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見もの・読みもの日記

興味をひかれた図書、Webサイト、展覧会などを紹介。

ガッカリだらけ/東京からはじめよう(猪瀬直樹)

2007-11-20 22:45:49 | 読んだもの(書籍)
○猪瀬直樹『東京からはじめよう:国の再生をめぐる9つの対論』 ダイヤモンド社 2007.10

 猪瀬直樹の本は『ミカドの肖像』『土地の神話』の頃から読んできた。正攻法では理解しにくい政治経済に、独特の視点から切り込んでいくスタイルが面白いと思う。最近では『構造改革とはなにか:新篇日本国の研究』(2001.9)が面白かった。これを読むと、お役所、公団、公益法人の「官」製システムの末期的症状がひしひしと身に迫り、寒気を感じる。がんばれ構造改革!と、つい小泉内閣(当時)に肩入れしたくなる1冊である。

 けれど、次の『道路の権力』(2003.11)は、あまり面白くなかった。道路公団の民営化推進委員として、迷走する政策論議に関わった体験をドキュメンタリーふうに描いたもの。「臨場感あふれる」と言えば聞こえはいいが、所詮は田舎芝居のルポで「得るものは何もない」のである。うーん。猪瀬直樹、読者が何を求めているか、ちょっと間違っていないかい?という感じがした。
 
 そして本書。2007年6月から東京都副知事をつとめる著者が「産業再生」「雇用システム」「晩婚化・少子化」「地方の生き残り」などをテーマに9人のゲストと語り合った対談集であるが、あれれっ?と目を疑う箇所が多かった。

 いちばん目を剥いたのは「定年は70歳でよい」って。猪瀬さん、団塊世代がまだ役に立つと本気で思ってるんだなあ。悪いけど、直下の世代は必ずしもそうは思っていないのに。確かに、年金財政の破綻を避けるためには、働ける60代にはどんどん働いてもらうほうがいい。しかし、右肩上がり(もしくは現状維持)の賃金水準を期待されては困る。管理的ポストに居座られるのも困る。

 山田昌弘との対談で「女性の結婚観は変わっていない」というのにものけぞった。私は、たとえば橋本健二著『階級社会』にいう、「ダグラス=有沢の法則」(夫の所得が低くなるほど、妻の有業率が高くなる)が崩れ、夫の所得の高い世帯では正社員として働き続ける妻が増えているという点など、非常に重要な変化が起きていると思う。同様のトンデモ本、門倉貴史の『ワーキングプア』にリンクを張っておこう。こういう先入観で目の曇った団塊世代を一掃すれば、男も女も「ワーク・ライフ・バランス」を実現しやすくなると思うんだけどなあ。

 地方には豊かな自然、安全な食べものがある、というのもなんだかな。好きにしてくれ。私は高い家賃で狭い家屋に住んで、不健康なコンビニ食に依存しても、刺激の多い都会に住み続けたい。

 そんなガッカリだらけの本書で、唯一救いだったのは林良博氏(東大農学部教授、総合研究博物館長)との対談「ペットブームの背景にあるもの」。「ペットが子どもの数を上回る」という恐るべき社会の到来に、さすがに著者も呆然の体で、予断の用いようがないところが、却って新鮮で面白かった。
コメント
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