新田次郎『怒る富士(上)』文藝春秋、2007年
作家、新田次郎による、宝永年間の富士山の大爆発を扱った小説です。
宝永4年(1707年)、富士山が大爆発しました。16日間にわたって砂と灰が降り、田畑は壊滅、近隣の農村に甚大な打撃を与えました。
時の将軍は綱吉。農民たちは救済をもとめて小田原藩主、そして江戸幕府に陳情を試みます。その先頭にたったのが関東郡代伊奈半兵衛忠順です。
しかし、幕府側では、大老の柳沢吉保、勘定奉行(勝手方)の萩原重秀、折井正辰の系列と老中の大久保忠増、勘定奉行(公事方)の中山時春、河野勘右衛門の系列が政争状態にあり、地元農民への救済に及び腰であるばかりか、被災農民を道具に醜い政権争いにあけくれていました。
ついに伊奈半兵衛忠順がその責任者である駿東郡59ヶ村は亡所となり、飢餓に苦しむ農民は見捨てられます。
半兵衛忠順への信頼だけが農民たちの生きる支えとなるものの、幕府の援助はほとんどなく、田畑の普及は進まず、酒匂川は氾濫し、飢餓で倒れ、故郷を棄てるものが相次ぐのでした。
深沢村の喜右衛門と水呑百姓の娘、つるとの恋を織り込みながら、自然の恐怖、階級矛盾が人々を翻弄します・・。綱吉が死に、時代は家宣の政権に。
下巻が楽しみです。