その後、放送作家として活躍。てんぷくトリオの座付作家に。

   熊倉一雄さんのアドバイスで放送作家から劇作家の道へ。「日本人のへそ」が評価された他、「ブンとフン」「十一匹のネコ」「道元の冒険」など問題作、話題作を次々に世におくる。「手鎖心中」で直木賞。その後の活躍ぶりはよく知られたことだが、わたしは井上さんの小説家としての力量をいままであまり知らなさすぎた。というか読んでもいなかった。反省。とくに「吉里吉里人」が圧巻なようだ。

   こまつ座旗揚げ後は、遅筆堂を自他ともに認めつつも、劇作で快進撃が続く。「頭痛肩こり樋口一葉」「国語元年」、昭和庶民三部作(「きらめく星座」「闇に咲く花」「雪やこんこん」)、「藪原検校」「しみじみ日本乃木大将」、ヒロシマ・シリーズ(「父とl暮らせば」「紙屋町さくらホテル」)などなど。テレビドラマでは「四千万歩の男」(伊能忠敬)。

  さらに社会的活動として、ペンクラブ会長、九条の会呼びかけ人、生活者大学校(1988年スタート)などをこなした。文句のつけようがない博覧強記、怪物だ。著者はこうした井上さんの歩んだ道を年譜を編むようにたんたんと綴っている。

  井上さんが亡くなって2年足らず。短期間でこのような大著が出てきたことに率直に驚き、感動した。


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