【岩崎俊夫BLOG】社会統計学論文ARCHIVES

社会統計学分野の旧い論文の要約が日課です。

時々、読書、旅、散策、映画・音楽等の鑑賞、料理とお酒で一息つきます。

加賀乙彦『雲の都:第一部(広場)』新潮社、2002年

2013-03-08 00:15:17 | 小説

             

  全5巻のうちの第1巻。第1巻だけで450ページほどある。長編小説。この巻では、セツルメント活動をしている悠太(著者の分身ではなかろうか)の家族、て、時田家とその親戚である風間家との関わり、そして亀有にある引揚者寮でのセツルメントの仲間たちと活動の様子が描かれている。時代は、朝鮮動乱が勃発してあまり時間がたっていないこと、皇居前でのメーデー時間がしっかり描かれているから、1952年ごろの設定である。


  登場人物がしっかり描写されている。以下に、人間関係の概略を示すが、これは図に示した方がわかりやすい。ここでは、それが出来ないのが残念である。手許で作成した図を見ながら、書いていくことにする。

 時田家の利平にはふたりの娘がいて、長女初江は安田生命に勤務している小暮悠次の妻となっていて、小説では重要な位置にいる。この初江夫婦に子どもが4人、3人の男の子(みな東大生)と央子といて彼女(ヴァイオリニスト)はフランスに留学中。悠太は長男で医学部生、大変な読書家であるうえ、セツルメント活動にのめり込み、ほとんど家に帰っていない。次男の駿次は法学部生でどちらかというと体育系、三男の研三は教養学部理科生で化石採採集というかわった趣味をもっている。時田利平の次女、夏江の夫は菊池透という弁護士。この夫婦には火之子という変わった名前の子どもがいる。夏江は医者になるべく医大で学んでいるので、火之子を初江のところにあづけ、面倒を見てもらっている。


  初江には間島五郎という画家と異母兄弟の関係にあったが、五郎は自殺してしまった。五郎が遺した画は、悠太が貰い受けた形になっていて、その絵が人気を呼び始めている。

  一方、風間家は振一郎(妻は藤江)に4人の娘がいて、上から順に百合子、松子、梅子、桜子。それぞれ改進党の代議士脇啓介(百合子)、自由党の大河内秀雄(松子)、建築会社の速水正蔵(梅子)、造船会社社長の野本武太郎(桜子)に嫁いでいる。桜子はピアノの教師で、行動的女性。野本と結婚しているが、年齢は30歳も離れ、夫婦関係はない。この桜子は敬介の弟、晋介(フランス文学)にかつて恋愛感情があったが、亡くなってしまっている。

  さらに亀有セツルメントの人間関係も複雑で阿古麟吉(セツル委員長)、彦根角平(法律相談部)、風沢基(診療部;東大医学部で悠太の一年先輩)、山折剛太郎(東大文学部生)、久保高済(東大文学部生)、一色美香(女子医大生)、玉先悦子(女子医大生)が仲間、診療所には為藤医師と剣持看護婦がいる。他に大原奈々子、浦沢明夫などが重要人物として出てくる。

  このように人間関係が複雑で、この巻ではかれらの関係を紹介しつつ、セツル活動の難問(引揚寮から立ち退きを迫られるなかで診療所をどのように維持していくか)、セツル活動でのセクト争い、メーデー事件の様子、悠太と奈々子、桜子との男女関係など、いくつもの話題がとりあげられている。とくにメーデー事件でのデモ隊と警官隊との衝突、警察の側の挑発と謀略の描写は凄まじい。構成は、「水辺の街」「広場」の2章からなる。


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