北原亞以子『その夜の雪』新潮文庫、1997年
気になっていた作家のひとりでした。1997年に『恋忘れ草』で直木賞を受賞しています。
北原さんの小説は呼吸があります。リズムがよいのです。「解説」で作家の佐藤愛子さんが、北原さんはゲラ刷が訂正で真っ赤になる、それだけ読み返してリズムが気になるのであろう、と書いていますが、そういうことで寸部の隙のない文体、テンポのよい文章が出来上がるのでしょう(p.271)。
本書には7編の短編が収められています(「うさぎ」「その夜の雪」「吹きだまり」「橋を渡って」「夜鷹蕎麦十六文」「侘助」「束の間の話」)。
「その夜の雪」は半月後に祝言を控えた娘が暴漢に襲われ、自害。定町廻り同心森口慶次郎が娘の遺書を懐に復讐に燃えます。必死の捜査の末、犯人を追い詰めた慶次郎が見た光景は…。怨念と人情が絡まる表題作他、江戸庶民の市井の生活を描いた傑作短編集です。