見もの・読みもの日記

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天下大乱の光と影/鹿鼎記1~7(金庸)

2009-07-02 23:27:24 | 読んだもの(書籍)
○金庸著;岡崎由美、小島瑞紀訳『鹿鼎記』1~7(徳間文庫) 徳間書店 2008.12-2009.6

 先々週から読み始めて、半分くらいで「しまった」と思った。既に完結しているものと思っていたら、まだ最終巻の第8巻が文庫化されていなかったのだ。激しく慌てたが、もう引き返せない。徳間書店のサイトを見たら、明日7月3日が第8巻の発売というのに、今日で第7巻まで読み終えてしまった。うわーん、どうしよう。今夜は悶々と枕を抱いて苦しまなければならない…。

 『鹿鼎記』は、1969~1972年に発表された金庸の武侠小説。時代は清朝初期。揚州の女郎の息子、韋小宝は、ひょんなことから宦官になりすまして北京の宮廷にもぐりこみ、少年皇帝・康熙帝の知遇を得、さらに、さまざまな秘密結社、武芸集団、政治勢力の間を渡り歩くことになる。

 私は、CCTV(中国中央電視台)制作の連続ドラマ『射雕英雄伝』(2002年)と『天龍八部』(2003年)をスカパーで見て、そのあと両作品の原作(日本語訳)を読んだのが金庸との出会いである。それまで、中国の武侠モノにも日本の時代劇にも興味のなかった私には、衝撃的に面白かったが、後半ぐんぐん盛り上がった割には、『射雕』は結末が尻つぼみに感じられ、『天龍』はやや後味が悪かった。

 それに比べると、この『鹿鼎記』は、今のところ文句がない。博打好き、女好き、無学でなまけものの主人公・韋小宝が、強運と舌先三寸で幾多の危機をくぐりぬけ、美女と栄華を手に入れる姿は痛快無比。しかし、単なるお調子者かと思えば、Aの命を救うためにはBの殺害もやむなし、というような冷酷な一面もあり、没義道かと思えば「義理ある兄弟を裏切れない」とか「賽の目には従う」とか、妙に律儀なところもある。己れの欲望に従う、万国共通のキャラクターに見えて、ちょっと日本人の理解を超えた度量も感じさせる。

 韋小宝とは「光と影」の関係にある康熙帝もまた、相当な「食わせもの」だ。いや、名君とは、食わせものの別名なのだろう。呉三桂討伐の軍を発するにあたって「最初の5、6年は負けてもいい」には舌を巻いた。こういう腹が括れるのが大国のリーダーの器なんだなあ。康熙帝を恐れ、かつ慕い、同時に騙し続けてきた韋小宝の化けの皮がはがれ、第7巻でついに発生した両人の対決には、文字どおり手に汗握る思いがした。

 また、第6巻で韋小宝はロシアに赴き、皇女ソフィアが権力を握る手助けをする。韋小宝は、満清が「揚州十日」で殺人放火、姦淫略奪の限りを尽くして天下を奪ったように、奴らにも「モスクワ十日」をやらせて天下大乱を起こせばいい、と考えて実行させる。あとで、その話を聞いた康熙帝は「お前は、わが大清から身につけた悪知恵を羅刹(ロシア)の毛唐の女に教えたな」とげらげら大笑いするのだ。この中国文化に綿々と受け継がれるマキャベリズムって、「義がなければ…」みたいな正論好きの日本人には、とても太刀打ちできないなあ、と感じた。

 さて、明日は必ず、仕事帰りに8巻を買いに行こう! おやすみ!

『鹿鼎記』8の感想。
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