見もの・読みもの日記

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茶懐石の小宇宙/向付(五島美術館)

2009-07-07 00:05:33 | 行ったもの(美術館・見仏)
○五島美術館 特別展『向付(むこうづけ)-茶の湯を彩る食の器-』(2009年6月27日~7月26日)

 あまり期待せずに行ってみたら、意外と面白かった。「向付」(むこうづけ)は、茶の湯の食事「懐石」に用いる器である。私は「懐石」と聞くと、次から次へとお皿が並ぶ高級コース料理を思い浮かべてしまうが、本来「一汁三菜」が原則で、その最初に供されるのが、折敷(お盆)に載った飯椀・汁椀と向付である(※参考:茶の湯のお遊び「朝茶事」)。

 展覧会では、私のような茶事の約束事に疎い観客のため、冒頭にこの状態が再現されていた。闇夜のように冷ややかな沈黙を湛える、黒漆塗りの折敷・飯椀・汁椀の3点セット。必然的に見る者の目は、向付に吸い寄せられる。華やかで大胆なデザインの京焼を用いるか、控え目で調和的な黄瀬戸や志野か。向付の色と形が、その日の「懐石」のイメージを決めると言っても過言でない。なるほど。本来の使い方を学んでみると、展示ケースの中で、五客とか十客揃いの向付を鑑賞していたときとは、ずいぶん印象が違ってくる。

 「向付」のひとことで括られているけれど、その内実は千差万別。織部、絵唐津、高取など、それぞれの味わいがあっていい。さらには中国産や東南アジア産、阿蘭陀藍絵まであって、どんな料理を盛り付けたのか、想像力を刺激される。器形もさまざまで、マグカップか?と思うような背の高い「筒向付」は、どう使うんだろう。器形の面白いものは古染付に多い。牛、馬、駱駝、桃、木の葉、琵琶(楽器)の形なんてのもある。これらは、日本からの注文を受けて中国で焼かれたものだが、日本の陶磁器との影響関係もなく、中国の他の陶磁器にもあまり例がないそうだ。

 尾形乾山の『色絵氷裂文角皿』(京都国立博物館所蔵→画像)はクレーの絵画を思わせる色遣いで、私の大好きな一品であるが、この元ネタかもしれない、中国製の『南京赤絵羅漢氷裂文角皿』という伝来品があることを初めて知った。赤と緑を基調とする素朴な氷裂文の真ん中に、敷物に座った羅漢の姿が描かれている。ちなみに個人蔵。この展覧会、日本全国の美術館・博物館からの出品の中に、相当数の「個人蔵」が混じっている。

 楽宗入の『赤楽百合皿』にはびっくりした。なんと華やかな! 三井高保の好みで組んだ「寄せ向付」(風合いの異なる器をセットに組んだもの)五客の一品であるとのこと。むろん三井記念美術館所蔵。楽焼って茶碗だけではないのね。また、道入の『青釉割山椒向付』の迫力には息を呑んだ。3つに割れたミカンの皮のような「割山椒(わりざんしょう)」といわれる形態には先例があるが、破裂した球体のようなふくらみが、器であることを通り越して、シャープで近代的な造型である。ちょっと、ご当代・吉左衛門氏の作品を思わせる。

 参考資料として、京都市考古資料館から出品されていたのは、京都市中の三条通で発掘された桃山時代の陶器50点余り。多少欠けているのもあるが、完全形を保っているものが多い。美濃、唐津、中国産、東南アジア産など産地はさまざま。三条中之町あたりは「瀬戸物屋町」とも呼ばれる陶磁器問屋街だったそうだ。この話、どこかで聞いたなと思ったら、2007年の出光美術館『志野と織部』でしたね。私は、最近ようやく織部の面白さが分かるようになってきたように思う。

■参考:asahi.com:小野公久のやきものガイド「志野と織部 風流なるうつわ」(2007/03/18)。
http://www.asahi.com/shopping/yakimono/ono/TKY200703180059.html

■京都市考古資料館:2009年9月30日まで、特別展示『京焼の萌芽』開催中だそうだ。行ってみよう!
http://www.kyoto-arc.or.jp/

 最後に、五島美術館にはめずらしく、展示室の中央に吊るされた半透明のスクリーンが会場に華を添えていたことを付け加えておこう。
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