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見もの・読みもの日記

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忘れ去られるもの/田楽と猿楽(国立文楽劇場)

2013-10-01 23:59:22 | 行ったもの2(講演・公演)
国立文楽劇場 第18回特別企画公演『田楽と猿楽-中世芸能をひもとく』(2013年9月23日、13:00~)

 もともと、この公演の情報を見つけて、行きたい!と思い、関西旅行が決まった。行くと決めておいて言うのもナンだが、そんなに需要があるのだろうかと思っていたら、満員御礼でびっくりした。

 第一部は、那智田楽保存会(和歌山県東牟婁郡那智勝浦町)による「那智の田楽」である。開演前に、芸能史研究家の山路興造さんが舞台に出て、わが国の芸能の歴史を簡単に紹介してくれた。田楽と猿楽は、鎌倉時代に大変人気を集めた芸能であり、その淵源は、大陸から伝来し、宮中や大社寺の儀式に用いられた「舞楽」である。平安時代後半になると、外来の芸能から新しい芸能が誕生した。

 いまプログラムの解説を読み直しながら、この記事を書いているのだが、「それぞれに楽器を鳴らしながら次々に位置を変化させて動く(躍る)という芸態が、舞楽などに似て大陸的である」という説明は、実際に見た舞台を思い出すと、よく腑に落ちる。確か「舞踊」という言葉をつくったのは坪内逍遥で、本来「舞(まい)」と「踊(おどり)」は異なる概念だった、という説明も聴いたように思う。

 Wikipediaは(広義の)日本舞踊の説明の中で、舞楽も田楽も猿楽も「舞」(摺り足や静かな動作で舞台を廻るもの)に分類し、「踊」(足を踏み鳴らして拍子を取りながら、動きのある手振り身振りでうねり回るもの)は「庶民的で、江戸時代になってから発達した」と書いているが、これはどうかな。現在見られる舞楽(古代の姿のままとは言えないが)には、かなり「踊」の要素が入っていると思う。「うねり回る」ことはしないけど。

 舞台上に現れた演者は、黄土色の衣の編木(ササラ)方が四名、朱の衣の太鼓方(腰太鼓を体の正面に下げる)が四名。どちらも袴は深青色で、平たい綾藺笠(?)を被る。笛方の二名と「めくり」(進行にあわせて曲目を書いた紙をめくる役)の一名は藤色の衣。ほかに補助役で、ときどき笑いも誘うシテテンが二名。左右に日の丸の入った立烏帽子をかぶり、顔の前に紙垂(しで)のような、紐のようなものを垂らしている。

 曲は全部で21種あり、途中で休憩が入ったが、30分ほどノンストップで踊り続ける。曲調は単純だが、フォーメーションを覚えるのは大変そうだ。『年中行事絵巻』の田楽の図(徳川美術館で模本を見た)を彷彿とさせる一瞬もあった。後白河法皇や信西入道が、田楽という新しい芸能に魅せられた気持ちを思って、感慨ひとしお。解説者が、芸能とは、ある時代の人々を熱狂させ、やがて忘れられるものなのです、と述べていたことが印象的だった。熱狂の時代が過ぎたあとは、地方の片隅にひっそりと伝えられていく。だから現代人が見ても、それほど熱狂は感じないと思う、と淡々と述べていらした。永遠の生命を持つ芸術も大切だが、はかないからこそ大切なものもあるのだ。

 第二部は、奈良豆比古(ならづひこ)神社翁舞保存会(奈良県奈良市)による「奈良豆比古神社翁舞」の公演。宵宮に行われる芸能ということで、舞台は夜の境内を模し、開演前にろうそくに火(本物?)が灯された。再び短い解説があった。「能楽」は明治以前は「猿楽」と呼ばれた。その源流は大陸伝来の「散楽」である。「猿楽」(散楽)とは仮面と衣装を着けて何かを真似る芸能で、「翁舞」とは、演者が神様(先祖神)に変身し、郷民を祝福するものである。奈良豆比古神社の翁舞は、演者が観衆の見ている前で面をつけ、神に変身する(神が影向する)ところがめずらしいという。

 前謡→千歳舞(面は着けない)のあと、太夫が面を着け、太夫と脇二名による「翁三人舞」になる。「まんざいらくー」というのびやかな声。よく分からないが、舞台にめでたさが充満する。翁三人の退場のあと、黒い翁面の三番叟が千歳を従えて舞う。「三番叟」って、文楽でしか見たことがなかったが、古式にのっとると、こんな感じなのか。認識を新たにした。終始変わらない、小鼓の打つときの単調な掛け声(プログラムによれば)「イーヤー、アィヤー、オンハー」というのが、なぜか一週間経った今でも、耳に残って消えない。

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