小説の孵化場

鏡川伊一郎の歴史と小説に関するエッセイ

中村彰彦氏の孝明天皇暗殺説

2008-06-05 23:54:00 | 小説
 文芸春秋『オール読物』6月号は「歴史はミステリーだ!」という特集号になっている。おそらく15年ぶりぐらいに、この雑誌を買ってみた。作家の中村彰彦氏の『「孝明天皇暗殺説」を考える」が載っていたからである。
 このブログの右サイドの「自薦ブログ」に目を移していただきたい。私も「孝明天皇その死の謎」を24回にわたって書いてきた。孝明天皇の死については、かなり突き詰めたつもりである。だから中村氏がどんな見方をしているか、興味津々だったのである。
 結論を先に述べると、中村氏は暗殺肯定論者である。私もそうであるから、共感は随所におぼえた。とりわけ病死説を主張する学者たちへの不満は、まったく同感であった。
 中村氏は病死説をとる学者を進展順に、次のように記す。
 ①吉田常吉 ②大久保利謙 ③森谷秀亮 ④原口清 ⑤佐々木克
 そして④の原口説を伊良子光孝の『天脈拝診日記』によって否定し、①から③までの論者と⑤以下の論者は「全員討死である」と決めつけている。
 中村氏は学者たちにこういう言葉も投げつけている。
「…佐伯理一郎、伊良子光義、西丸與一と少なくとも三人の医者が毒殺説をもってよしとしたわけで、毒殺説をデマとして一蹴するのは学者らしからぬ態度といわなければならない」
 論文はさらに次の結語で終わっている。
「しかるに毒殺説を継承発展させる学者があらわれず、『天脈拝診日記』によってすでに否定された原口説に追尾する論者ばかりめだつのは、不思議な現象といわねばならない」
 毒殺説から病死説に転向したある学者の野郎自大な発言に、私もあきれた経験がある。孝明天皇をたんなる病死と判断することによる学者のメリットは、知的負荷の回避である。そう判断すれば、犯人捜しなどという余計なことに労力をつかわなくてもよいのである。歴史学者というのは、結構怠慢でもつとまるものであるらしい。
 ちなみに私の見解は「自薦ブログ」の中からお読みくだされば、おわかりいただけると思う。

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2 コメント

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表と裏 (来栖ムツキ)
2008-09-06 01:15:14
久しぶりに鏡川さんのブログを拝読させて頂きましたが、これは大変面白かったです。
学者先生というのも、色々としがらみがありますよ。
論文を読む者は、その辺りを考慮して読まねばなりません。
表で語れることと語れないことというのもありますから。
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学者先生のこと (鏡川)
2008-09-06 05:24:51
ようこそ、来栖さん。
しがらみなんてものは俗世間だけのことにしてほしいですね。あ、俗界以上に俗界か。
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