黒猫書房書庫

スイーツ多めな日々です…。ブログはちょー停滞中(´-ω-`)

『春はそこまで 風待ち小路の人々』志川節子(文藝春秋)

2013-01-16 | 読了本(小説、エッセイ等)
芝神明宮のほど近くに店が立ち並ぶ<風待ち小路>。
そのうちの一軒である絵草紙屋『粂屋』の主・笠兵衛は、四十八になるが、人気役者・五代目岩井半四郎に似た色男で、商いにも色事にも意欲的。
桐畑の家に妾のお孝を囲っている笠兵衛は、五年前に亡くなった女房・おすまの後添えとして迎え入れようと考えていた。
そんな笠兵衛の不満は、今ひとつ覇気が感じられない跡取り息子の瞬次郎のことだった。
そんなある日、店に引札の依頼に来た半襟屋『小波庵』のおちせ。先の火事で亭主を亡くし、一人で息子を育てている彼女が気になった笠兵衛だったが、彼女が瞬次郎と親しくしているのを目にして……“冬の芍薬”、
生薬屋『円満堂』は、閨房の秘薬・仙喜丸の評判が諸国に知られるほどで、旅人の江戸土産としても人気があった。
しかし主の亀之助は女道楽が激しく、遊び歩いてばかり。女房のおたよは、それを諌めることもできず、また二人の間に子ができないのを悩み、町医者の父の元にたびたび相談に出かけていた。
そんな中、おたよが提案した飛脚売りで騙されて……“春はそこまで”、
洗濯屋『楓屋』の子・佑太は、母・お栄からもらった小遣いで買った双六を、いとこでいじめっ子の分吉に取られても、言い返せない。父が家を出てから、お栄が古着商を営む分吉の父に世話になっているからだ。
お栄は、駒さんという家にたびたびやってくる納豆売りの男を新たな亭主ににしたいと考えてるらしい。
一方、風待ち小路の店で、少し前からたびたび盗みが発生していて……“胸を張れ”、
近頃、日の出横丁に参拝客を取られているのを気にする若い跡取り連中は、どうにかしようと策を練っていた。
芝神明宮のお祭りに見世物をやろうということになった。ちょうど市村座でかかっている『助六由縁江戸桜』が見栄えもして良いだろうと演目に決まった。
参考の為、芝居を観に行くことにした瞬次郎は、思いを寄せるおちせを誘った。店の客として来た彼女と親しくなったものの、何かよそよそしく、息子の銀吉にも合わせてもらえない。
縄暖簾『つくし』の女将・おつなに手伝ってもらい、小間物屋で彼女に贈る櫛を買った瞬次郎だったが、その帰りに侍と連れ立って歩いているのを目撃してしまい……“しぐれ比丘尼橋”、
上州。御納戸組に勤める五十嵐半之丞が、御蔵役の池田伝内に斬られた。どうやら伝内は、その後に藩の香炉を持って逐電したらしい。
半之丞の死後、五十嵐家は家禄を没収の憂き目に遭い、半之丞の仇を討つべく嫡男・銀之進、半之丞の弟・又次郎、同じくの妹・おちせは仇を追って江戸へやってきた。
ところが火事で又次郎が亡くなり、銀吉と名を変えた銀之進と二人きりになってしまった上に、国元からは他家に嫁にいった姉の藤乃が催促の手紙をよこす。
そんな中、瞬次郎と出かけた見世物小屋で、伝内に似た男を見かけたおちせ。さらに銀吉が通う道場に、銀吉についてあれこれ探る者がいると聞き……“あじさいの咲く頃に”、
半之丞と親しくしていた中原創吾と再会したおちせ。藩の派閥争いに巻き込まれて、藩を出たという彼から、他にも上層部の思惑に翻弄された者がいたと聞く。
おちせが見かけた黒子が伝内であることが判明。いよいよ覚悟を決めねばならなくなった。
一方、風待ち小路では、同じ演目の見世物を新旧対決で披露することになり、耳目を集める。ところが当日になり腹を壊す者が続出してしまい……“風が吹いたら”の6編収録の連作短編。

芝神明宮近くの風待ち小路で、店を出している人々とその周辺を描いた時代小説。
各お店でいろんなことで悩んでいるあたりは(他の横丁に客が流れて、客足が減ってるので何とかしよう、とか)、現代にも通じる感じですね~。そのまま別のお店のお話で続くのかと思いきや、若い二人の恋の行方や仇討ち話も加わって、複雑な人間模様ができあがってる様が面白かったです。

<13/1/15,16>