見もの・読みもの日記

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暦の世界・江戸から近代/新宿歴史博物館

2006-02-14 12:41:34 | 行ったもの(美術館・見仏)
○新宿歴史博物館 企画展『暦の世界へ』

http://www.regasu-shinjuku.or.jp/46

 なぜに新宿歴史博物館で暦?と思ったが、それなりに理由がある。江戸の一時期、幕府の天文台は牛込にあった。また、大小暦という判じ暦流行の火付け役となった大久保巨川という旗本の屋敷も牛込にあったという。というわけで、主に江戸から近代にかけての「暦の世界」を、豊富な文献資料で紹介したもの。思った以上に面白かった。

 明治5年の年末に行われた太陽暦への切り替えが、全く突然のことだったとは聞いていたが、実際に、当時の弘暦者(暦師)の日録を読むのは初めてだった。同年11月12日は、まだ文部省からの御沙汰もなく、風説は悪説であろう、と述べている。ところが、翌13日、どうやら「実説」であることが判明。既に10月1日には、明治6年の暦(太陰太陽暦)を刷っていた弘暦者たちは困惑を極める。東京に使者を派遣しようと相談しているところ、17日に、正式に改暦が公布された。これで、半月後の12月3日が明治6年元旦だというのだから、そりゃあ混乱するだろうなあ。

 弘暦者たちが被った甚大な被害を補償するため、明治政府は、暦専売に関わる冥加金の徴収を、明治15年まで免除したらしい。これも初耳。

 また、改暦の前後、世上には太陽暦に関する啓蒙書が数多く出版された。中でも福沢諭吉の『改暦弁』は、たった6時間で書き上げられ、わずか2匁(7.5グラム)の小冊子であるにもかかわらず、たちまち数十万部を売り上げ、福沢の利益は千五百円に達したという(うーむ。漱石の坊ちゃんが六百円で3年間暮らしたのだから)。この小冊子が可笑しい。「日本国中の人民、此改暦を怪む人は必ず無学文盲の馬鹿者なり」って、そこまで言わなくてもいいじゃない、と苦笑してしまった。福沢先生って、何でもこういう語調でモノをいう人だったんだなあ、と思うと、逆に愛嬌を感じて好きになった。

 大小の判じ暦も面白かった。旧暦では、月の大小は一定でなく、翌年の暦に記載されて初めて知ることができる。月締め経済を原則とする江戸社会では、月の大小を間違えることは信用問題にかかわったという。なるほど~。その大事な情報を「判じ絵」というかたちで遊んでしまうところが、また面白い。

 また、近代の日めくりカレンダーの登場について「日本では暦を柱に貼り付けるという伝統があり」と書いてあって、おや、と思った。そうか、もしかして、欧米には「暦を壁や柱に掛ける」伝統ってないのかな。いろいろと興味深い展示会であった。

 なお、この博物館、常設展は有料だが、企画展は無料。良心的である。

■大小暦の謎解き(国立国会図書館)
http://www.ndl.go.jp/koyomi/nazo/01_index.html
コメント (3)
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