見もの・読みもの日記

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日中韓の女性たち/儒教と負け犬(酒井順子)

2009-07-17 00:06:16 | 読んだもの(書籍)
○酒井順子『儒教と負け犬』 講談社 2009.6

 2003年に『負け犬の遠吠え』でブームを呼んだ著者の新刊。日本と同様に晩婚化の進む韓国と中国を訪ね、ソウルの「老処女」(ノチョニョ)、上海の「余女」(ユーニュイ)たちの「負け犬」事情を探る、という趣向である。

 タイトルの「儒教」にあまり深い意味はない(らしい)。何しろ、東アジアの二国(韓国、日本)において、同じように晩婚化・少子化が進んでいることを知った著者は「考えてみたところ、思い浮かんだのが儒教の影響です」と、突然に思い当たってしまうのである(ここで「思いて学ばざれば即ち危うし」なんて茶々を入れるのは野暮というもの)。「儒教というと、封建的とか男尊女卑といったイメージばかりが浮かぶ」そうで、母親が外出すると父親の機嫌が悪くなるのも、飲み会でお酌をするように言われるのも、「儒教的な自己規制」の賜物だという。このへんは、厳密に理解しようとすると頭が痛くなるので、酔余のヨタ話(あるいは作文を知的に見せるためのお飾り)だと思って読み流すに限る。

 実際にソウルと上海で女性たちに集まってもらって、恋愛・結婚について話を聴いている部分は面白い。サンプル数は少ないが、その分、親密な雰囲気の中で、かなり本音に近い意見が引き出せているのではないかと思う。たぶん多くの読者は、ソウルの迷える「老処女」たちに親近感を抱く一方、上海「余女」たちの強さと行動力には、目を剥くんじゃないだろうか。

 座談会調査を補完するかたちで、著者は韓国では女性開発院を訪ね、中国では上海市婦女幹部学校を訪ねて、有識者の話も聞いている。そして、最後に掲載されているのが、ソウル・上海・東京の30~45歳の独身女性、各200名を対象に実施されたインターネット調査の結果である。ここには、三都の特徴がくっきり現れていて興味深い。私も著者に同感で、いちばん希望を感じさせないのが、東京の「負け犬」ではないかと思う。

 「強さを身につけて上とか前に行くのは、とても負担と覚悟が必要なこと。しかし私達はいい加減、その覚悟をしなくてはいけない時にきているのでしょう」という著者のメッセージは心に響く。いや、われわれ「負け犬」世代より年長の女性たちに聞かれたら、何をいまさら…と叱られそうだが、現実問題として、日本の30~40代女性は、本質的には少しも強くなっていなくて、今なお、こういう親身な励ましを必要としているのである。

※中国女性の「強さ」の検証は、この本でも。→園田茂人『不平等国家 中国


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