小説の取材活動などで全国を歩いた著者が、編集者に乞われて執筆した「食」に関するエッセイをまとめたものです。
小説同様、著者の無駄も、余計な粉飾もない硬筆の文章がよいです。しかし、一面、とくに前半は、味に関して、「実にうまい」「すこぶるうまい」などの余白のない表現が目立ちます。
暗い、貧しく、国民全体が飢えていた戦争時代を経て生きた著者らしく、戦後の洋食との出会い、ビフテキ体験には共感がもてました。気取った食を排し、旅で行く先々の地方(市場)の食材を愛で、質実の道に徹しています。
同時に、著者は東京に生まれ、育ったので、戦後のこの地の雰囲気を楽しんでいます。上野、浅草、根岸など。地方の豊かさにも目を向けています。宇和島のうどん屋、長崎のカステラと蒲鉾、米沢の味噌、岩手県田野原村のじゃがいも、福井県小浜の小鯛の笹漬、あちこちの蕎麦。
そして何と言ってもお酒だ(ビール、焼酎、泡盛、日本酒、ウィスキーなんでも)。日本酒がおいしくなったことに祝杯をあげて、本書を閉じています(「日本酒花盛り」)。
新潟県の「久保田」「八海山」「白瀧」「雪中梅」「〆張鶴」「鶴亀」がお好みのようです。
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