見もの・読みもの日記

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忘れられたニュース/錦絵の中の朝鮮と中国(姜徳相)

2007-11-17 23:55:51 | 読んだもの(書籍)
○姜徳相(カン・ドクサン)『カラー版 錦絵の中の朝鮮と中国:幕末・明治の日本人のまなざし』 岩波書店 2007.10

 書店で、やたらと派手な表紙が目についた。本書は、朝鮮近現代史を専門とする著者が自ら収集した、朝鮮・中国にかかわる錦絵130点余りを紹介したものである。総カラー図版で、いずれも「錦」の美称に恥じぬ、鮮やかな色彩、奇抜な構図に目を奪われる。

 著者は「日本の歴史は幕末・明治の天皇制国家の都合に合わせて作り変えられた」という視点に立ち、幕末から明治にかけて、原始新聞あるいは新聞の副読本として広く国民に享受された錦絵は、「歴史書き換え」の一翼を担ったものと考えている。

 私は上記のような見解を真っ向から否定するものではない。しかし、本書のように、目の眩むような美麗な錦絵が並んでしまうと、あまり固定的な立場での解説は、読む気がしなくなる。とにかく絵を眺めよう。すると、いろいろな感想が湧き上がってくる。

 幕末期、日本の朝鮮に対する優越意識は「神功皇后の三韓征伐」を主題とする錦絵によって醸成・流布されていった。この最も古い例は、1815~1830年(文化、文政、天保)頃、歌川国安の作だという。ちょうど、最後の朝鮮通信使(1811=文化8年、ただし対馬に差し止め)と入れ替わりというのが、よくできている。でも、直ちに対外ナショナリズムの高まりがあったわけではなくて、 エキゾチシズムの流行とか、古代の発見とか、武(荒事)の復興とか、よく知らないけど、いろいろな文化史的文脈で考えられるのではないかと思う。国芳は加藤清正の朝鮮侵攻図を描いているけれど、これ、絶対、海と軍船を描きたかったんだと思うなー。絵師って、そんなものだ。

 明治期以降の錦絵(新聞錦絵)は、時事性、速報性が重視されるようになる。とはいえ、政府高官が歌舞伎役者見立てになっていたりして、微笑ましいものもある。私は、壬午軍乱から閔妃暗殺に至る一連の朝鮮の政変(日本軍が絡む)を描いた新聞錦絵が、こんなに多数、日本国内にあるとは思わなかった。朝鮮の近代化って、朝鮮一国の問題ではなかったのだなあ、と感じた。それにしても描かれている日本軍の制服が、SF戦闘アニメも真っ青なくらい、カッコいい。(白、黒、赤って、実際こんなに目立つ配色だったのか?)

 日清・日露戦争の時代になると、構図や技法がぐんと洗練を極める。『朝鮮豊島沖海戦之図』は、炎上する軍船の火柱が夜の海に照り映え、あやしくも美しい。兵士の躍動感を表現するために、ストップモーションのような構図も多用される。日本の軍人(特に将校)は、朝鮮人や中国人に比べて、体格を大きく(心なしか西洋人ふうに)脚も長く、威厳ある表情で描かれている。馬上の戦闘図はサマになっているが、軍艦などは稚拙さを感じるものが多い。まだ近代兵器を描ける絵師が少なかったのだろう。

 なお、著者はこれら錦絵の収集を桜井義之氏に倣って始めたという。その桜井氏の朝鮮錦絵コレクションは、東京経済大学図書館・デジタルアーカイブで閲覧できる。もう少し拡大された画像があると、なおよかったのだけれど。
 
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