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見もの・読みもの日記

興味をひかれた図書、Webサイト、展覧会などを紹介。

複製される知/百学連環(印刷博物館)

2007-11-18 23:21:24 | 行ったもの(美術館・見仏)
○印刷博物館 【企画展示】雑協・書協創立50周年記念世界出版文化史展『百学連環-百科事典と博物図譜の饗宴』

http://www.printing-museum.org/

 古今東西の博物誌・博物図譜と百科事典を、印刷技術の変遷とともに紹介する展示会。博物誌・博物図譜は、挿絵が多いので、古書の中では比較的「見て面白い」資料である。したがって、類似の企画は各所で見尽くした感もある。

 本展特有の見どころがあるとすれば「古今東西」に嘘がないこと。印刷博物館の蔵書に加えて、特別協力の東京大学東洋文化研究所からは漢籍と珍しい西アジアの博物誌・百科事典、東京大学大学院理学系研究科附属植物園(小石川植物園)からは江戸の博物書が大量に出品されている。

 最初の部屋に入ると、左手に『ニュルンベルグ年代記』など西洋のインキュナブラが4点。おおーと胸のうちに感嘆の声を上げつつ、右手を振り返ると、『山海経』など漢籍の明版が数点。なんだー明版か(東文研、出し惜しみしたな)と、つい侮りがちな気分になる。漢籍で文句なしの「稀覯本」といえば、宋版か元版まで。明版となると、もう大量出版時代に入って「珍しくない」という印象があるのだ。しかし、よく考えてみると、明代は1368~1644年だから、インキュナブラ(15世紀活版印刷本)と、実は同時代の取り合わせなのである。東西の古書を向き合わせることで、浮かび上がるギャップが新鮮だった。

 次室は「百学連環」という語を創出した西周のノートを中央に、その周りを、さまざまな博物誌・博物譜・地理書・医学書等々が取り囲んでいる。最も興味深かったのは、オスマン期の世界地理書『世界観望の書』(1732年)。展示箇所には、手彩色の不恰好な日本地図が描かれている。解説によれば、版式は「活版、銅版」。テキスト部分は活字らしいが、見慣れないアラビア文字。いったいどこからどこまでが活字の1ブロックなのだか、皆目見当がつかない。嵯峨本みたいに、数文字が続きで1ブロックになっているのかしら?

 小休止の電子展示コーナーでは、「板目木版」「木口木版」(←この2つは微妙に違う)「石版」「銅版(エングレービング、エッチング)」の製作過程がビデオで紹介されていた。腐食剤を用いるエッチングが、工程的にはいちばん複雑であることはよく分かった。

 後半は、江戸の和本が中心。小石川植物園って、こんなにいい和本コレクションを持っているのか!とびっくり。『北越雪譜』や『江戸名所図絵』は、先日読んだ『続・和本入門』に出版までの経緯が語られていたのを思い出して、感慨深かった。「北越雪譜」は「越後国雪物語」として出してはどうか?とか、「雪志」より「雪譜」がいいとか、著者と出版者の間で、いろいろな攻防があったらしい。

 それにしても、日本の木版多色刷りの技術は優秀だなあ。もちろん西洋にはもっと高度な近代印刷術も生まれていたわけだが、とりあえず限定的な正確さで、視覚的な「概念図」を、狭い国土の住人に知らしめるには、低コストで小回りが利く木版印刷って、格好のメディアだったのではないかと思う。
コメント
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