見もの・読みもの日記

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津和野小旅行:鴎外・西周旧居を訪ねる

2009-07-20 23:07:32 | 行ったもの(美術館・見仏)
 津和野に行ってきた。森鴎外の生家を訪ねたくて、自分の中では、この数年、ずっと気になっていた宿題を、ようやく果たすことができた。小さな家だった。向かいの土産物屋のおばあちゃんが、一応管理をしているらしかったが、ガランと開け放たれて、気持ちがいいくらい、何も残っていなかった。前庭には、佐藤春夫が撰し、揮毫した「扣鈕」の詩碑が建っている。



 ↓これは鴎外少年の勉強部屋だったという茶室(炉が切ってある)。部屋の隅に、むかしの和綴じ本を寝かせて入れる本箱がボツリと置いてあって、いつのものか、気になった。



 鴎外旧居から、津和野川を渡るとすぐ、西周(にしあまね)旧居である。これもまた、昔話のじいさんばあさんでも出てきそうな鄙びた一軒屋でびっくりした。「百学連環」のあの知性が、こんな藁葺き屋根の下から育っていったなんて…。小さな母屋の隣りには、これも小さな白塗りの土蔵がある。周はここに籠って勉学に励んだという。炎天下でも、ひんやりした空気が気持ちよかった。



 鴎外旧居に隣接する鴎外記念館にも寄った。小さな旧居とは、あまりに桁違いな立派な施設である。ちょうど今日(7/18)から特別展『鴎外と画家・原田直次郎』が始まっていた。原田直次郎? そういえば、ドイツ時代の鴎外を語るとき、しばしば耳にする名前だが、どんな画家だったっけ? 全く名前に記憶になかったのだが、展示室を覗いて、あ、このひとか!と納得した。代表作の『騎龍観音』が写真パネルで飾られていたのである。

 私は、同作を国立近代美術館の『揺らぐ近代-日本画と洋画のはざまに』(2006年)で見た。誉めていいんだか、笑うべきか、ちょっと呆気にとられるような、印象的な作品だった。同作が第三回内国勧業博覧会に発表されると、外山正一はチャリネ曲馬団を引き合いに出してこれを貶め、鴎外はハルトマン美学を援用して論陣を張り、原田を擁護したという。

 このほか、鯉のいる殿町付近、津和野カトリック教会、乙女峠のマリア聖堂、鷲原八幡宮(ターフの流鏑馬馬場あり)、SLの発着など、ひととおり観光して半日を過ごした。山裾の永明寺(ようめいじ、曹洞宗)には「森林太郎墓」と刻まれた鴎外墓があり、隣りに父母の墓が控えていた。やがて永い日が暮れると、津和野の町は、店も閉じ、外を歩く人の姿もなくなり、明治の頃もかくやと思われる闇の中に沈んでいった。津和野泊。

※補記。大谷晃一著『鴎外、屈辱に死す』(人文書院、1983)を探索中。読みたい本は本屋(または古本屋)で探す主義なのだが、これは図書館に頼らないと無理のようだ。

※補記その2。原田直次郎の『騎龍観音』は、現在(2009年6月13日~9月23日)国立近代美術館で展示中らしい。ゴーギャン展のついでに、忘れずに見てこよう!

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