見もの・読みもの日記

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憧れの平家納経/東京芸大美術館

2005-04-27 00:10:12 | 行ったもの(美術館・見仏)
○東京芸術大学 大学美術館『厳島神社国宝展』

http://www.geidai.ac.jp/museum/news/news_ja.htm

 昨秋、立て続けに日本列島を襲った幾度目かの台風によって、厳島神社の社殿の一部が倒壊したのは、痛ましいニュースだった。台風一過の惨状を写真で見たときは、ただ呆然とした(毎日新聞動画ニュース 2004年9月15日)。さて、復興支援のための厳島神社国宝展が緊急企画されており、「平家納経が全巻公開されるらしい」という噂を聞いたのは、昨年暮れのことだった。

 えっまさか!ほんと? そのとき、私の脳裡には、豪華絢爛、精緻華麗な「平家納経」全33巻が、惜しげもなく全てを曝して繰り広げられる場面が湧き上がった。お大尽が呉服問屋で買い物するみたいなものだ。人生に二度はないかもしれない、この贅沢。ほとんど妄想に近い期待を寄せていたのだが、先行する奈良博での展示の詳細をよく読んだら、東京と関西で半分(17巻)ずつの展示であり、しかも奈良会場では5期に分けて常時5巻を展示します、って...おいおい、そんなの、ありかよ、と思った。

 ちなみに、各会場では「平家納経全33巻スタンプラリー」が行われていて、第1期+第2期のスタンプを集めると第3期の観覧料金は無料、さらに第4期までのスタンプを集めると第5期の観覧料金も無料になったらしいが、この特典を利用できた人は何人いただろうか。

 24日(日)は、憧れの平家納経は4巻しか出ていなかった。残念である。それでも、平家納経以外にも見るべきものはたくさんあった。厳島神社には、各時代の粋をきわめた工芸品が奉納され、伝世されている。舶来品も多い。中世の正倉院みたいなものだ。

 私はとりわけ、安徳天皇の遺愛品という伝承を持つ小ぶりな檜扇に惹かれた。茫洋と霞む野辺を背景に、小指の先ほどの小さな人物や車や牛馬が描かれている。パタパタと扇を折りたためば、人物のひとりひとりは板の間に隠れて、さびしい野辺の風景になってしまうだろう。そしてまた扇を開けば、にぎやかな野遊びの光景が戻ってくる...そんなふうに、幼い安徳天皇は遊んだのかもしれない。

 しかしながら、会場で最も印象深かったのは、昨年の台風の折の写真パネルだった。倒壊した左楽房の屋根が流れるのを防ごうとして、風雨の中、身の危険も省みず、必死で縄をかけている神職たちが写っていた。遠景には、上半身まで海に浸かった消防隊の人々の姿もあった。

 厳島神社の一日も早い復興を願ってやまない。また近いうちに、宮島に行ってみたいものだ。私は平家びいき(清盛びいき)なので、あそこに行くと、空間プロデューサーとしての清盛のセンスのよさを確認できて、たいへん嬉しいのである。平家の栄華は彼一代を頂点に終わってしまったが、この厳島神社の社殿と神宝類が、多くの人々に愛され、守り伝えられていることを思うと、清盛も以って瞑すべきであろう。

 ...隣の千畳閣もいいんだよね。
コメント (1)
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