東京電力の解体に賛成の人も、反対の人も、読んでいただきたい本である。
昨年3・11の東日本大震災は、福島原発に甚大な被害をもたらし、いまなお放射線被害は拡大している。汚染された土壌の廃棄、1号機から4号機までの完全な廃炉までに要する時間は数十年、半世紀以上かかるのではなかろうか。
「安全神話」を単純に信仰していた人々、あるいは危険性を故意に隠蔽してきた人々は論外であるが、懸念されていた事態は目の当たりの現実となった。事後処理は途方もない規模のものである。
筆者はこれまでの研究で、現代の法人資本主義、会社本位主義の在り方に警鐘をならしてきた人であるが、3・11の事態に直面し、意を強くして大規模化した企業の解体、法人資本主義からの脱却を主張している。「東電たたき」が重要なのではない。今回の福島原発問題に、東京電力という大独占株式会社に現代の法人資本主義、会社本位主義の矛盾が象徴的にあらわれているので、東電の過去・現在・未来を議論し、その解体の方向を模索して、現代資本主義、大独占企業の帰趨に決着をつけ、そのための知恵を出し合いましょう、と言うのが全体の論旨である。
日本の原子力政策の問題点、電力産業成長の経緯、東京電力の果たしてきた役割な重要な論点が随所に出されているのでそれはそれとして押さえておくべきであるが、問題を散漫にすることなく今回の問題に限定すれば、問題の所在は多くの人命を失わしめた東電の刑事責任が問われていないこと、東電があまりにも大きすぎてつぶせないとの認識が蔓延していること、原子力損害賠償支援機構をたちあげ銀行救済のために巨額の血税を投入したこと、などである。
巨大独占企業の存在そのものが、日本の政治・経済・社会の御荷物になってきている。東電の国有化には、展望がない。採るべき方向は、電力会社の地域独占の廃止、発電部門、送電部門、配電部門の分離、そして発電部門に関しては水力、火力、原子力のいずれの発電所ごとに独立した会社にすること、さらに関係会社はすべて独立させ、小さな組織に改編していく、原子力発電は止める方向でエネルギー問題を展望していくことである。
東電が株式会社形態をとっている限り、その自己変革は期待できない。政府の命令で進めるしかなく、政府が先頭にたって企業改革を推進するしかない。既存勢力には即刻退場してもらい、御用学者、お抱え記者にも退陣勧告。法人資本主義にかわる新しいシステムを構築できる人々、彼らによって遂行される政治がいま必要であり、いまがそのための絶好の機会というわけである。
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