【岩崎俊夫BLOG】社会統計学論文ARCHIVES

社会統計学分野の旧い論文の要約が日課です。

時々、読書、旅、散策、映画・音楽等の鑑賞、料理とお酒で一息つきます。

文藝春秋編『「御宿かわせみ」読本』文藝春秋社、2001年

2008-04-27 00:58:36 | 歴史

文藝春秋編『「御宿かわせみ」読本』文藝春秋社、2001年
               
 平岩弓枝『御宿かわせみ』は、1973年に「初春(はる)の客」が出てから今年で35年目、この間ずっと書き綴られてきた大作です。当初は、一話ごとに完結する「捕物帖」でしたが(現在も基本形はそうである)、これだけ長く続き、登場人物が話のなかで育ってくると「大河小説」の感が出てきています。

 単行本は文庫化され、TVドラマ化、舞台化され、広く読者のなかに定着しました。わたしは文庫2冊だけですが読みました。その魅力の根拠は、登場する人物の個性[東吾(講武所教授方、軍艦操錬所勤務、神道無念流の達人で神林通之助の弟で、後にその夫となった「るい」ちは幼ななじみ)、るい(鬼同心、庄司源右衛門の娘で旅籠「かわせみ」の女将)、畝源三郎(南町奉行所定廻り同心で東吾の親友)、神林通之助(東吾の兄で、南町奉行所吟味方与力)、香苗(麻生源右衛門の長女、通之助の妻)、七重(麻生源右衛門の次女)、嘉助(「かわせみ」の番頭)、お吉(「かわせみ」の女中頭)など]、小説に流れる家族愛、江戸情緒などにあります。

 ちなみにNHKドラマの旧作では「東吾」と「るい」は、小野寺昭さんと真野響子さん、新作では中村橋之助さんと高嶋礼子さんが扮しています。

 本書は、この「御宿かわせみ」の虎の巻です。著者との対談、歴史学者、国文学者、文藝評論家などの「かわせみ」論、読者の感想文からなっています。

 平岩さんによる裏話(グランドホテル形式で「旅館と奉行所」の組み合わせを考えた理由。「かわせみ」の命名の契機、作品に花を使うわけ、登場人物の年齢、著者のお気に入り作品[「息子」「春の寺」「牡丹屋敷の人々」「煙草屋小町」など]が面白いです。

 国文学者、島内景二氏がためになることを書いています、要約すると「平岩氏は古典に通暁しており、「源氏物語」「伊勢物語」からとった逸話がベースになっていたり、彼女の描く『江戸』には古典物語が下敷きにある。新しい『短編的長編』を予感させる部分があり、『東吾の隠し子問題』がその契機になるかもしれない」と。

 著者と重金敦之氏との「かわせみグルメ」にまつわる対談も、江戸の朝食、天ぷら、寿司、蕎麦、野菜、さくらもち、などが次々とでてきて楽しいです。

 この本のジャンルは「対談」あたりに属するのでしょうが、江戸の庶民の生活、土地関係、奉行所の役割、食文化などが、兎に角よくわかる「入門の書」なので、「江戸学」に入れました。