見もの・読みもの日記

興味をひかれた図書、Webサイト、展覧会などを紹介。

将軍のアーカイブズ/国立公文書館

2005-04-12 23:25:32 | 行ったもの(美術館・見仏)
○国立公文書館 所蔵資料特別展『将軍のアーカイブズ』

http://www.archives.go.jp/

 土曜の午後、桜見物の人の波に揉まれながら、国立公文書館にたどり着いた。館内はけっこう混雑していた。どうせ花見ついでの冷やかし客ばかりだろう(無料だし)と思ったが、意外なことに、展示ケースに張り付くようにして目を凝らしている熱心な観客が多かった。

 国立公文書館は、江戸城内にあった紅葉山文庫をはじめとして、昌平坂学問所、塙保己一の和学講談所など、江戸幕府の諸機構から明治新政府に引き継がれた貴重な書籍を収蔵している。とはいえ、所詮、書物である。ときどきは昔物語の挿絵とか、精緻な本草の彩色図とか、見て楽しいものもあるが、文字が並んでいるだけの紙面がほとんどである。

 にもかかわらず、人々が惹きつけられるのは、どの展示品にも、歴史上の人物に結びつく、さりげないエピソードが添えられているためだ。関ヶ原の戦いの直前に家康が出版した「貞観政要」。吉宗が民生の安定のため意欲的に研究・閲覧した医学書。新井白石が経済改革の参考にしたと思われる明律の注釈書。綱吉が儒学の講義をするのに使った四書のテキスト、など。

 こうしたエピソードの多くは、紅葉山文庫の管理記録(御書物方日記)から判明するらしい。文庫の管理人には、さまざまな人材が名を連ねている。たとえば、エトロフ島の探検を行った近藤重蔵は、ひ弱な本の虫ではなくて、体力も実行力も持ち合わせていた。70歳の高齢で書物奉行となったのは青木昆陽。逆に30歳の若さで書物奉行となった高橋景保は、天文・地理学者で、オランダ語、満州語に通じ、蔵書にローマ字のサインを残している。う~ん、同時代の人々からは悪魔的な異能の人に見えただろうな。

 いや、それを言うなら、家康も吉宗も、文教政策にかけた意気込みはなかなか見上げたものだ。よく書物を集め、自分でもよく読んでいる。中国の皇帝に比べれば小粒だけど、最近の政治家など、彼らの足元にも及ばない。

 しかしながら、これだけの質量を誇るアーカイブズが今日に残されたのは、1人や2人の天才に拠るものではなく、本の出納、記録の作成、目録の編纂、虫干し、書庫の営繕など、日々の仕事を堅実にこなしてきた人々の努力があってこそである。彼らの平凡な後ろ姿が浮かぶような展示であった。多くの無名氏に感謝しよう。
コメント (1)
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