○『
あまちゃん』(2013年4月1日~9月28日、全156回)
2013年の春から夏、社会的話題となった『あまちゃん』ブーム。私も第6週(5月初め)に視聴したのがきっかけで、以後1回も欠かさず、最終回まで見てしまった。半世紀の人生で、初めてのことだ。
私は、あれほど国民的人気を誇った『おしん』も見ていないし、最近の人気作『ゲゲゲの女房』も『カーネーション』も見ていない。理由は、家にBS環境も録画設備もなかったからである。この4月に引っ越して、新居(宿舎)でテレビをつないでみたら、BSが見られることが分かった。土曜の朝、たまたまBSにチャンネルを合わせていたら、1週間分のまとめ放送が始まって、見てしまった。主人公アキの祖父・天野忠兵衛が初登場した週で、前後して、憧れの種市先輩、のちにアキのマネージャーになる水口など、主要な登場人物が揃い、母・春子の過去の一部が明かされて、ちょうど物語が動き始めた頃だった。
詳しいストーリーは書かないが、宮藤官九郎の脚本は、最後まで面白かった。分かるヤツだけ分かればいい小ネタと、世代や国籍を超えて普遍的な人間ドラマの同居。ターニングポイントでは、いつも気持ちよく裏切られた。シロウトの予測など及びもつかないところに連れていかれる快感が、だんだん癖になっていった。ドラマと伴走し続けた、大友良英の音楽も抜群によかった。
2008年から2012年の北三陸を舞台としたドラマでは、東日本大震災の「被災」と、それに続く「復興」の日々も描かれた。制作者は、これは東日本大震災を描くドラマではないと語っていたそうだが、東北の(というより、本当は日本列島の)「今」を生きている人たちを描くとき、震災の体験を外すことはできない。目をそらしてもいけないが、さりとてそれが、彼らの人生の全てでもない。そんなことも考えさせられた。人情コメディを基盤にしながら、けっこう毒の効いた社会批判も含んでいたドラマだと思う。
9月28日に全編が終わって、どれだけ「あまロス」になるかと思っていたが、意外と喪失感がない。最終週の脚本が、多くの登場人物を、丁寧に幸せに導いてくれたおかげではないかと思う。「めでたし、めでたし」で終わる幸福な物語を読み終えた気分。
NHKは、『あまちゃん』視聴者がツイッターなどで感想を共有する「ソーシャル視聴」に注目しているという。昨年の大河ドラマ『平清盛』で、回を追って「ソーシャル視聴」が盛り上がる様子をつぶさに体験した身としては、今更かい!と思わないでもない論評だが、家族で楽しむものから個人で楽しむものに移行したテレビ放送が、ソーシャルメディアによって、新たな楽しみ方を獲得しつつあることは確かである。
※NHK NEWSweb:
「あまちゃん」が示すソーシャル視聴の先にあるもの(2013/10/4)
だが、「ソーシャル視聴」は、プラスの面ばかりではない。『あまちゃん』の後番組として、9月30日(月)から始まった『
ごちそうさん』。私は、ドラマ本編を見る時間がなかったので、金曜までツイッターで視聴者の感想だけを読んでいた。そうしたら「汚い」「可愛くない」「イラつく」など、批判的な感想の多いこと。しかし、土曜に1週間まとめ見をしたら、そんなに悪いドラマだとは思えなかった。いやー今の視聴者って、ドラマの主人公に、どれだけ完全主義を求めているんだか。主人公に品のない言動や暴力が許されるのは、「相手が先に手を出したから」「相手が不当な利益を貪っているから」という言い訳があるときに限るのだろう。
『ごちそうさん』は大阪のドラマかと思っていたら、序盤の舞台は東京で、主人公の両親が営む洋食屋は帝国大学の近傍らしい。まんざら知らない土地でもないので、楽しみになってきた。主人公の相手役が建築家(をめざす帝大生)というのも面白い設定だと思う。大阪編で登場する新進気鋭の建築家のモデルは、武田五一だという情報もあり。非常に楽しみ。
そのほか、秋から始まったドラマでは、まずBSプレミアム放送の『
怪奇大作戦-ミステリー・ファイル-』(2013年10月5日~11月16日、全4話)に注目。第1話「血の玉」を見たが、初期の特撮ドラマの味わい(子供向けなのに、子供向けと思えないエグさ)がよみがえるようで、ゾクゾクした。いつ頃からだったかなあ、特撮の技術が進歩するのと反比例して、内容が幼稚になっていったのは。もうひとつ、BS時代劇『
雲霧仁左衛門』(全6回)も面白かった。個性派揃いの配役に期待。
というわけで、私はこの秋のNHK制作ドラマにかなり高評価をつけている。若者よりも、もともとテレビ視聴習慣で育った中高年層を狙い、ドラマの黄金期に回帰することで成功しているんじゃないかと思う。頑張れ、NHK。ああ、BS放送が見られる環境になってよかった。