見もの・読みもの日記

興味をひかれた図書、Webサイト、展覧会などを紹介。

カオスを楽しむ/道教の美術(三井記念美術館)

2009-07-13 21:49:26 | 行ったもの(美術館・見仏)
三井記念美術館 特別展『知られざるタオの世界「道教の美術 TAOISM ART」-道教の神々と星の信仰-』(2009年7月11日~9月6日)

 この夏、いちばん楽しみにしていた展覧会なので、さっそく見てきた。どうやら展示コンセプトは「何でもあり」である。展示図録の冒頭で、大阪市立美術館の斎藤龍一氏が「あたかもインターネット上で『道教』という単語を検索するかのよう」と解説しているのが言い得て妙。地域は中国~日本を縦横に行き来し、時代は紀元前から20世紀まで。メディアは典籍、絵画、工芸など。精緻な芸術作品あり、難解な哲学原理あり、庶民の素朴な信仰の対象、趣味や風俗の味付けに使われた「道教の美術」もある。

 展示室1は、磁器、銅器、銅鏡などの小品から始まり、早くも典籍がお目見え。先日、サントリー美術館でも見た国宝『宋版史記』が、老子伝の箇所を開いて展示されていた(でも、直江兼続旧蔵という説明は無し)。私が感銘を受けたのは、宮内庁書陵部所蔵の『正統道蔵』。「道蔵」とは、道教の経典を集めた大蔵経(一切経)のことで、宋代に編纂されたが、今日存するのは明代以降のテキストだという。展示品は、明の正統10年の版木により、万暦26年(1598)に重印されたもの。世界に4セットしかない貴重品である。明刊本と聞いて、おしなべて軽視してはいけないのだなあ。形式は折本。

 途中をとばして、展示室4は、さまざまな絵画作品が入り組んだ順序で並んでいる。南画ふうの穏やかな蓬莱山図・武陵桃源図のあとに、岡山県立美術館所蔵の牧谿『老子図』(鼻毛の老子~!)が無愛想に掛けてあるかと思えば、明清時代の色のどぎつい天帝図や十王図と並んで、雪舟の水墨画『神農図』が登場。この「カオス」具合が道教の真髄と言えなくもない…。

 思わず目が釘付けになったのは、京都・知恩院所蔵の『蝦蟇仙人図』と『李鉄拐図』(元・顔輝筆)。2007年、京博の新春特集陳列(画像あり)に出陳されているようだが、私は見ていない。蝦蟇仙人の背中に、子どものようにおぶさった白いガマは、曽我蕭白の『群仙図屏風』を連想させる。ただ、顔輝の描く仙人は、蕭白ほど狂気ほとばしる表情はしていなくて、異相ではあるけれど「話せば分かる」顔つきである。1つおいて隣りが、奈良博の『辟邪絵』「鍾馗」(国宝・平安時代)というのは、この展覧会、贅沢なんだか、阿呆なんだか。じっくり見る価値のあるお宝を、ちょっと軽く扱い過ぎじゃないの? 鎌倉・寿福寺の伽藍神3体のあとに、奈良博の「走り大黒」が来ていたのにも、びっくりした。

 展示室5では、趣向を変えて、天文学と星宿信仰にかかわる資料が見られる。土御門家に仕えた皆川家伝来の文書資料が、京都の大将軍八神社から、多数出陳されていた。室町時代の『天文書口伝』は、「月中有楓并兎蟾蜍(月にはカエデがあり、ウサギとヒキガエルがいる)」なんて吞気なお伽話と、「月日行十三度、一月一回天」という科学的な分析が同居しているのが興味深い。江戸時代の『天球儀』には、中国の星座(星官)が記されているが、現代の(西洋の)星座との対比が、分かりそうで分からず、悩む。「天鈎」って、カタチから見て蠍座かな?と思って手帳に控えてきたのだが、ネットで調べたら、仙王座(ケフェウス座)だった。星座名の日本語と中国語の対応も面白いが、これは余談。

 『五星二十八宿神形図』(大阪市立博物館所蔵、中国梁代、6世紀)も貴重品。五星とは、木星・火星・土星・金星・水星だが、歳星・螢惑・填星・太白・辰星という名前で登場する。歳星はネコ顔(豹頭?)の獣神が黒っぽいイノシシ(?)に乗り、螢惑は六臂の馬頭神が赤いロバ(?)にまたがるなど、奔放で幻想的なイメージに興奮する。ほかにも、さりげなく『辟邪絵』の「天刑星」あり、安倍晴明を描いた『泣不動縁起』あり(意外と見る機会のない東博本)で、「あやしい美術」好きの私は、感動に震えるほどの充実ぶり。

 最後の展示室7では、7人の人物を描いた『北斗真形図』に注目。文官姿の4人がひしゃくの桶をつくる4つの星で、武官姿の3人が柄にあたる3つの星なのだろう。6人目に小柄な従者が配されているのは「輔星」で、剣を掲げた7人目の武官は「破軍星」だな、と了解して、ひとり微笑む。私は星の神話が大好きなのである。気になったのは童子形の妙見菩薩像(木造、重文、鎌倉時代)。なぜに読売新聞社所蔵?と不思議だったが、図録を読んだら、よみうりランドに保管されているそうだ。最後に、『寿星図』(東博所蔵、元代)を見ることができたのも収穫。どことなく雪舟の『梅下寿老図』に響いているような印象がある。

 まだまだ見ていたかったが、気がつけば、入館して3時間近く、冷房にあたりすぎて身体が冷えてしまったので、やむなく外に出ることにした。あまりのボリュームに、苦笑をこらえて買って帰った「メガ」図録の感想は別稿としよう。
コメント (2)
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