仮 定 さ れ た 有 機 交 流 電 燈

歴史・文化・環境をめぐる学術的話題から、映画やゲームについての無節操な評論まで、心象スケッチを連ねてゆきます。

8月が走り出す

2006-08-08 22:35:00 | 生きる犬韜
『デス博士の島その他の物語』

国書刊行会

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8月が走り出した。いつもお盆で大変な時期ですが、今年は輪を掛けて忙しい。というか、休みのない状態です。
前回も書いたとおり、第1週は早稲田で学芸員課程の夏期集中講座。大橋一章先生の「博物館概論」と、山西優二先生の「教育学概論」を受講しました。「教育学……」の山西さんは、国際比較教育論がご専攻。他者表象に関連するテーマがずいぶん出てきて刺激されましたし、かなり受講者への発言を要請する講義でしたので、いろいろな立場の方の意見が聞けて勉強になりました(この講座、社会人対象だけあって、本当に様々な経歴の人が参加しています。何人かの方々と知り合いになりましたが、それだけでもありがたいことですね)。大橋さんの最後の講義では、美術史のRAの方を通じて「面が割れて」しまいました。課題が出しづらい……。

講座受講中の2日(水)には、一時帰国中のしゅいえほん君と、夫婦相集まっての飲み会。元気で活躍している様子はブログでみていましたが、1年前とほとんど変わっておらずひと安心。いろいろ突っ込んだ話もしたかったのですが、いざ会ってみるとみんなで学界ネタのバカ話。日本史学界にはまともな若手研究者はいないのか、みんな異常者じゃないのか、という気になりました(自分のことは棚に上げて)。妻の提案でラーメンまで食べて、その日は九段のホテルグランドパレスに宿泊しました。しかし、この部屋が○○円とは安すぎる……。

5日(土)は、某大学で仏教史学会シンポジウムの打ち合わせ。聖徳太子の歴史的表象の意味を問う内容で、昨今の実像/虚像の二項対立とは一線を画そうと計画したもの。報告者も揃い、それぞれの方から発表予定の内容をうかがって、討論の構想を練る。議論が百出しそうなので、どこをどう抑え、どこをどう盛り上げるかが成功の鍵。司会の責任は重大です。ところで、この会合で以前からご研究を恐懼して拝読している、石井公成さんと初めてお会いしました。共通の知人は多いのですが、重なり合った分野を研究していながら、今までお顔を拝見していなかったのは不思議です。周囲から「論客だよ」と聞かされていましたが、なるほど、シンポの討論は石井さんの独壇場となりそう。また、本番には中国から王勇さんをお招きしているのですが、実は、王さんはしゅいえほん君の上司。ということで、前日に無理をいって、彼にも会合に参加してもらいました(ありがとーう)。会議終了後は、佐藤文子さん・藤井由紀子さん・しゅいえほん君と近くのエクセルシオールでお茶。近年の聖徳太子研究のあり方について雑談。しかし、藤井さんの読書作法(文章から書き手の性格を細かく想定してゆく)は面白い(私も以前、八方美人的性格を細々と分析されたのでした)。
翌日は歴博の共同研究会なので、この日はそのまま佐倉へ直行。途中、上野で「古書まつり」を覗き、『和辻哲郎全集』の「日本倫理思想史」2巻分を1050円で購入(重い……)。

歴博の研究会は、井上寛司さんによる「中世諸国一宮制研究の現状と課題」。井上さんが研究会を主宰し主導してきた分野で、いろいろご教示を賜りました。井上さんは中世神話についても、一宮をひとつの鍵として考えてゆけるのではないかと構想されているもよう。主にテクストとネットワークのなかで深められている分野なので、空間的な視野がどのような展開を生じるか期待したいですね。ところで、「一国に神話的イデオロギーを維持する一宮を前提に、神国日本という全体性が成り立つ」という話をうかがっていて、道宣の『集神州三宝感通録』を思い出しました。意味は違うけれども「神州」という語句を冠していて、阿育王塔の霊験譚を集めて仏教の聖域=インドの広がりを立証しようとする書物。国分寺はもちろん、「神国日本」思想にも何らかの役割を果たしているのではないでしょうか。ま、中世思想史で誰かが指摘していそうですが。

今週は学芸員講習はお休みですが、自坊のお盆とJ大レポートの採点があります。さらに、学生として「教育学」のレポートも書かねばなりません。気を引き締めていきましょう。
ところで上の写真は、ジーン・ウルフのSF短編集。猪股さん・武田さん・三品さんとの飲み会のなかで、〈往年の『SFマガジン』読者の知的センス〉が話題になっていたこともあって、以前から書店で手に取り/棚に戻しを繰り返していた、ウルフの作品を読んでみようと決意。『ケルベロス第5の首』は時間がかかりそうなので、まずはこちらから。通勤電車のなかでめくっていますが、幻想文学としてなかなか不思議な味わいです。猪股さんおすすめの、ブラッドベリ『十月はたそがれの国』も読みたいなあ。ちなみに、『SFマガジン』8月号はレムの追悼特集、9月号はダン・シモンズの特集でした。どちらも好きな作家なので、久しぶりに購入してしまいました。
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4 Comments

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こちらこそ (みなくち)
2006-08-11 13:40:11
どーも、しゅいえほんことみなくちです。先日はお世話になりました。久しぶりに日本の研究会に触れられて刺激を受けました。いやあ、やっぱり日本の研究者はまじめだ。シンポの前に準備会をするなんて。中国では考えられません。それに、佐藤さんや藤井さん等とお話ができたのも収穫です。横内さんからは早速抜き刷りをいただいてしまいました。また、機会があったら参加させて下さいな。
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レス遅れちゃって (ほうじょう)
2006-08-20 23:09:16
レスが遅れてしまってすみません。もう日本を離れちゃっている頃ですか。飛行機嫌いを克服して、こんど絶対ゆきますので待ってておくんなさい。とにかく、いまは君の母校で奮闘中。やり残しになっている仕事を考えるとかなりのストレスですが……。
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まだいるよ (みなくち)
2006-08-21 02:30:00
忙しそうですねえ。ボクは今度の土曜日に出発します。火曜日にはマスオさんと浅草雷門で待ち合わせ。一体どんなところへ連れて行ってくれるのか、楽しみです。飛行機嫌いとか何とか言えないような企画を向こうで考えて、君を強制的に中国へ来させてあげましょうか、フフフ。
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浅草、いいなあ (ほうじょう)
2006-08-21 23:32:13
浅草雷門、そいつぁ江戸っ子なところで待ち合わせだね。吉原へでもくりだすのかい。

あっしぁ、そのころには美術実習室で拓本とってまさあ。飛行機なんぞ乗らなくても行けるように、始皇帝よろしく、東シナ海に橋でもかけておくんなさい。てやんでぇ、べらぼうめ。
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