見もの・読みもの日記

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尽きせぬ魅力・シルクロード/江戸東京博物館

2005-04-30 23:33:28 | 行ったもの(美術館・見仏)
○江戸東京博物館『新シルクロード展~幻の都 楼蘭から永遠の都 長安へ~』

http://www.edo-tokyo-museum.or.jp/index.html

 連休初日は、近場で軽く遊んでおこうと思って出かけたら、つかまってしまった。シルクロードの遺品って、どうしてこんなに魅力的なんだろう。

 中国とかローマとかエジプトとか、強大な専制君主のもとで高度に洗練され、様式化された文明には、見慣れた安心感のようなものがある。一方、シルクロード(西域)の遺品は、記憶や様式の連続性を断ち切られて、どれもポツンと投げ出されたように現れる。そのため、かえって、個々のアイテムが強く印象に残るのだと思う。

 ニヤ遺跡出土の「霊獣文鳥形枕(れいじゅうもんとりがたまくら)」は、ギョーザのような形をした布製の枕だ。左右に伸びた長い房の片方に、鳥の目らしき丸い飾りが付いている。すぐに既視感がよみがえった。たぶん2002年に東京国立博物館で行われた『シルクロード―絹と黄金の道』展で見たのだと思う。

 「花卉文綴織袋(かきもんつづれおりぶくろ)」は初見だと思うが、とても印象的だった。ポシェットくらいの大きさの、小さな布袋である。地は褪めた青色で、真ん中をチロリアンテープのような小布が縦に飾っている。手提げの紐は赤の目立つ二色づかい。さらに袋のまわりを、さまざまな端切れが、八重の花びらのように華やかに縁取っている。

 解説に「現代の女子生徒が携帯電話に取り付けているいくつものストラップを連想させ、時代を超えた少女たちのお洒落心が伝わってくる」とあって、この謹厳な口調と、的確な比喩の取り合わせに、思わず微笑んでしまった。この解説、おいくつくらいの方が書いていらっしゃるのだろう。見識ある老先生が、若い弟子に「センセーこれって携帯のストラップみたいですよね」なんて示唆されて、つい書いてしまったとか。ちょっと想像を誘われる。

 西域の遺品には、死の匂いのするものが多い。今回も、木製のミイラ(何らかの理由で埋葬されるべき人物の遺体が手に入らなかったのではないか、と解説に言う)、ミイラの衣装、そして嬰児のミイラが展示されていた。嬰児のミイラは、赤い縁取りのある青のフェルト帽をかぶり、褐色の毛布にくるまれ、赤と青をねじった毛糸で丁寧に縛られていた。宗教上の理由に拠るのだろう、目と鼻は丹念に塞がれている。解説によれば、牛角製の杯と羊の乳房の皮を縫い合わせて作った哺乳器が一緒に埋葬されていたという。しばらく粛然として、かつて生命を持ち、死後もなお両親の変わらぬ愛情を注がれ続けた「物体」を眺めやった。

 男子ミイラ衣装は、袖の長い赤い衣、紫の袴、絹の靴下などから成り、顔を覆う白い塑造の面には、細い筆で眉、髭、閉じた目が描かれ、紅をさした唇は穏やかな笑みを浮かべているように見えた。

 唐突だし、不適当な連想かも知れないが、数日前に起きた列車事故のことを思い出した。テレビでは、連日、犠牲者とその家族の姿が報道されている。――死は悼むべきものだ。人間はこうやって、繰り返し、親しい人の死を悲しみ、悼んできた。それ以外に何ができるだろうか。そんなことをぼんやりと思った。

 一転して、中国ものでは、章懐太子墓の壁画「狩猟出行図」と韋貴妃墓壁画「献馬図」がすばらしい。さすがの洗練と力量を感じる。こういうのって、本場の中国に行っても、なかなか見られないんだよなあ。李憲墓出土の「拝跪文官俑」は類例を知らない珍品。小品「胡服女子俑」はきりりとした表情がカッコいい。
コメント (1)
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