【岩崎俊夫BLOG】社会統計学論文ARCHIVES

社会統計学分野の旧い論文の要約が日課です。

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荒川章義『思想史のなかの近代経済学』中央公論社、1999年

2008-04-01 00:56:44 | 経済/経営
荒川章義『思想史のなかの近代経済学-その思想史的・形式的基盤-(新書)』中央公論社、1999年
        思想史のなかの近代経済学―その思想的・形式的基盤 (中公新書)
 本年度(2007年度)、最後の読書をこの本で締めくくりました。
 
 本書で著者が言いたかったであろうことを以下の6点の引用にまとめてみました。

 ①18世紀の啓蒙の哲学(「理性」「科学」に全幅の信頼をおき、「自然」と「社会」はともに全知全能の立法者である「神」が設計した存在に他ならないとする哲学)は、本来自然を対象とした学問の分析的方法(方法論的個人主義、功利主義、合理主義)を、社会科学に導入する下敷きであった。すなわち、この哲学こそが重農主義の経済学、古典派経済学、19世紀後半の限界革命以降の新古典派経済学の成立を可能にした(p,12)。

 ②ワルラス、ジェボンス、エッジワースらは経済学の理論が古典力学の理論と酷似していることを「発見」したのではなく、むしろ経済学の理論を古典力学の理論と同じ内容で建設、「発明」した(p.109)。

 ③近代経済学の枠組みは、古典力学の理論、とくに保存的な力学場の「位置」「力」「ポテンシャル関数」「ハミルトンの原理」といった概念を、「商品」「価格」「効用関数」「最適化仮説」といった概念に読み替えることで成立した(p.121)。

 ④近代経済学の完全競争の理論とは社会の自立的成立の理論、自立的調整の理論の延長にあるものであり、また完全競争の理論とは「現実」の資本主義経済を「経済学的」に記述した経済理論ではなく、むしろ徹頭徹尾「理念上の」分権的資本主義経済を「政治学的」に基礎付けようとした経済理論である(p.175)。

 ⑤ダーウィンの『種の起源』の革新性は、マルサス(人口理論)、スミスの経済理論(分業論)、リカード(比較生産費説)の影響のもとにある(p.181)。

 ⑥分権的完全競争の理論は超越的主体や超越的強制力の存在を前提することなく社会の自立的成立の問題と社会の自立的調整の問題を説明するという社会契約論の課題に対する近代経済学流の解答に他ならないが、実は完全競争の理論は超越的主体や超越的強制力の存在を前提せざるをえないのであり、最終的にはこのパラドックスのゆえにこの理論は内側から崩壊する結果に終わらざるをえない(p.194)。